秋元通信

ジェンダーフリー、SDGs、障がいを持つ人との共生社会の実現…、多様性教育の現状を探る

  • 2024.11.22

 3年前、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が主催した、4大学合同ロジスティクス・SCM研究発表会を取材したことがありました。これは、日清食品が提示した「日清食品がホワイト物流をさらに進めるために ──持続可能なサプライチェーンを目指して──」というお題に対し、大学生が研究発表を行うというものでした。
 
この発表会において、ある大学生が、「私たちは、二酸化炭素を排出しまくるような企業では、絶対に働きたくないんです」と発言しました。
 
 この発言、筆者はすごく驚きました。
 というのは、50代の筆者にとって、二酸化炭素排出量削減・地球温暖化対策というのは、「やらなければならない」、つまり論理的・倫理的に捉える問題です。
 一方で、この大学生は、二酸化炭素排出量削減・地球温暖化対策を感情論で語りました。
 
 強烈なジェネレーションギャップを感じましたね。
 それくらい、この大学生にとっては、二酸化炭素排出量削減・地球温暖化対策は切実なものとして感じているのでしょう。
 
 こういった若年層と中高年層の意識の違いは、企業経営においても影響が出る可能性があります。場合によっては、このジェネレーションギャップが、愛社精神の世代間格差を生じさせ、離職率を高めてしまう…、なんて可能性も否定できません。
 
  同様のことは、二酸化炭素排出量削減・地球温暖化対策のような環境問題だけではなく、ジェンダーフリー、SDGs、障がいを持つ人との共生社会の実現といった文脈(以下、便宜的に本記事では「多様性」と呼びます)でも発生する可能性があります。
 
 
 

多様性を持つキャラクターが登場する子供向けコンテンツ

 
 最近、筆者は娘とともに子ども向けのTV番組・アニメを見る機会が増えました。そこで気がついたのが、多様性を持つキャラクターが、幼児向けのコンテンツで多数登場していることです。
 
 いくつか、例を挙げましょう。
 

  • きかんしゃトーマス
    イギリス生まれの名作ですね。機関車のトーマスを中心に、個性豊かな機関車・電車などのキャラクターが巻き起こす日常の出来事が紹介されます。
    もともとは人形劇でしたが、3Dアニメーションを経て、現在は2Dアニメーションで最新シリーズが放送されています。
     
    この作品では、自閉症のブルーノというキャラクターが登場します。
    ブルーノはブレーキ車なので、トーマスら機関車といっしょに働きますが、元気いっぱいすぎるトーマスらが騒ぎ始めると、蒸気らしきもので作ったイヤーカフを装着し、音をシャットダウンします。
     
    またブルーノは、「人と目を合わせないで話す」「自分の好むことに対し、深い知識を備えている」といった自閉症の特徴をもったキャラクターとして描かれています。

 
 

  • パウ・パトロール
    6匹の子犬と10歳の少年を中心に結成された「パウ・パトロール」というチームが、街で発生するさまざまなトラブルを解決するというアニメです。
     
    パウ・パトロールのサブメンバーとして登場するレックス(犬種は、バーニーズ・マウンテン・ドッグ)は、足が不自由らしく、犬用の車椅子を使っています。しかし、レックス専用のビークルや道具を駆使し、健常者の犬たちよりもはるかに敏捷な動きで大活躍します。

 
 

  • おかあさんといっしょ
    今年で放送開始から65周年を迎える、NHK Eテレの…、というか、日本における幼児向け老舗番組です。
     
    「ファンターネ」という番組中の人形劇では、多様性を備えたキャラクターが登場します。
     
    マーキーというカマキリのキャラクターは、幼少期の怪我が原因で車椅子を常用し、Youtuberとして活動しています。
     
    やころというキャラクターは、ひょうたんの精霊(のようなもの?)なので、性別がありません。ジェンダーフリーということですね。ちなみに、種から生まれたので、親に育てられた経験もないという設定です。

 
 また、NHK Eテレに登場する、SDGsを学ぶ子ども音楽ユニットには、過去にはハーフの女の子、ダウン症の女の子が、現在は、車椅子を使っている男の子が参画しています。
 
 
 

小学校・中学校の道徳教育における多様性の扱い方

 
 子供向けのアニメや番組でこれだけ多様性を盛り込んでいるということは、小学校や中学校の教育でも、同様に多様性に関する話題が頻繁に取り上げられているのでしょうか。
 
 疑問に思った筆者は、小学生・中学生向けの教科書を確認することにしました。
 ちなみに小学生・中学生向けの教科書は、都道府県が設置している教科書センターにて、誰でも閲覧することが可能です。
 
 筆者は、練馬区で採用されている光村図書の道徳の教科書を中心に確認を行いました。
 
 小学2年生用の道徳の教科書には、「およげないりすさん」というショートストーリーが掲載されています。この話は、「りすさんはおよげないから、だめ」と言って、あひる、亀、白鳥の3人が、リスを仲間外れにして、池の中央にある島(※泳げないりすはたどり着けない)で遊ぶものの反省し、翌日、亀の背中にリスを乗せて島に渡って、めでたしめでたし…、という話です。
 
 教科書中では、物語とは別に、児童たちに考えてもらうヒントとして、「自分とちがうところがあっても、なかよくすることの大切さについて、考えましょう」と書かれています。
 
 小学3年生用の道徳の教科書には、「目の前は青空」というショートストーリーが掲載されています。この話は、遠足で登山に行った際に、登るのが遅い友だちに対する配慮の大切さを訴える内容です。
 
 またユニバーサルデザインについても紹介されています。
 
 「子どもから大人、おとしよりや体の不自由な人などできるだけ多くの人が使いやすいように工夫して作られたものがありますこのようなものの作り方をユニバーサルデザインといいます」という説明とともに、ユニバーサルデザインの例として、シャンプーとリンスの容器(※目の不自由な方でも、手で触って区別がつくように、シャンプーの容器には、きざみがあるものがあります)、握力の乏しい方でも使えるように配慮されたハサミ、幅の広い自動改札機、多目的トイレ、街なかに設けられた車椅子などのためのスロープなどが紹介されています。
 
 小学4年生用の道徳の教科書には、SMAPの「世界に一つだけの花」の歌詞が掲載されています。この歌こそ、多様性の大切さを歌った名曲ですから。やはり教科書には掲載されているんですね。
 
 他にも、4年生の教科書には、点字ブロックをテーマにしたショートストーリーやヘルプマークの紹介、パラリンピアンの谷 真海さんのインタビューが掲載されています。
 4年生の教科書に対する全般的な印象としては、「感じること」「知ること」から脱却し、より児童自身に考えさせるようなつくりになっていると感じました。
 
 
 小学5年生用の道徳の教科書では、地球温暖化などの環境問題も登場します。
 また、ハンセン病患者の話が掲載されていることには驚きました。今や、教科書にも掲載されているんですね。他にも、国枝慎吾さんのインタビューも掲載されています。
 
 小学6年生になると、道徳の教科書も、(表現は悪いですが)「子供向け」「子供だまし」ではなく、大人が読んでも読み応えのある内容になっています。
 「僕の名前を呼んで」というショートストーリーは、肺腑(はいふ)を突かれる、強烈な内容でした。
 
 両親がふたりとも聴覚障害で耳が聞こえない主人公(※健常者)の男の子は、ある日、クラスメートと喧嘩になります。すると、相手から「やあい、おまえ、父ちゃん母ちゃんから、一度も名前呼ばれたことないだろう。これからもずっと呼ばれないぞ。いい気味だ」と言われます。
 
 主人公は、それまで「名前を呼ばれないこと」を意識したことがありませんでした。しかし、そのことを指摘され、そして初めて「名前を呼ばれないこと」に猛烈な悲しみを感じました。
 
 帰宅した主人公は、父に対し手話で自分が経験したこと、自分が今感じている悲しみを訴えます。父は、主人公に対し、妻(※主人公の母)とともに、「君の声が聞きたい」とずっと思っていたことを、涙ながらに伝える…という話です。
 
 
 他にも、黒人の公民権運動で活躍したマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)のエピソードも掲載されています。
 
 中学生向けの教科書では、SDGsが紹介されていたり、再びユニバーサルデザインが紹介されていたりもするのですが、どちらかと言うと多様性をテーマとしたコンテンツは少し少なくなり、インターネットとの適切な関係性や、いじめ問題を取り上げているコンテンツが増えているように感じました。
 
 障がい者に対する法定雇用率が法制化されたり、あるいは企業経営にもジェンダーフリーに配慮することを求める社会要求が高まるなど、社会は多様性を認める方向へと大きく舵を切っています。
 
 
 繰り返しになりますが、中高年層における多様性に対する認識は、多くが論理的・倫理的な観点を起点としているのではないでしょうか。一方で、幼少期から多様性について触れている若年層は、端的に、そしてお叱りを恐れずに述べると、「おじさん・おばさんの語る『多様性』って、どこか薄っぺらいんだよね」と感じる可能性があります。
 
 このようなジェネレーションギャップの可能性があるということを、中高年層は知っておくべきだと、筆者は考えます。
 
 今回、筆者が調査したのは、あくまで今現在使用されている教科書が対象です。
 
 過去に遡って、「多様性教育がいつ頃から始まったのか?」まで調べたわけではありませんので、多様性を巡るジェネレーションギャップに、中高年層がさらされるのは、10数年後かもしれないことは、付記しておきましょう。
 
 
 以下、余談です。
 
 最近の教科書って、すごく良くできています。実は社会や理科の教科書も拝見したのですが、読み物としての完成度、コンテンツの選択眼など、筆者が小学生・中学生だった頃とは、似ても似つかぬ教科書になっています。
 
 言ってみれば、似ているのはムック本でしょうか。
 ムックとは、雑誌(magazine)と書籍(book)から生み出された和製英語のこと。雑誌と書籍を良いとこ取りした本のことをムック本と呼びます。
 
 時間を見つけて、また教科書を閲覧しに行きたいと考えています。
 
 
 


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