
生成AI「Gemini」に、「M&Aをイメージした画像を生成してほしい」とリクエスト、生成された画像です。
なんか、違うような…
こんな記事が話題になっています。
この記事は、ニデックから「同意なきTOB」を仕掛けられた工作機械大手 牧野フライス製作所の従業員(と思しき人)が、一連の騒動を語っているものです。
参考
詳しくは、先の記事をご覧いただきたいのですが。この匿名の牧野フライス製作所従業員は、以下のように複雑な心境を明かしています。
- 牧野フライス製作所の培ってきた企業文化への誇りと、その大切にしてきた企業文化が、ニデックによってないがしろにされるのではないかという懸念。
- そもそもニデックが掲げる「世界ナンバーワン」という目標が、牧野フライス製作所の企業文化と相容れず、またTOBによる効果も期待できないのではないかという違和感。
昨今、M&Aが広く行われるようになりつつあります。
物流業界でも、話題になっています。
本稿では、「M&Aと企業文化」を考えます。
※注記
本稿は、先の牧野フライス製作所 匿名従業員による記事を批判するものでも、あるいはニデック / 牧野フライス製作所間のTOB問題を論じるものでもありません。
匿名従業員による記事を最初に紹介したのは、「買収を仕掛けられた側の従業員が抱く、自社企業文化への想い」が高い解像度で示されていたからであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
筆者がお付き合いしていた企業(A社とします)は、敵対的TOBを仕掛けられて、あるファンドが親会社となりました。
A社では、創業者の哲学が、特に中堅~上層部の従業員に対し浸透していました。自社の企業文化に誇りを持っている従業員も多くいました。
買収が成立してから、特に中堅以上の従業員が、ポツポツと辞め始めました。
「ウチの会社、変わちゃったんですよ。仕方ないんでしょうけど…」、ある方は、筆者にこのように語って辞めていきました。
ただ、A社については、そもそも敵対的TOBを仕掛けられる前から、業績が悪化していました。このことを踏まえると、「そもそもTOBうんぬんとは関係なく、A社は、企業文化を再考するべき時期に来ていたのではないか?」と筆者は感じています。
端的に言えば、企業の目的は利潤の追求であって、企業文化もこの目的に貢献することが求められます。もし、企業文化が、業績悪化の一因となっているのであれば、当然見直されるべきでしょう。
M&Aを行った側の従業員から聞いた話です。
買収された側の会社(B社とします)は、買収時に「吸収合併後も、当社の企業文化を尊重して欲しい」と買収した側の会社(C社とします)にお願いしてきたそうです。
このことは、吸収合併を不安に感じている、B社従業員にも伝えられました。
「いや、だからといって、以前のやり方を無理やり通そうとされても困りますよね」、C社従業員からは、こんな声も挙がったそうです。
このC社従業員いわく、「それって企業文化なの?」ということでも、B社従業員から反発されることがあるとのこと。
「『交通費の精算期限を守ってください』って注意したら、『がんじがらめのルールを強要するよりも、融通の効く弾力的なルール運用がB社の企業文化でした』って言われるんですよ。おかしくないですか??」と、このC社従業員はため息をつきます。
文化は、明文化されたものではありません。
これは企業文化も同様です。
「吸収合併後も、当社の企業文化を尊重して欲しい」と訴える気持ちは分かりますが、その対象となる概念があいまいであれば、尊重もできません。
さらに言えば、そもそも尊重するに値しない、あるいは継承するに値しない企業文化もあるでしょうから。
M&Aでまず守らなければならないのは、企業価値の向上、従業員の安全と安心、そして顧客の利益ではないでしょうか。この3つと比較すれば、企業文化継承の優先度はかなり落ちます。
ただし、このことをきちんと双方が理解していないM&Aでは、痛みが生じることを必要以上に恐れてしまうケースも耳にします。そのあらわれのひとつが、企業文化の尊重という、あいまいな要望ではないでしょうか。
昨今広がるM&Aを見ていると、買収される側、買収する側ともに、M&Aに対する知識や理解、そして覚悟が足りていないケースが多いのではないかと懸念します。
特に未上場の中小企業が対象となるM&Aでは、これらの不足が原因となって、不幸な結果を生んでしまうケースが見受けられます。
呉越同舟とまでは申し上げませんが、異なる企業の、異なる社風や人と相対すれば、どうしたって多かれ少なかれ痛みは生じます。企業文化の継承を、声高に叫ぶのは、時として痛みを生じさせている傷に対し、さらに塩を塗り込むような行為にもつながりかねません。
最近では、事業承継の課題を抱えていたり、あるいは事業継続のモチベーションを保てない経営者が、逃げの手段としてM&Aを選ぶケースもあります。
流行り(とあえて厳しい言い方をします)に流されず、またM&Aに安直な期待をせず、より広い知識を備えたいものです。