秋元通信

「あなたのやり方は間違っている」、もし新入社員や中途入社社員に指摘されたらどうしますか?

  • 2023.5.16

突然ですが、皆さまは、入社したばかりの新入社員、あるいは中途入社社員に「この会社のやり方は古い」「この組織の方針は間違っている」などと言われたことがありますか?
少しシチュエーションは違うのですが、筆者は似たような経験をしたことがあります。
 
当時、私は中部営業所から異動し、九州営業所の営業所長として赴任したばかりでした。
たしか赴任した翌日だったと思うのですが、中途入社3ヶ月目、20代半ばの女性社員(以下、Aさんとします)にこのように言われたのです。
 
「中部のやり方を九州に強制しないでください。九州には九州のやり方があるんですから」
 
生意気ですよね。
でも、Aさんには彼女なりの理(ことわり)があったのでしょう。そして、他の九州営業所所員たちも、口にはしないまでも、同じような不満(いえ、不安というべきでしょうか)を抱えていました。
 
 

大赤字の原因

 
当時の九州営業所は大赤字でした。
対して、中部営業所は全国TOPの営業成績を上げていました。
 
このことは、九州営業所所員全員が知っています。知っているからこそ、「成績優秀な中部営業所から異動してきた営業所長であれば、これまでの “九州流” のやり方が全否定されるに違いない」と思ったのでしょう。
 
赴任して最初の2週間、私は観察と分析に終始しました。
昼間は、既存の九州営業所所員たちの営業に同行し、帰社した後は、損益からタイムカードまで、あらゆるデータを集め、業務分析を行ったのです。
 
診えてきた課題は以下です。
 
 

定性的な課題

 
まず戦略と戦術が共有されていませんでした。
戦略──すなわち会社のビジョンと、そのビジョンをブレイクダウンした営業部の方針──が、所員たちに落とし込まれておらず、所員おのおのが好き勝手にやっていたのです。好き勝手にやっているので、もちろん戦術などありません。
 
Aさんに関して言えば、前職において、若いながらも立派な営業成績を上げていた実績がありました。さらに言えば、少なくとも九州営業所内で言えば、Aさんはトップセールスでした。
私から診ても、Aさんは優秀でした。ただその優秀さと、また前任の営業所長から過度に評価された結果として、増長していたのも事実でした。
 
 

定量的な課題

 
端的に言うと、営業コストが高すぎでした。
売上と、取り扱っている商品単価、粗利などを総合的に勘案すると、とうてい採算の取れない営業コストを投じていたのです。
 
当時、私の(つまり営業部の)仕事は、量販店向けに携帯電話を卸す仕事でした。九州営業所では、80店舗ほどの量販店との取引がありました。
その中で、重点的にフォローすべき店舗と、そうでない店舗の切り分けも、合理性に欠けていました。
 
一例を挙げましょう。
当時の量販店における携帯電話販売では、携帯電話代理店側が、販売員を店舗に派遣することが一般的でした。
そこで、前任の営業所長は、宮崎県日向市のある量販店に販売員を派遣していました。
たしかに日向市は、九州でも大きな商圏です。取引のあった店舗も巨艦店であり、販売員を派遣したくなる気持ちはわかります。ただし、前任所長は、なんと人材派遣会社に依頼し、福岡市から日向市まで、飛行機を使って販売員を通わせていたのです。
 
人材派遣費と交通費を合計すると、一日5万円以上のコストが掛かります。いくら日向市の店舗が大きいと言っても、このコストに勝るだけの売上はありません。
 
少し考えれば、分かることのはずですが。これが、Aさんが言うところの、「九州のやり方」だったのです。
 
この日向店の例は極端ですが、それまでのAさんを含めた所員たちのやり方は、「売上が上がりそうな店舗」を重点的にフォローするやり方でした。
「利益が上がるかどうか」というものさしは、持っていなかったのです。
 
 

「話せば分かる」は本当か

 
私は全所員を集め、これまでの九州営業所の課題と、これからの戦略と戦術を説明しました。
 
日向店のケーススタディを含め、課題を話しているときは、所員たちの表情は(いちおう、新所長を立ててはくれているものの)不満が見え隠れしていました。
 
具体的な戦術を話しているときは、反応がふたつに分かれました。
所員たちの中で、「そうは言っても」という不満をあらわにする者と、(どこまで納得しているかは別として)「なるほど…」という感心を見せる者がいたのです。ちなみにAさんは後者でした。
 
私の立案した戦術の中には、重点フォロー店舗の見直しがありました。営業コストを勘案し、利益が上がると考えられる店舗を重点フォロー店舗にピックアップしたのです。
もちろん、日向店は重点フォロー店舗から外しました。対して、これまでほとんどフォローしてこなかったような店舗を重点フォロー店舗にピックアップしました。
 
その上で、このように話しました。
 
「これまで九州営業所の営業成績がふるわなかった原因が、君たちの怠慢ではなかったことは、観察と分析の結果、よくわかりました。ただ、その頑張りが空回りしてきたことは事実です。
これは、前任の営業所長が適切な戦略と戦術を君たちに授けなかったことが原因です。
ですから、もし今後、九州営業部が赤字を脱却しなかったら、それは私の責任であって、皆さんの責任ではありません。
だから私を信じてついてきてください」
 
後日、Aさんに営業同行した際、Aさんはこんなことを言い始めました。
 
「所長(=筆者)についていけば、九州営業部は黒字化するんですよね。安心しました…」
 
Aさんも不安だったのでしょうね、自分たちの頑張りが、結果につながっていないことに対して。
そして、Aさんはたしかに優秀ではありましたが、それは同年代の人たちと比較しての話です。まだ若いですからね。経験も知識も、そして知識を知恵に変えて行動する実践力も、Aさんはまだまだ足りていませんでした。
 
「どうせ、前任の営業所長からは、『今はまだ結果が出ていないだけだ。このまま頑張れば、きちんと結果はついてくるから』とか言われていたんだろ?」
 
「…、はい、そうです。『大丈夫かな…?』とは感じていたんですけど…」
 
ただし、私のやり方(Aさんが言った「中部のやり方」)に反発した者もいました。Aさんは残りましたが、私のもとを去っていった所員もいたのです。
 
 

既存のやり方にダメ出しをする新入社員&中途社員の言い分

 

  • 在学中、あるいは前職において身に付けた知識から勘案し、「既存のやり方」が不合理に感じている。
  • 「既存のやり方」に対し、不満や不安を感じている。
  • 組織、あるいは会社に対し、不満や不安を感じている。
  • 「既存のやり方」を執行するにあたって、ストレスを感じている。
  • 自分自身に、過剰な自信を持っている。

 
先のエピソードに拠らず、「既存のやり方」に対し、新入社員や中途社員がダメ出しをする背景には、こんな心理がひそんでいると考えられます。
 
もし、新入社員・中途社員が、「既存のやり方」に対し、ダメ出しをしてきた場合には、まず彼ら彼女らの言い分を聞くべきでしょう。
このようなケースでは、つい「こいつ生意気だな!」「新人のくせに、何がわかっているんだ!?」と頭ごなしに否定しがちです。
 
しかし、彼ら彼女らの言い分に、きちんとした正当性がある場合や、組織・会社側に問題がある場合もあります。また、こういった主張をしてくる人は、優秀である場合もあります。頭ごなしに否定し、辞められてしまうのはもったいないです。
 
ただし一方で、当人の素養に問題がある場合も想定しておく必要はあるでしょう。
他責傾向が強すぎて、他者の意見を聞くことに強い抵抗を感じるタイプである可能性もあります。
 
また、「『既存のやり方』を執行するにあたって、ストレスを感じている」人も要注意です。
筆者のエピソードにおいて、私のやり方に従ってくれたAさんとは別に、辞めた人もいたと言いました。そのうちのひとりは、私にこのように言ってきました。
 
「今まで担当してきた店舗や量販店に対し、『あなたの店は儲からないので、これまでのようなフォローはできません』と言えということですよね。そんなこと、できるわけないじゃないですか」
 
要は、「変わる」勇気を持てず、業務上必要な交渉を行うストレスに耐えきれなかったのです。
 
 
以下、先のエピソードにおける余談です。
ちなみに、私は九州営業部に異動する1年前、九州営業部にいました。
また、私の前任の営業所長は、中部営業部から私と入れ替わりで異動した人です。
 
中部営業部は、取引先も多く、誤解を恐れずに言えば、「たくさんの営業コストを投じて、たくさん儲けること」、言わば「ハイコスト・ハイリターン」ができる営業所でした。対して九州営業部は取引先の数も限られており、マーケットの規模も中部ほど大きくはありません。したがって、「ローコスト・ローリターン」を行わざるをえない営業所でした。
 
Aさんは、私に「中部のやり方を九州に強制しないでください」と言ったものの、実は行っていた(そして失敗していた)のは、中部のやり方だったわけです。
 
とは言え、Aさんのような先達のやり方に従わないような人に対しては、今回ご紹介したような「その人やメンバーに対する個別説得」だけではなく、一般論として先達のやり方を尊重する意識を学んでもらうことも必要になります。
 
 
次号では、そのヒントとなる「守破離(しゅはり)」についてご紹介しましょう。
お楽しみに!
 
 


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