最近、筆者の娘が任天堂の人気ゲーム『ピクミン』に夢中です。自分でプレイするだけでなく、YouTubeでピクミンの関連動画を見るのも大好きです。
YouTubeには、さまざまなピクミン動画が投稿されています。
- ゲーム実況動画
- ピクミンの3Dモデルが歌に合わせて踊るダンス動画
- ゲーム内楽曲や宣伝楽曲を用いた替え歌動画やプロモーションビデオ的な再編集動画
- ぬいぐるみやフィギュアを使ったコマ撮りアニメ
おもしろいんですよね、確かに。
一方で、「これって、著作権は大丈夫なのかな?」という疑問が頭をよぎります。
こうしたファンによる創作活動は「二次創作」と呼ばれます。
今回は、ピクミンのファン作品(二次創作物)を題材に、著作権にまつわる専門用語を解説しつつ、法律上はグレーゾーンともいえる二次創作物がなぜこれほどまでに存在するのか、その背景を探っていきましょう。
まず、基本となる「著作権」について簡単におさらいしましょう。
著作権とは、小説、音楽、イラスト、ゲームといった作品を作った人(著作者)に法律で与えられる権利のことです。この権利があるおかげで、著作者は自分の作品が無断でコピーされたり、勝手に使われたりすることから守られ、安心して新しい創作活動に励むことができます。そして、素晴らしい作品がたくさん生まれることで、私たちの文化全体が豊かになっていく。これが著作権制度の目的です。
この著作権は、大きく2つの側面に分けることができます。
- 著作者人格権:作者の「心」や「こだわり」を守る権利
著作者人格権は、作品に込められた作者の人格や想いを守るための権利です。お金のように他人に譲ったり、相続したりすることはできません。具体的には、以下の3つの権利が含まれます。 - 公表権
未発表の作品を、いつ、どのように公開するかを自分で決められる権利。 - 氏名表示権
作品を公開する際に、本名やペンネームを表示するか、あるいは表示しないかを決められる権利。 - 同一性保持権
自分の作品の内容やタイトルを、意に反して勝手に変えられない権利です。例えば、ピクミンのイメージを著しく損なうような表現をされたり、キャラクターの性格を悪意をもって改変されたりしないよう主張できます。
- 著作権(財産権):作品の利用から利益を得る権利
こちらは、作品を利用することでお金を得ることができる、財産としての権利です。他人に譲渡したり、相続したりすることも可能です。二次創作と特に関わりが深いのが、次のふたつです。 - 複製権
作品をコピーする権利です。ピクミンの公式イラストをそっくりそのまま描き写す(トレース)行為や、ぬいぐるみを写真に撮ってSNSにアップする行為も、広い意味でこの「複製」に関わります。 - 翻案権
元の作品に新しいアイデアを加えて、別の新しい作品(二次的著作物)を作る権利です。小説の映画化や、楽曲のアレンジ(編曲)などがこれにあたり、二次創作の核心部分と言える権利です。
これらの権利を踏まえて、冒頭で挙げたピクミンのファン作品を考えましょう。
- 3Dアニメ、コマ撮り、漫画、小説など
これらは、ピクミンという原作のキャラクターや世界観という「本質的な特徴」を活かしつつ、新しいストーリーや表現を加えているため、「翻案」にあたります。法律の原則から言えば、原作者である任天堂の許可なくこれらを作成・公開する行為は「翻案権」の侵害にあたる可能性があります。
特に、ぬいぐるみを使ったコマ撮りアニメは少し複雑です。まず、キャラクターのぬいぐるみ自体が、原作のイラスト(美術の著作物)を元に作られた二次的著作物です。そのぬいぐるみを使って独自のストーリーを持つ動画を作ることは、二次的著作物をさらに翻案する行為と解釈できます。 - 楽曲の利用や替え歌
ゲーム音楽にも作曲者の著作権があります。BGMとして利用する場合、YouTubeのようなプラットフォームはJASRAC(日本音楽著作権協会)と包括契約を結んでいるため、JASRAC管理楽曲であれば個人が許可を取る必要がないケースも多いです。
しかし、「替え歌」は話が別です。メロディはそのままに歌詞を新しくする行為は、元の歌詞に対する「翻案」とみなされる可能性があります。また、元の歌詞や曲のイメージを損なう内容だと、作詞家や作曲家の「同一性保持権」を侵害する恐れも。そのため、替え歌の公開は、単なるBGM利用よりも慎重な判断が求められます。
こうして見ると、「やはりファン活動は、法律的にはほとんどアウトなのでは?」と感じるかもしれません。
そのとおりで、法律を厳密に解釈すれば、許可なく行われる二次創作の多くは著作権侵害と判断される可能性が高いのが現実です。
法律上はNGの可能性が高いにもかかわらず、なぜこれほど多くのファン作品が世間に溢れているのでしょうか。
その背景には、権利者である企業の姿勢と、ファンコミュニティとの間にある、暗黙の了解ともいえる関係性があります。
まず、「親告罪」という日本の著作権事情があります。
日本の著作権侵害は、一部の例外を除き「親告罪」とされています。これは、作者(著作権者)が「私の権利が侵害された」と訴え出て初めて、罪に問われる仕組みのことです。
つまり、権利者が見て見ぬふりをしている限り、罪になることはありません。この「権利者が訴えない限りは問題化しない」という点が、二次創作文化が存続している大きな理由であり、いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる状況を生み出しています。
では、ピクミンの権利者である任天堂は、どのような姿勢なのでしょうか。
- 公式ガイドライン
任天堂は、個人が非営利目的でゲームのプレイ動画などを投稿することは、一定の条件下で許可しています。しかし、ゲームプログラムを直接解析し、ピクミンの3D造形データなどをプログラム中から抽出(リッピング)することは明確に禁止しています。ファンによるイラストなどの二次創作全般については、「各国の法令上認められる範囲で」と述べるに留め、具体的な判断はファンに委ねています。 - 厳しい権利行使の歴史
任天堂は、自社の知的財産(Intellectual Property、IP)を守るためには、非常に厳しい姿勢で臨むことでも知られています。 - ファンゲームへの対応
公式作品と見間違えるような高品質なファンゲームは、容赦なく公開停止の対象としてきました。 - 商業利用への対応
「マリカー」の名称で公道カートサービスを運営した企業に勝訴した「マリカー訴訟」は、IPの無断商用利用に断固とした措置をとるという強い意志の表れです。 - ブランドイメージを損なう行為への対応
1999年の「ポケモン同人誌事件」では、成人向け同人誌の作者が逮捕されました。任天堂は「ポケモンのイメージを壊す内容で見逃せなかった」とコメントしており、ブランドイメージを著しく損なうと判断した場合、法的措置も辞さない姿勢です。
これほど厳格な任天堂が、なぜ世界中の無数のファンアートすべてを訴えないのでしょうか。
そこには、ファンコミュニティの存在が、結果的に作品の人気を支え、盛り上げるというマーケティング的な側面があるからだと考えられます。ファンが愛情を込めて作る二次創作は、新たなファンを生むきっかけとなり、既存ファンの作品への愛着をより深いものにします。こうしたファンの熱量が、コンテンツの寿命を延ばし、長期的な成功に繋がることを、多くの企業は理解しているのです。
実際、保育園に通う娘の友人たちの中で、ピクミンのことを知らない幼児はほぼいません。
ゲームを通じて知っている子もいますが、多いのは「ゲームはやったことがないけど、YouTubeにアップされた二次創作物の動画を見ている」という子どもたちです。
こういった子どもたちの中には、ピクミン関連グッズ(カバン類やアクセサリー、あるいは洋服など)を購入している子もいます。今はゲームをやらずとも、将来ゲームをプレイしたり、あるいはその前段として、「ピクミンをやりたいからSwitchが欲しい」という子も出てくる可能性が高いです。
つまり、任天堂の姿勢は、「商業利用」「公式との競合・混同」「ブランドイメージの毀損」といった明確なレッドラインを越えない限り、ファンの活動を黙認し、共存する道を選んでいる、と見ることができるでしょう。
二次創作は、作品への愛情から生まれる素晴らしい文化です。
ただし一方で、著作権に関する正しい知識や、著作者の意向(本稿の場合は任天堂)のガイドライン等を確認せず、「楽しいからいいじゃん」「おもしろいからいいじゃん」と二次創作物を無責任に作り出してしまう人もいます。
これはピクミン、あるいは任天堂に限った話ではありませんが。
新たな著作物を作り出すということへのリスペクトが足りない人(企業)は、得てして自分の都合だけをゴリ押しし、結果として著作権およびその関連権利を軽視する傾向があります。
「あなたが生み出せないモノを生み出せる人に対し、きちんとリスペクトすること」、この大切さを、改めて認識しておきたいものです。






