あれだけ騒がれた「物流の2024年問題」ですが、2024年4月1日以降、懸念されていたような大きな混乱は生じていません。実際、石破茂総理は、2025年3月14日に開催された「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において、「物流の『2024年問題』については、『物流革新に向けた政策パッケージ』に基づく官民での取組の成果等によって、懸念された物流の深刻な停滞は起きておりません」と発言しています。
この発言に対しては、物流事業者サイドから批判を浴びました。
しかし事実として、一般の人々が体感し、健全な日常生活を脅かすような物流クライシスが発生していないことも確かです。
本稿では、この「なぜ『物流の2024年問題』が発生していないのか?」を考えます。
まず考えられるのは、「物流クライシス対策が効果を発揮している」というもの。
中継輸送・共同輸送の拡大、あるいは荷主サイドの受発注平準化への取り組みなども効果を発揮していると考えられるでしょう。
こういった取り組みは、荷主・物流事業者とも大手が中心ではありますが、ビジネスの規模が大きいだけに一定の効果を発揮していると考えられます。
次に考えられるのは、コンプライアンスを守っていない運送会社がまだまだ存在するという指摘です。ご承知のとおり、「物流の2024年問題」は働き方改革関連法によって、トラックドライバーの年間時間外労働時間が960時間を上限に規制されることが直接的な発生原因です。
しかし実際には、ドライバーの拘束時間は、目論見通りには減っていません。
「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」(国土交通省、2024年12月25日開催)では、以下が明らかになっています。
- 2020年度のドライバー1運行あたりの平均拘束時間:12時間26分に比べ、2024年度:11時間46分で40分しか減少していない
- 減少分の内訳は、運転時間がマイナス39分で、荷待ち・荷役時間は1分しか減っていない
筆者が取材してきた範囲でも、青果などの一次産業に関わる運送会社では、改善基準告示に代表されるコンプライアンスを遵守できていないケースが多く見受けられます。発荷主である農家や組合、あるいは着荷主である仲買人等は、中小零細事業者が多く、コンプライアンス遵守意識や「物流の2024年問題」に対する理解度が低いことが原因だと考えられます。
物流産業における著名な論客である、流通経済大学 矢野裕児教授と立教大学 首藤若菜教授の共著「間違いだらけの日本の物流」では、「そもそも国内貨物の流通量が減少していること」を原因のひとつに挙げています。
- そもそも、「2024年度に14.1%相当のトラック輸送能力不足が発生する」という試算は、2019年度の貨物輸送量をベースに算出されていること
- 2019年度の貨物輸送量は41億1740万トンだが、2023年度の貨物輸送量は37億8050万トンであり、約8%少ないこと
同著が発行されたのは2025年3月なので、執筆時点では2024年度の貨物輸送量が公表されていなかったのでしょうが、同著では「 2024年に入ってからも、月あたりの貨物量の対前年比は大きく変わらない」と補足しています。
「物流の2024年問題」が一見、発生していないように見える原因は、他にも「白ナンバートラックの横行」など、さまざまな原因が挙げられています。
ひとつ言えるのは、どれかひとつに原因を求めるのはナンセンスであって、こういったさまざまな原因が複合的に作用し、結果的に「物流の2024年問題」が発生していないように見えるというのが本質なのでしょう。
本テーマについて、視点を変えて、「本当に『物流の2024年問題』は発生していないのか?」と考えます。
例えば大手コンビニチェーンは、「物流の2024年問題」に先駆けて2023年度中から店舗配送の頻度を減らしています。
結果として、深夜帯や13時~16時くらいの時間帯にかけて、おにぎりやサンドイッチ、お弁当などが軒並み品切れしている光景を見る機会は、以前に比べて圧倒的に増えています。
同じく食品であれば、1/3(三分の一)ルール・1/2(二分の一)ルール※が廃止された影響は、実際にスーパーマーケット等で目にすることができます。
以前と比べて賞味期限までの猶予が短くなっていることは、日常的に買い物をしている人はお気づきでしょう。筆者は、食パンにこの傾向が顕著だと感じています。
また以前に比べて食品スーパーでも陳列棚における空き(欠品)を見かけることが多くなりました。販売機会損失を嫌うスーパーマーケットではあり得なかった現象です。
つまり、実際には「物流の2024年問題」は発生しています。
しかし、私たちの日常生活に与える影響がとても少ないため、「あれ?」「なんかちょっと不便だな…」と感じることはあっても、心に留まる機会が少ないと考えられます。
裏返せば、これらはこれまでの物流サービスが過剰であったことの証でもあります。過剰サービスを止めたとしても、私たちの生活には大きな影響がなかったわけですから。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言いますが、見かけ上「物流の2024年問題」が発生していないために、多くの人々は物流クライシスの問題を忘れつつあります。
できれば日常生活を脅かすような物流クライシスは発生しないでほしいと思いつつも、物流に従事する立場としては、「一度、痛い目にあっておかないと、物流に従事していない一般の人々は物流の大切さを理解してくれないのではないか?」とも思います。
悩ましいですね…
※1/3ルール・1/2ルール
製造から賞味期限までの日数の1/3あるいは1/2以内に店頭に陳列しなければならないという食品輸送の慣習。
政府は物流革新政策の一環として、本ルールの撤廃を業界に求めた。






