秋元通信

新たな組織コミュニケーション手法、「1on1」(ワンオンワン)が注目される理由

  • 2023.1.18

筆者が、Web制作会社で働いていた頃のエピソードです。
当時の筆者は、上司とともにお客さま先で打ち合わせを行った後、ほぼ必ず一緒にカフェに立ち寄っていました。
 
ヘビースモーカーである上司が、打ち合わせ後の一服に筆者を付き合わせていたというのもあるのですが。
当時の私にとっては、この小一時間ほどのひとときがとても心地よく、そして実に有益な経験でした。
 
当時、私は営業兼Webディレクターを務めていました。
前職も営業だったので、業界も、売るモノも違うとは言え、営業については大きな問題はありませんでした。問題があったのは、Webディレクターの職務です。
なにせ、私はIT企業に勤めるのも初めてだったからです。
 
入社当時から、曲がりなりにも私が、Webディレクターとして活動できた理由は3つあります。

  • 周囲のサポートがあったこと。
  • 前職で事業企画を担当していたこと(ビジネスを創るという点では共通点があった)。

そして、3つ目が、この上司とのカフェタイムでした。
 
上司は外資系大手システム開発会社で営業もシステムエンジニアも務めていました。システム開発についてはプロ中のプロであり、打ち合わせ後にもらう上司からのアドバイスや、昔の経験談は、私にとってはとても貴重な学びとなりました。
しかし、このカフェタイムでは、どちらかと言えば、上司が私に話すのではなく、上司が私の話を聞いてくれることの方が多かった気がします。
私は、私の疑問や、私の考えを上司に話します。Web制作やシステム開発については素人の私ですから、そもそも私自身、私の疑問・悩み・意見・考えなどを、うまく説明できないことがたびたびありました。
上司は、そんな拙い私の言葉に耳を傾け、そして私自身では言語化できないことを、上手に言語化し、私に代わってブレインストーミングしてくれました。
 
あのカフェタイムがなかったら、今の私はないでしょうね…
それくらい、私にとっては大切なひとときでした。
 
 
 

呑みニケーションを学びの場とする上司と、苦痛の時間とする上司の違い

 
つい先日、あるお客さまの呑み会に誘われ、参加してきました。
食もお酒も進んだ頃、ある方が、自身の部下に対して、「君はさ、そもそも出世したいの?」と尋ねました。
 
やばいなぁ、とは思ったんです。
というのも、その方は、私に対しても、部下に対する不平不満を、時々口にすることがあったからです。
 
酒が口を軽くしたこともあったのでしょう。
その方は、自身が出世を志す理由を語り、対する部下の仕事に対する姿勢に対する不満を語り、やがてその言葉は説教になってきました。
 
こういうことをするから、職場での呑みニケーション(※酒席における上司と部下のコミュニケーション)は嫌われてしまうのでしょうね。
 
もちろん呑みニケーションでも、先の私のエピソードのように、部下が学びを得る場となることはあります。実際、私は、件の上司と何度も呑みに行きましたが、それもとても楽しく有益なひとときでした。
部下にとって、呑みニケーションが有益な場となるケースと、むしろストレスを溜める場となるケースの違いはなんでしょうね?
 
私は、上司のスキルであり、覚悟だと考えています。
スキルとは、部下を育てるための能力です。
覚悟とは、部下を育てるために、(アルコールの酔いにも負けず)最善のコミュニケーションを取り続けることをコントロールできる精神力です。
 
ただし、これって、組織論から考えると難しいです。
優秀な部下がいるように、優秀ではない上司が、どうしても生まれてしまうのも、組織の常。そして、コミュニケーション能力というのは、どうしても先天的な要素が関わってしまいます。
 
そこで、個人のスキルに頼らず、組織を円滑かつ、より多くの成果を生み出すために、さまざまなコミュニケーション手法が編み出されました。
そのひとつが、「1on1」(ワンオンワン)です。
 
 
 

「1on1」とは

 

  • 上司と部下が、一対一で面談を行う。
  • 目的は、「部下の育成」。
  • 「週に一回」から「月に一回」程度の比較的頻繁なペースで、定期的かつ継続的に行う。
  • 最長でも30分程度の短時間で行う。
  • 面談記録を残し、面談の継続性を保つ(テーマを細切れにしない)。
  • 大原則として、「上司が部下の話を傾聴する」こと。
  • 必要に応じ、上司は、部下の考えを言語化するサポートを続けること。

 
組織が成長するためには、個人(組織のメンバー)の成長が欠かせません。
だからこそ、上司は部下の育成に勤しむべきなのですが、先に述べたとおり、上司にも優秀な人とそうではない人がいる以上、上司の個人スキルに頼った部下育成手法では、安定的に優秀な部下を育成し続けることは難しいです。
 
以前ご紹介したOKRやジョブ型人材なども、組織成長、そして人材育成のためのテクニックです。
 
Googleやメルカリが活用!目標管理手法「OKR」とはなんぞや
 
日本型企業文化が終わる? 「ジョブ型人材」とは【前編】
 
1on1のメリットは、部下の成長だけではありません。
1on1を継続すれば、上司自身のコミュニケーション能力もアップしますし、上司自身の成長も見込めるでしょう。
部下との信頼関係も深まり、組織運営にも良い影響が期待できます。
部下としては、上司に定期的に話を聞いてもらえることで、モチベーションが向上することでしょう。
 
こういったメリットを求め、ヤフーをはじめ、1on1を制度導入する企業が増え始めているのです。
 
 
 

なぜ今、1on1が求められるのか?

 
冒頭にご紹介したエピソードのように、そもそも優秀な上司は、以前から1on1を行っていました。にも関わらず、そういったコミュニケーション手法に、わざわざ1on1とネーミングをして制度化しなければならない理由はなんでしょう?
そこには、組織運営も、さらに言えば企業経営も複雑化している今、上司個人の能力に頼ったコミュニケーション手法であり組織運営手法では十分な成果が期待できないという事情があります。
 
テレワークを導入し、上司と部下のコミュニケーション機会が減った企業などでは、私が経験してきたような、上司と部下の自発的なコミュニケーションが難しく、制度化してでもコミュニケーションの時間を設けなければならないという事情もあるでしょう。
 
ただし、すべてのものごと同様、1on1はオールマイティではありません。
企業の、あるいは経営者のメンタリティによっては、むしろ1on1を行うことで、組織運営に悪影響が生じるケースもあります。
 
 
次回は、1on1のデメリットと、1on1を行う前に企業に求められるコトについて考えましょう。


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