「Amazonでは、社内会議の資料をPowerpointで作成することは禁止されている」
「Amazonの会議は沈黙で始まる。理想の会議は、そのまま沈黙で終わる会議である」
この手の記事が、ビジネスメディア界隈を賑わせたことがありました。
いくつかの記事内容を拾ってまとめると、こんな感じでしょうか。
- Amazonの社内会議資料は、Powerpointではなく、文書で作成することを求められる。
- 作成した会議資料を事前に配布することは禁止。
- 会議の最初の15分、会議参加者は資料を黙読する。
- 黙読中、質問は一切禁止。
それぞれの理由を解説しましょう。
1.について
Powerpointで求められる箇条書き的表現は、アイデアの奥行きを表現できない。
また、図形やイラストで表現される視覚効果は、むしろ会議参加者の理解における妨げとなる。
2.について
斜め読みして、理解したつもりになるから。
もしくは資料を読んだふりをして、実際は資料を読んでいない会議参加者がありうるから。
4.について
その質問の回答は、資料の後半に書かれている可能性があるから。
ちなみに、「理想の会議は、そのまま沈黙で終わる会議である」とは、作成資料に対し、何ら疑義なく、参加者全員が資料内容を承認すること(=議論が発生しないこと)が理想だという意味です。
これ、皆さまはどう思いますか?
Powerpoint大好きな筆者としては、なんとなく納得しがたいものを感じます。
Amazonのエピソードが話題になった頃、比較するように話題になったのが、トヨタの「紙一枚」です。
トヨタでは、企画書、会議資料、報告書、議事録など、ありとあらゆる資料を紙一枚でまとめる習慣がある、という話です。
紙は通常A4サイズで、企画書等の情報が多いものはA3でまとめると言われています。
トヨタの方は、会議の方法論というよりも、必要なことを的確かつ簡潔にまとめるための方法論として、話題になりました。
ざっくりと説明すると、内容については以下について、それぞれ簡潔にまとめます。
- 目的
- 現状
- 課題
- 対策
- スケジュール
それぞれの内容を枠で囲い、ひと目で俯瞰できるように作成するのがトヨタ流の「紙一枚」なんだそうです。
例えば筆者も、取材を申し込む際に作成する取材依頼書、記事企画書などは、A4一枚にまとめることを意識しています。ただこれは、初めて「取材させてください!」とラブコールを送る相手に対し、長々と書いたって読んでくれないだろうと考えてのことです。
なので、あらゆる書類を「紙一枚」にまとめようとすることはありません。そもそも、一枚では収まらないケースも多いですからね。
トヨタのように、紙一枚でまとめるということにこだわりすぎると、目的と手段が逆になってしまうこともあるでしょう。
トヨタの「紙一枚」は、Amazon方式と比べるものではないと、私は思います。そもそも「紙一枚」は、会議資料に限った話ではありませんし。
私がAmazon方式に違和感を覚えるのは、Powerpointをことさら悪者扱いする点です。
「Powerpointで求められる箇条書き的表現は、アイデアの奥行きを表現できない。
また、図形やイラストで表現される視覚効果は、むしろ会議参加者の理解における妨げとなる」
そうですかね?
むしろ、視覚効果によって、起案者の想いか伝わることもあるのではないでしょうか?
それに、文章というのは、書き手のテクニック次第で、伝わり方がずいぶんと変わります。むしろ文書──例えば、Wordで作成すること──にこだわりすぎることで、伝わりにくくなるケースもあるのではないでしょうか。
結局、会議資料作成に、Powerpointを使うか、それともWordを使うかというのは、ケースバイケースではないでしょうか。
ことさら形式にこだわるのは、やはり手段と目的が逆になってしまうケースがあると思います。
一方で、資料を会議中に黙読するのはとても良いですね。その理由は…
文章の生産性は恐ろしく高い。アナウンサーは10分に3000字も話す一方で、文字化すれば5分で読める。同様に60分の会議で発する情報は、10分目を通せば共有できる。情報は「文章で共有」し、「感情は同じ空間を使える場」で共有する。使い分けると最小限の時間で社内の情報格差をなくせそうです。
— 松下健|物流業界を変える (@optimind_ken) August 29, 2022
これは先日、オプティマインドの松下社長がTwitterに投稿していたものです。
オプティマインドは、宅配に特化した配車システム「Loogia」(ルージア)を提供する物流スタートアップです。佐川急便が「Loogia」を全国導入したことは、大きな話題になりました。
松下社長は、日々ご自身の経営哲学を投稿されており、筆者も勉強させてもらっているのですが。
この投稿を見て、「これだよ!」と、Amazonやトヨタのやり方に対するもやもやが晴れたように感じました。
例えば(ちょっと極端ですけど)100億円の売上を目指す、新たな事業を検討する会議のケースを考えましょう。
おそらくその資料は、数百ページにおよぶはずです。マーケティングから、採算シミュレーション、人員計画など、事業計画は網羅的に隙間なく積み上げられるものだからです。
ただし…、最終的に100億円の新規事業をやりきれるかどうかは、従業員と経営者の気持ちであるはずです。
だから、文章で必要な情報を伝えるシーンと、新規事業にかける想いを伝えるシーンは、松下社長のおっしゃるとおり、切り分けて考えるのがベターでしょう。
「情報は『文章で共有』し、『感情は同じ空間を使える場』で共有する。使い分けると最小限の時間で社内の情報格差をなくせそうです」というのは、会議における時間の使い方の効率化と、質の向上をともに実現できる優れた方法論であり、考え方でしょう。
毎回の会議を苦々しく感じている企業って、少なくないと思います。
報告する側の、下の立場の人たちは、レビューをする偉い人たちからの叱責を恐れる。
報告される側の、上の立場の人たちは、内容の薄い報告に苛立ちを感じる。
その原因は、もしかすると会議の進め方そのものにあるのかもしれません。
秋元通信でも、興味深い社内会議の方法論があれば、またご紹介しましょう。