秋元通信

リーダーシップの6つの形、今こそリーダーシップを再考する

  • 2022.7.29

「自分の給料分くらい、自分で稼がないとな!」──そう言って、自らハンドルを握り、運送を行う運送会社の社長がいます。
前職において筆者は、3000社以上の運送会社、倉庫会社を飛び込み営業で訪問しましたが、こういう社長って、トラック台数が10数台くらいまでの小さな運送会社にいがちです。
 
言葉は美しく感じるかもしれませんが、他の従業員たちと同じようにトラックを駆り、運送に従事するのは、経営者の役割ではありません。
 
なぜ、この社長は自らハンドルを握ろうとするのでしょうか。
今回は、リーダーシップについて考えます。
 
 
 

カリスマ型経営者にありがちな、破天荒型リーダーシップ

 
「大変なんだよ、社長に付いていくのは…」、このように語るのは、大企業からベンチャー企業に転職した友人です。
 
彼はもともと上場企業で執行役員まで務めた方です。60歳を過ぎたある日、友人は突然会社を辞め、A氏が立ち上げたベンチャー企業に転職しました。
 
50代なかばのA氏は、20代でベンチャー企業を立ち上げると、次々と新たなビジネスにチャレンジしました。すべてが成功したとは言いませんが、彼の会社は今や大企業となりました。
 
数年前、彼は突然社長を退任し、会社を別企業に譲渡しました。そして新たなベンチャー企業を立ち上げたのです。
 
私も、A氏のことは知っています。「一緒に仕事をしないか?」と誘われたこともあります。断りましたけどね。
 
理由は面倒だから。
アイデアマンであるA氏の脳内には、常に新しいアイデアで満ち溢れています。A氏は、そのアイデアの種を、ことあるごとにばらまきます。すると、側近たちが種の一つ一つを、「これは芽吹きそうだ」「これは実現するのが難しいから、そのまま放置しよう」と選別するわけです。
 
A氏には天才的なひらめきがあり、それがA氏をカリスマ足らしめています。
A氏のアイデアには、いつも感心させられます。させられますが、アイデアと実現性の間には、大きな隔たりがあるのが常です。アイデアが非凡なだけに、実現性との乖離も大きいのだともいえます。
 
さらに、A氏は朝令暮改(※朝に命令を出し、夕方に改める。命令がくるくるとすぐに変わって、一定しないこと)もしょっちゅうです。筆者がA氏の誘いを断ったのは、そういう人に付いていくのが面倒でもあり、怖かったからです。
 
でも、友人はA氏と人生をともにすることを決断し、転職してしまいました。
「大変なんだよ、社長に付いていくのは…」「ストレス溜まるんだよね」と言いながら、なんだか日々楽しそうな友人の姿を見ていると、「これもリーダーシップの形なんだなぁ」と想います。
 
 
 

ダニエル・ゴールマンによる「6つのリーダーシップスタイル」

 
ニューヨーク・タイムズ科学部のジャーナリストとして、行動心理学、脳神経科学に関する記事を長年担当していたダニエル・ゴールマンは、6つのリーダーシップスタイルを提唱しています。
 

  • 命令形
    リーダーは命令を出し、メンバーには遵守を強いる。
     
    →向いている組織
    メンバーに自主性がなく、短期的な成果を求められる組織
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  • ビジョン型
    部下に高めのビジョンを示し、達成方法の立案と実行は部下に任せる。
     
    →向いている組織
    メンバーのモチベーション、能力が高い組織。急成長中の組織。
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  • 調整型
    メンバーの自主性、能力を尊重し、メンバーとともに意思決定を行う。
     
    →向いている組織
    メンバーのモチベーションが高かったり、メンバー間の利害関係などによって組織内の関係性が良くないケースに向いている。
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  • 率先垂範型
    高い業務遂行能力を備えるリーダーが、模範を示しながらメンバーを牽引する。
     
    →向いている組織
    リーダーの能力が突出している組織、あるいはリーダーのモチベーションおよび能力がある程度高い組織など。実力を重視する組織にも向いている。
  •  

  • コーチ型
    部下の性格やスキルを把握し、自主性を促しながらポテンシャルを最大化する方法へと導く。
     
    →向いている組織
    メンバーとリーダーの関係が良好で、モチベーションも高いケ組織。短期的な成果を求められていない組織。
  •  

  • なかよし型
    リーダー自身の力不足を認め、メンバーに補ってもらいながら組織を運営する。
     
    →向いている組織
    メンバーの人柄や人間関係が良い組織。

 
 
 

それぞれのリーダーシップスタイルの是非

 
最初に申し上げると、いかなる組織にも共通する、最強のリーダーシップスタイルなど存在しません。
その上で申し上げると…
 
組織に与えられたミッションの難易度が高く、またミッションの遂行において、メンバーに心理的ストレスがかかるようなケースであれば、命令形、率先垂範型のような、牽引・独裁タイプのリーダーシップスタイルが有効となります。
スポーツチームなどは、その代表的な例でしょうね。特にナショナルチームなどは、国を代表し、勝利を掴み取ることが唯一かつ絶対的なミッションとなります。
 
そういった組織では、実力に乏しいリーダーはメンバーから信頼を得られません。また、ミッション達成へのストレスを、組織メンバーが乗り越えるためには、カリスマ的な牽引力が必要とされます。
 
一方で、命令形、率先垂範型の組織は、人間関係が悪くなることもあります。リーダーが絶対的な権力、支配力を持つため、パワハラ、モラハラ、セクハラなど、非道徳的な行動が発生しやすいとも言えます。
 
 
組織内の人間関係が向上していきやすいのが、調整型、なかよし型のリーダーシップスタイルです。
「和を以て貴しと為す」(人々が協調することの重要性を述べたことば)を地で行くスタイルですから、組織メンバー同士であつれきなどが発生する可能性も少なく、よって人間関係が向上していきやすいわけです。
 
一方で、調整型、なかよし型のリーダーは、リーダーとしての資質、魅力に欠けているとみなされてしまうこともあります。そのため、結果的にリーダーシップを発揮できない可能性や、別の人にリーダーの座を奪われる危険性もはらんでいます。
 
 
ビジョン型は、最近の感覚だと、リーダーシップスタイルというよりも経営のスタイルかもしれません。ビジョン、ミッション、バリュー(場合によってはパーパス)を示すことで、組織運営を行うスタイルです。
以前お届けした、OKR(Objectives and Key Results)は、ビジョン型リーダーシップスタイルにマッチした組織運営でしょう。
 
Googleやメルカリが活用!目標管理手法「OKR」とはなんぞや
 
 
コーチ型は、以前お届けしたサーバントリーダーシップが親しいかもしれません。
 
変わる「理想のリーダー像」、鬼滅の刃から診る現代社会が求めるリーダーシップ
 
ビジョン型にしても、コーチ型にしても、リーダーの素養に頼りすぎることなく、仕組みとして組織運営を上手に行うためのリーダーシップ論と言えるかもしれません。
 
 
 

そもそも、リーダーシップは何のため? 
 
企業の目的は、利潤の追求です。
「利益を追求するためには、合法的でありさえすれば何をしても良い」…とまで言うのは極端ですが、利潤の追求のためには、例えば人間関係などが犠牲にされる組織も良しとする考え方も、以前はまかり通っていたかもしれません。
 
ただし現在では、利潤の追求、すなわち組織そのものの目的達成のためには、組織を円滑に運営することも必要だと考えられるようになりました。これまた極論ですが、例えば1年間でメンバーの半分が入れ替わるような厳しい環境では、組織そのものが持続できず、かえって弱体化することが、経験則として認められるようになってきたのです。
 
実際、命令形、率先垂範型のリーダーシップを実践する組織では、短期的な成果は出ても、離職率が増加し、長期的には収益が下がることが観察されています。
 
このような組織論の変化に伴い、リーダーシップに求められる内容も変わってきたのでしょう。ビジョン型、コーチ型のように、組織メンバーの自主性、自律性を求めるリーダーシップが注目されるようになりました。
 
 
さて、冒頭のエピソードに戻りましょう。
破天荒型リーダーシップを実践する、カリスマ経営者A氏の場合は、命令形リーダーシップスタイルに分類されるのでしょう。
ただし、A氏の場合、彼についてくるのは、彼の過去の栄光と実績を知っている人が中心になってしまいました。つまり、彼についていくのは、中年以上のおじさんおばさんばかりで、A氏の威光が効かない若手には相手にされていません。
 
自らハンドルを握る運送会社社長の場合は…、これはリーダーシップなのでしょうか?
一見、率先垂範型のように見えるかもしれませんが、経営者としてやるべきことを見出せないために、自ら現場に逃げてしまう、ちょっと残念な方のように、私は感じます。
 
リーダーシップというのは、組織が順調に成長、もしくは運用されているときには、あまり重視されないこともあります。別の言い方をすれば、組織の成長や円滑な運用と、リーダーシップは必ずしも必要十分な関係にあるわけではありません。
ただし、景気悪化などの社会環境・マーケットが悪条件にあるとき、組織そのものが高齢化したときなどは、適切なリーダーシップの発揮が求められます。
 
VUCAの時代(ありとあらゆるものが刻一刻と変化し、将来が予測困難な状態であること)と呼ばれる今などは、まさにそういうタイミングかも知れませんね。
 
 
 

参考

 


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