改正物効法によって、来春(2026年4月)より特定荷主らに専任が義務付けられる「CLO」(Chief Logistics Officer / 物流統括管理者)が話題になっています。
「CLOって何をする役職なの?」
「CLOを専任するために今から準備しなければならないことは?」
「CLOに求められるスキルは?」
「どんな人をCLOにアサインすればいいの?」、等々…
改正物効法において、CLOは物流の効率化を図るための「中長期的な計画」の責任者として位置づけられています。一方で、CLOが果たすべき「荷主企業における物流やサプライチェーンの効率化・最適化」という役割については、「それってCLOだけじゃ無理だよね…」という現実的な議論も行われるようになってきました。
そんな中、一般社団法人フィジカルインターネットセンター(JPIC)は、「LPD」(Logistics Producer)なる新たな概念であり、人材像を提唱しました。
今回はJPICが提唱するLPDをご紹介するとともに、その課題も考えていきましょう。
今年6月末にJPICが開催した「CLOカンファレンス2025」において、JPICはLPDについて以下のように説明しています。
- 法改正への「受け身」の対応では、ピンチにしかならない。「CLOを中心にSC(※サプライチェーン)の構造改革を行うチャンス」と捉えるべき
- 一方で、「荷主企業」の対応だけでは限界がある
- CLOと対等に議論、交渉できる「視座」「職務権限」「能力」を有した、「CLOのパートナー」となる物流事業者・サービスプロバイダーの経営層が「LPD(ロジスティクス・プロデューサー)」
LOGISTICS TODAY記事において、JPIC事務局長 奥住智洋氏は、LPDについて以下のように語っています。
- 単なるオペレーションの請負ではなく、経営者視点を持って提案・構想を描ける人材こそがLPD
- LPDには、現場への理解と同時に、戦略提案力、ネットワーク構築力、そして何より“対話の責任”が問われる
「CLOひとりで物流・サプライチェーン改革ができるわけがない」「だから物流事業者側にもCLOのパートナーとして、ともに改革を推し進めていく人材が必要」という理屈は分かりますし、説得力もあります。
しかし、LPDには課題もあります。
- 適任者がいるかどうか?
そもそも、CLOに関しても「CLOという高度物流人材に該当する人材が、日本国内に何人存在するのか?」という疑問が挙げられます。
LPDには、CLOと同等か、あるいはそれ以上のスキルが求められます。
そんなスキルフルな人材が、そうそういるとは考えにくいです。 - 物流事業者に在籍するLPDと、自社への利益誘導
CLOが求めるのは、自社(荷主)における物流・サプライチェーンの効率化であり最適化です。
この大きな命題にCLOとともにLPDが挑むとき、ときには「LPDが所属する物流事業者ではなく、他の物流事業者のほうがビジネスパートナーとして適切である」という解にLPD自身がたどり着いてしまったとします。
このときLPDは、自社への利益誘導を図るのではなく、CLOの、ひいては荷主企業のために、「他社を推薦する」という行動を取れるのでしょうか?
- LPDはどのようにマネタイズするのか?
この話題は、先の「CLOカンファレンス2025」でも挙がりました。
パネルディスカッションのモデレーターであった野村総合研究所 藤野直明氏が「台本にはないのですが…」とことわりを入れたうえで、登壇者らに問いかけたのです。
藤野氏はレベニューシェア──今回の場合は、荷主企業の物流改革によって得られた利益を報酬として受け取る方法──を提案しましたが、他パネリストに否定され、また藤野氏自身も腹落ちしていない様子でした。
従来、LPDに近い役目はコンサルタントが担ってきました。
しかしJPICがLPDという高度物流人材の新たなペルソナを提唱するうえで、コンサルタントの存在を無視している──少なくともJPICの話の中には、コンサルタントのことは一切登場しません──のは、あくまで「物流事業者の中の人」というところへのこだわりがあるのではないでしょうか。
LPDは、ビジネス上の、あるいは荷主と物流事業者の間における位置づけにおいて、「コンサルタント未満、ビジネスパートナー以上」の役割が期待されていることから、「物流事業者の中にあって、実務の遂行においてもパートナーになりうる人材」という絶妙なポジションが求められているのでしょう。
先の「CLOカンファレンス2025」において、筆者はLPDに関する説明を聞きながら、「それって昔の私(筆者)だよね…」と考えていました。と言っても、物流業界の話ではなく、システム開発業界での話ですが。
システム業界…というか、システム会社にはコンサルタントとは呼ばれないものの、クライアントの立場でIT戦略等の立案を行う立場の人たちが昔から存在しました。
こういった人々は、パッケージソリューションを販売するシステム会社ではなく、フルスクラッチ(※クライアントの要望に応えてオリジナルのシステムを構築すること)を得意とするシステム会社のほうが多く存在しています。
こういったフルスクラッチ系システム会社では、いわゆる提案型営業が求められます。
営業マンの中でもスキルフルな人々は、クライアントの理解に努め、クライアントの立場に立ってシステム提案できるヒントを探します。結果、クライアントの経営方針に経営ビジョン、あるいは業務内容にも詳しくなり、クライアント社内の戦略立案のパートナーとして、重宝されるようになります。
ただし、こういった人々の多くは、あくまで営業マンです。
その評価は営業成績によって行われるため、クライアントの戦略策定にどれだけ深く貢献しようと、それがその人自身への評価に反映されることはありません。
それどころか、クライアントとのエンゲージメントを深めれば深めるほど、「アイツは、一体どこの会社のために働いているんだ!?」と同僚や上司から陰口を言われてしまうことすらあります。
すべては、こういったコンサルティング未満の活動が個人の評価対象になっておらず、またこういった人々が所属する会社においてもマネタイズできていないことに原因があります。
筆者も、こういったコンサルタント未満の活動を、システム会社在籍時は行っていました。
しかし、総務担当役員からは「君の仕事は自己満足が過ぎるよね」と嫌味を言われたこともありました。
さすがに社長は筆者の役割とその意義は理解してくれていましたが、しかし「お前のせいで後進の営業マンが育たないんだ!」と怒られたことがあります。
いわく、提案型営業とエンゲージメント強化型営業を突き詰めようとする筆者を真似ようとして、後進の営業マンが自滅していくというのです。この指摘は正鵠を射ていて、筆者も堪えました。
LPDという新たな高度物流人材のペルソナを提唱したことそのものは、とても価値があることだと考えます。
しかし、マネタイズの方法も確立しておらず、そのうえ「物流事業者側にいるLPDが、安易な自社への利益誘導に流されず、本質的な意味合いでCLOのビジネスパートナーになりうるのか?」というジレンマを解消することができなければ、LPDは概念の提唱だけで終わってしまうでしょう。
LPDに関する議論は始まったばかりです。
今後の動向を見守りましょう。







