秋元通信

知っておきたい、モバイルバッテリーを巡る「危険性」と「新ルール」

  • 2025.8.29

モバイルバッテリー、利用していますか?
 

スマートフォンで動画やSNSなどを閲覧したり、あるいはゲームを行っていると、みるみるうちにバッテリーが減っていきますので、普段から持ち歩いている人も少なくないでしょう。
 
筆者自身、外出のときには必ず容量5000mAhのモバイルバッテリーを持ち歩き、出張の際には、2万6000mAhの大容量モバイルバッテリーを持参することで、スマートフォン、ノートパソコンの電池切れを回避するよう心がけています。
 
しかし、モバイルバッテリーが普及する裏で、発火事故という深刻なリスクが急増しています。
 
本稿では、統計データから事故の深刻な実態を解き明かし、私たち消費者と社会インフラを守るための新しい法律や飛行機でのルール、安全な製品を選ぶためのポイント、メーカーの最新技術、正しい処分方法まで、モバイルバッテリーと賢く付き合うための方法をご紹介しましょう。
 

増加するモバイルバッテリー起因の火災事故

 
近年、モバイルバッテリーが関連する火災事故が増加しています。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)や東京消防庁のデータは、私たちの身の回りで危険な状況が進行していることを示しています。
 
NITEによると、2020年から2024年の5年間でリチウムイオン電池製品の事故は1,860件報告され、そのうち85%にあたる1,587件が火災に至っています。特にモバイルバッテリーは、この中で最も事故件数が多い製品です。
 
この傾向は深刻で、東京消防庁管内だけでも2023年に発生した関連火災は166件にのぼり、これは過去10年間で8倍以上という驚異的な増加率です。特に気温が上昇する6月から8月にかけて多発しており、夏の暑さがリスクを高める一因と考えられます。
 

社会を脅かす不適切廃棄問題 ~ごみ処理施設で相次ぐ火災~

 
問題は、個人の家や持ち物が燃えるだけにとどまりません。不適切に捨てられたモバイルバッテリーが、私たちの社会インフラであるごみ処理システムに甚大な被害を与えています。
 
2023年度には、全国の市区町村の約2割にあたる344の自治体で、リチウムイオン電池が原因とみられる発火・発煙事故が発生。その多くは、リサイクル工場でごみを破砕・選別する工程で、バッテリーに圧力がかかり発火することで起きています。その被害額は、全国で年間約100億円から120億円にも達すると推計されています。
 

事故はなぜ起きる? 製造から廃棄までの複合的な原因

 
火災事故が多発する原因はひとつではありません。
 

  • 製品の欠陥とリコール:
    2024年にJR山手線の車内で発生し、話題となった火災も、2年以上前からリコール対象となっていた製品が原因でした。これは、企業からのリコール情報が消費者に届いていない、あるいは届いても行動に移されていないという、情報伝達の課題を示しています。
  •  

  • 外部からの衝撃や誤った使い方
    バッテリーは物理的なダメージに非常に弱い精密機器です。製品を落とす、カバンの中で無理な圧力をかける、真夏の車内に放置するといった行為は、内部ショートを引き起こし、発火に至る危険な行為です。
  •  

  • 不適切な充電と経年劣化
    純正品ではない安価な充電器の使用や、バッテリーが膨らむといった劣化のサインを無視して使い続けることも、重大な事故につながります。実際に火災の約半数は充電中に発生しています。

 
このような事実を診ると、モバイルバッテリーの安全問題は、製造、使用、そして廃棄という製品の一生を通じて、社会全体で取り組むべき課題と認識すべきでしょう。
 

私たちの生活と社会を守るための新しいルール

 
急増する事故を受け、国は私たちの安全を守るため、製品のライフサイクル全体をカバーする多層的な規制強化に乗り出しています。
 
急増する事故を受け、国は私たちの安全を守るため、製品のライフサイクル全体をカバーする多層的な規制強化に乗り出しています。
 

  • 【2026年4月から】すべてのメーカーに回収・リサイクルを義務化
    ごみ処理施設での火災問題を根本的に解決するため、経済産業省は大きな方針転換を決定しました。2026年4月から、モバイルバッテリーは「指定再資源化製品」に指定され、メーカーや輸入・販売業者に対して、使用済み製品を回収・リサイクルするシステムの構築が法律で義務付けられます。 これにより、これまで回収ルートがなかった中小メーカーや海外ブランドの製品も適切に処理される道筋が作られます。
  •  

  • 【2025年7月から】飛行機でのルールがさらに厳しく
    空の旅の安全を確保するため、国土交通省はモバイルバッテリーの取り扱いに厳格なルールを設けています。
    • 預け入れは絶対に禁止
    • 必ず手荷物として機内に持ち込む必要があります

     

  • 容量と個数に制限あり
    • 100Wh以下: 個数制限は航空会社規定による
    • 100Wh超160Wh以下: 1人2個まで
    • 160Wh超: 持ち込み不可

     

  • 【新ルール】座席上の収納棚もNGに
    2025年7月8日以降、万一の発煙・発火にすぐ対応できるよう、モバイルバッテリーを座席上の収納棚に入れることが禁止され、必ず手元(座席ポケットや身の回りのバッグの中など)で保管することが求められます。
  •  

※補足 【WhとmAhの換算方法】
 ワット時定格量(Wh)は、以下の式で計算できます。
 

  • ワット時定格量(Wh) = 電圧(V) × バッテリー容量(mAh) ÷ 1000

 
 一般的なモバイルバッテリーに多い、「電圧=3.7V」で計算すると…
 

  • 5,000mAhのモバイルバッテリーの場合: 3.7V × 5,000mAh ÷ 1000 = 18.5Wh
  • 1万mAhのモバイルバッテリーの場合: 3.7V × 10,000mAh ÷ 1000 = 37Wh

 このように、一般的なモバイルバッテリーの多くは100Wh以下のため、個数制限なく機内に持ち込むことが可能です。
 

モバイルバッテリー購入の際は、「PSEマーク」を必ず確認!

 
2019年2月以降、日本国内で販売されるすべてのモバイルバッテリーには、丸型の「PSEマーク」の表示が義務付けられています。これは、製品が国の定めた技術基準(過充電防止など)を満たしていることを証明する、いわば「安全のお墨付き」です。このマークがない製品は国内での販売が法律で禁止されています。ネットショッピングや通販などでモバイルバッテリーを購入する際は、必ずPSEマークがあるかどうか、確認しましょう。
 
一方、厳しい規制と高まる消費者の安全意識に応えるため、メーカー各社は様々な取り組みを進めています。
 
大手モバイルバッテリー・メーカーは、独自の多重保護システムを搭載し、過充電や異常な温度上昇を未然に防ぐ技術を競っています。もはや安全性は単なる付加機能ではなく、製品を選ぶ上での重要な比較ポイントとなっています。

  • Anker: 独自技術「ActiveShield™ 2.0」で、温度監視の頻度を従来比2倍に高める
  • CIO: 過充電防止など最大6つの保護機能を備え、膨張しにくい高品質なバッテリーセルを採用
  • Elecom: 過電流や温度検知など、複数の保護機能を持つ安全回路を搭載

 
とは言え、こういったメーカーでも近年、大規模なリコールが相次いでいます。
原因の多くは、部品を供給する海外の取引先が、メーカーの品質基準を満たさない部材を無断で使用したり、標準とは異なる工程で製造したりしたことでした。
 
たとえ設計が完璧でも、その品質は複雑なグローバル・サプライチェーンに依存するという厳しい現実があります。
 

こうした中、発火リスクを新たなテクノロジーで解消しようという製品が登場しています。
Elecomが市場に投入した「ナトリウムイオン電池」搭載のモバイルバッテリーです。
ナトリウムイオン電池は、釘を刺すような過酷な試験でも熱暴走を起こしにくく、発火リスクが低いという大きなメリットがあります。
 
現時点ではリチウムイオン電池より大きく重いうえ、高価であるという課題はありますが、安全性を最優先する流れの中で、今後の主流になる可能性を秘めています。
 

結局、使い終わったバッテリーは、どうすればいいのか?

 
製品を安全に使い終えた後、私たちはそれをどう処分すればよいのでしょうか。
 
現在、使用済み小型充電式電池の回収を担う中心的な組織が、一般社団法人「JBRC」(小型充電式電池リサイクルセンター)です。全国の家電量販店や自治体などに回収ボックスを設置しています。
しかし、このシステムには、「会員企業の製品しか回収できない」「破損して内部が露出していたり膨張したような、専門的な処理が必要な危険なバッテリーは回収できない」という課題があります。

 
そのため、結果的にモバイルバッテリーが一般ごみとして捨てられてしまうという「リサイクルのパラドックス」が生じています。
 
2026年から施行される新しい法律は、この問題を解決することを大きな目的としています。JBRCの会員であるか否かにかかわらず、国内で販売するすべてのメーカー・輸入業者に回収とリサイクルが義務付けられるため、これまで行き場のなかった製品にも処分への道筋が確保されます。

 
とはいえ、JBRCが回収してくれない膨張・破損したバッテリーは、回収の道筋がありません。現状、消費者は自治体の担当部署に相談するほかなく、明確な処分ルートが確立されていません。

 
もし手元に膨張したバッテリーがある場合は、絶対にごみステーションには出さず、まずはお住まいの自治体の清掃・リサイクル担当部署に問い合わせてください。 一部の自治体では特別に回収窓口を設けていますが、対応は様々です。2026年の義務化により、メーカー側にもこの問題への対応が迫られており、今後は専門的な回収の仕組み作りが不可欠となるでしょう。
 
さて、今回はスマホとともに必需品になりつつあるモバイルバッテリーについて考えました。

 
火災は怖いですよね…
このように考えてくると、私たちにできる対策はこんな感じでしょうか?

  • モバイルバッテリーおよびその周辺機器(充電器やケーブルなど)は、信頼できるメーカーのものを選ぶ
  • モバイルバッテリーを充電する際には、「外出中に充電しない」といった、目の届く範囲で行う

 
便利なモバイルバッテリーが悲劇の原因にならないよう、留意したいものです。


関連記事

■数値や単位を入力してください。
■変換結果
■数値や単位を入力してください。
■変換結果
  シェア・クロスバナー_300