親が、自身の子どもに関する情報や画像などを、SNSやブログなどで公開することをシェアレンディングと呼びます。
例えば、以下のような行為が、シェアレンディングとみなされます。
- 子どもの写真や動画をSNSに投稿する。
- 子どもの成長記録をブログに書く。
- 子どもの名前や年齢、学校などの個人情報をオンライン上で公開する。
- 子どものプライベートなエピソードをインターネット上で共有する。
今回は、シェアレンディングの課題を考えましょう。
以前、知人女性のInstagramを見ていて、すごくモヤモヤとした気持ちを感じたことがあります。
というのもこの知人、お子さんとの日常を頻繁に投稿しており、投稿の内容自体は微笑ましいものなのですが、自身の顔はスタンプで隠すのに、お子さんの顔は、そのまま投稿しているからです。
あまりに気になったので、筆者は知人に直接、このことを問いました。
すると、このように答えたのです。
「いや、子供の顔って成長につれて変わるから、問題ないでしょう?」
別の知人女性のエピソードです。
この知人は、本当に小さい頃からお子さんの画像をFacebookにアップしているのですが、中には一般的には「汚い」と思われてしまうような画像もアップしています。
鼻水を垂らした様子、離乳食で口の周りをベタベタにしている様子…
こういった様子も含め、親からすればかわいいと感じる画像であることは分かるのですが。こちらの知人は、(直接聞いたわけではありませんが)公開投稿にしていない(友人のみしか閲覧できない公開権限に設定している)ことから、問題はないと考えているようです。
シェアレンディングは、英語の「overshare(過剰にシェアすること)」と「parenting(子育て)」を組み合わせた造語で、2010年にアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが生み出したとされています。
近年、SNSの普及に伴い、誰でも手軽に情報発信できるようになったことで、シェアレンティングは急速に広まっています。
シェアレンディングは、以下のような問題を指摘されています。
- 子どものプライバシー侵害
- 個人情報の漏洩
氏名、年齢、住所、学校名などの個人情報を含む写真や動画を安易に公開することで、子どもの身元が特定され、犯罪に巻き込まれるリスクが高まります。 - ネットいじめ
インターネット上で公開された情報が、子どもの容姿や行動を揶揄する材料として使われ、ネットいじめに発展する可能性があります。 - デジタルタトゥー
一度インターネット上に公開された情報は、完全に削除することが難しく、将来的に子どもの就職活動や人間関係に悪影響を及ぼす可能性があります。 - 自己決定権の侵害
子ども自身が情報公開について同意していない、あるいは理解していない段階でのシェアレンティングは、子どもの自己決定権を侵害する行為と言えます。
- 親子の関係悪化
- 信頼関係の崩壊
子どもが嫌がる情報を一方的に公開することで、子どもは親に対して不信感を抱き、親子関係が悪化する可能性があります。 - 子どもの人格形成への影響
親の承認欲求を満たすための道具として子どもが扱われることで、子どもの自己肯定感が損なわれたり、健全な人格形成が阻害される可能性があります。 - 将来的な葛藤
子どもが成長した後に、過去のシェアレンティングによって公開された情報を知り、親に対して嫌悪感や怒りを感じてしまう可能性があります。
- その他
- 誘拐などの犯罪
子どもに関する情報がインターネット上に公開されることで、誘拐などの犯罪に巻き込まれるリスクが高まります。
SNSが人気である理由のひとつは、自己承認欲求を満たすことができるからです。
つまり、子どもの画像をSNSに投稿する──シェアレンディングを行う──親は、自身の自己承認欲求を満たすために、子どもという、ウケが良いコンテンツを利用していることは否定できません。
つまり、子どもの気持ちを置き去りにして、まず自身の欲望を満たす行為が、シェアレンディングと言えます。
とは言え、親としてはかわいい我が子の画像をSNSに投稿したくなるもの。
SNSに子どもの画像を投稿することを、すべてNGというのもしんどいです。
では、どこまでならOKで、どこからがNGなのでしょうか?
この境界線は、実はとても曖昧で、一概に「ここまでは大丈夫」と断言することは難しいのですが…
- 子ども自身の立場に立って考える
特に子どもがまだ幼い場合は、将来子どもがその写真を見た時にどう感じるかを想像し、子どもの立場に立って、SNSに投稿してよいのかどうかを判断したほうがよいでしょう。 - 子どもの同意を得る
ある程度年齢のいった子どもの場合は、本人に同意を得ることが必須です。
ただし、子どもは成長に伴って(特に思春期)、考え方・感じ方が変わります。「いや、前はOKだって言ったのに…」ではなく、そのときの子どもの気持ちに寄り添うことが大切です。 - 個人情報を特定できるモノ・コトを避ける
氏名、年齢、住所、学校名、幼稚園・保育園名などの個人情報は、公開しない・投稿しないことが原則です。
スマホの設定によっては、撮影画像に自動的に位置情報が記録されます。この設定はオフにしておきましょう。 - 子どもに不利益を与える可能性のある情報は避ける
恥ずかしい思いをする可能性のある写真や動画、プライベートなエピソードなどは、公開を控えましょう。
子どもが将来、その情報を知って傷つく可能性も考慮する必要があります。 - 過去の投稿も見直す
過去に投稿した写真や動画についても、現在の視点で見直し、問題があれば削除または非公開にするなどの対応を取りましょう。
子どもの成長に伴い、プライバシーに関する考え方も変化していく可能性があります。 - 迷ったら、公開しない
これ、とても大切です。
少しでも迷ったら公開しないこと。「君子危うきに近寄らず」といったところでしょうか。
シェアレンディングが注目されるようになった背景には、SNSの普及をはじめとする複数の要因があります。
SNSによって、インフルエンサーという新たなタイプの有名人が多数生まれました。
インフルエンサーは、芸能人でもなんでもない素人が、芸能人並み、あるいはそれ以上に注目を集めることができる存在へと成り上がることができます。
TVでは、結婚・出産を経て、子育てについての情報発信を行うママタレというカテゴリが確立していますが、シェアレンディングは、ママタレやインフルエンサーに憧れる素人がやりすぎてしまった結果、シェアレンディングに至るケースもあるでしょう。
もうひとつ、シェアレンディングの背景にあるとされているのが、子育ての孤立化です、
孤独な子育ての苦しみや葛藤から逃れるための手段として、子どもの画像や情報を過剰にSNSなどで公開してしまった結果、シェアレンディングに至る経緯が報告されています。
かつては、大家族や地域社会の中で子育てが行われていました。
しかし昨今では、核家族化や地域社会の希薄化が進んだ結果、親がひとりで子育てを抱え込み、孤立してしまうケースが問題となっています。
祖父母や親戚、友人など、子育てを手伝ってもらったり、あるいは相談できる人が、近くにいないケースもありますし、転勤などによって、知人すらもいない状況で、子育てをしなければならないケースもあります。
パートナーが子育てに協力的でなく、また相談にものってくれないため、孤独感を深めてしまうケースもあります。
ママ友・パパ友が見つからず、あるいはいるけれどもトラブルになってしまい、孤立化するケースもあります。
こういった状況が子育ての孤立化を生み、その心理的なはけ口としてシェアレンディングに走ってしまうのです。
SNSは、優れたコミュニケーションツールではありますが、一方でさまざまな課題も生んでいます。自己承認欲求のとどまることのない拡大と、これに飲み込まれてしまう人の存在は、その最たるものです。
ただし、シェアレンディングをする人の中には、子育てにおける苦しさや寂しさ、孤独感から逃れるため、本人も望まない形で、シェアレンディングの境界線を超えてしまう人もいることは、知っておいて欲しいものです。
もし、身近でシェアレンディングの傾向がある人を見たのであれば、「やり過ぎだよ…」と批判・非難するだけではなく、「もしかしたら、子育ての孤立化のようなストレスを抱えているのかも?」と寄り添ってあげることも大切なことでしょう。
※補足
シェアレンディングは、シャレントと呼ばれることもあります。
シャレントは、「シェア(共有)」と「ペアレンティング(子育て)」の造語であり、シェアレンディングと同じ意味で使われます。