秋元通信

「生成AIはニュース番組コメンテーターを排除するのか?」、AIの限界と人間の価値

  • 2025.10.31

「AIによって代替され消滅する職業はあるのか?」「 AI時代でも生き残る職業とは何か?」──AIの普及と発展は、しばしば議論を引き起こします。
 
生成AIの登場は、特に「知識」や「情報」を扱う労働において、それぞれの役割の見直しを迫っています。
 
今回は、この議論の一環として、ニュース番組や情報番組における必須キャストである、コメンテーターと専門家が、AIによって完全に代替されるかどうかを考えます。
 
 

コメンテーターと専門家、ニュース番組における役割とは

 
筆者は物流の専門家として、ニュース番組や情報番組に時々出演します。この際の流れについて、ご紹介しましょう。
 
まずは番組側からテーマと、テーマに関係する質問を伝えられます。
例えば、「宅配の再配達問題」がテーマであれば、以下のような質問になります。
 

  • なぜ再配達が発生するのか?
  • どれくらい再配達が発生しているのか?
  • 再配達は配達員にとってどれくらい(あるいは「どのような」)負担になっているか?
  • 再配達を削減するために、私たちができる対策とは?

 
このような質問に対し、専門家は説明や解釈、数字的な裏付け、あるいはどのような政策が実施されているのかを番組側に伝えます。
この際に大切なのは、あらかじめ視聴者が感じるであろう疑問や不満、意見などを先回りしてその答えも含めることです。
 
番組側は、専門家からの回答を元に、台本やパネル(TVの場合)を作成し、それを専門家が確認し、間違いがないかどうかをレビューします。
 
このやり取りは、1往復(数時間)で終わることもあれば、何日もかけてやり取りするケースもあります。NHKの情報番組に出演した際は、2ヶ月もこのやり取りを行いました。「さすがNHK!」と感心したものです。
 
 
一方、コメンテーターは、基本的には番組収録中でのリアルタイムな対応力であり適応力が求められます。
 
テーマは事前に知らされるため、下調べは行う人も多いとは思います。しかし、その下調べに掛ける工数は人それぞれのようです。中には、番組ADなどに下調べを丸投げし、作成されたレポートを確認するだけという人もいらっしゃるようです。
 
一方、番組によっては前日までテーマが知らされないこと、あるいは収録当日にテーマが決まることもあります。そもそも毎日テーマが変わるため、ひとつのテーマに対し、深く入り込んで下調べを行う余裕がないという事情もあります。
 
そのためコメンテーターには、日頃から広く世間のニュースを知り、世論の傾向についてつかんでおく能力が必須となります。
 
専門家はテーマに対する深い理解と解説能力が求められますが、コメンテーターには世間の人々の代弁者としての立ち位置が求められます。(コメンテーターによりますけどね)
 
 

専門家とコメンテーターの仕事に対し、生成AIができること

 
専門家とコメンテーターがニュースの価値を高めるために行う作業のうち、AIは主に「客観的な事実の整理」と「論理性の担保」の面で強力なアシスタントとなります。
 
 
◯ AIが得意とする領域(AIが代替・効率化できる可能性が高いポイント)

  • 基礎データの収集と要約(専門家の事前準備を効率化)
    特定の統計データ、専門用語の定義、過去の類似事例の検索と、それらの情報を基にした客観的な解説資料の一次ドラフト作成
    これにより、専門家は情報収集の時間短縮ができ、本来の「洞察」に集中できます
  •  

  • 論理構成の検証と矛盾点の指摘(コメンテーターの発言補助)
    コメンテーターの過去の発言傾向や、これから行おうとするコメントの論理構造を瞬時に分析し、客観的なデータとの矛盾点や論理の飛躍がないかを確認する補助
  •  

  • 定型的な解説文の生成:
    ニュースの基本的な背景情報や専門分野の概要など、感情や主観を必要としない汎用的な解説テキストの生成

 
「基礎データの収集と要約(専門家の事前準備を効率化)」については、筆者自身、生成AIを活用しています。
 
ニュース番組・情報番組から出演依頼があった場合、筆者はまず質問に対する回答内容を含んだ解説資料を作成します。
台本を書く放送作家のことも考えて、この解説資料にはストレートな回答と、その質問および回答から派生する課題やテーマに対する解説も含めて一次回答するように心がけています。
 
これ、作成に手間がかかるんですよ。本気で一次回答を作成しようとすれば半日程度を要することはザラでした。
しかし、生成AIの登場によって、この作業は1時間程度で終わるようになりました。

  1. まず、テーマに関する情報収集をGemini(Google)のDeepResearchで実施
  2. 次に、筆者自身が執筆した過去の原稿やメモなどをGeminiに検索させて、テーマに該当する原稿や、原稿中の執筆部分、出典などを抽出
  3. これらの内容を取捨選択し、一次回答を作成

 
筆者の場合は、すべての原稿やメモをGoogleWorkspace内にまとめているため、Googleの生成AIであるGeminiを用いて、このようなことができることは付記しておきます。
 
 
番組やニュース内容によっては、ニュース番組からの出演打診を受けてからオンラインツールでのコメント収録までが1時間を切るようなケースもあります。生成AIがなかった頃は大慌てて記憶をたどり(加齢で物忘れが…爆)、執筆原稿を探り、ネット検索を必死で行っていたのですが、生成AIのおかげで余裕を持って、しかも短時間で準備を行うことができるようになりました。
 
「余裕がある」ということは、当然、開設コメントの質を向上させられるということです。「調べる」「まとめる」という作業ではなく、「どう考えるべきか?」という思索に時間をかけられるわけですから。
 
 

生成AIの限界──欠落する「人間固有の壁」

 
一方、ニュース番組や情報番組において専門家とコメンテーターが提供する「核となる価値」は、情報処理の範疇を超えた、責任、感情、文脈理解にあります。これらは現行の生成AIが乗り越えることのできない「人間固有の壁」です。
 
◯ AIの限界(人間が担うべき非代替領域)

  • 感情的な共鳴と信頼性:
    コメンテーターのコメントが視聴者に響くのは、それがその人の人生経験やパーソナリティに基づいているからです。怒り、悲しみ、喜びといった視聴者の感情を代弁し、非論理的な共感を生むことは、データセットの最適化だけでは達成できません。
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  • 非言語コミュニケーションと瞬時の機知:
    生放送の場で、ニュースの展開や他の出演者の発言の微妙なニュアンス(表情、トーン、間)を読み取り、瞬時に最適な言葉を選ぶ機知は、複雑な人間の文脈理解の産物です。また、打ち合わせにおける人間的な信頼関係の構築も、AIには不可能です。
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  • 倫理的・法的責任の所在:
    誤った情報や不確実な解説が番組で放送された場合、その最終的な責任を負うのは、その情報を吟味し、発言を決断した人間(専門家、コメンテーター、制作陣)です。AIはツールであり、判断の責任を負うことはできません。

 
特にコメンテーターは、番組の顔です。皆さまも、「コメンテーターとして◯◯さんが出演しているから、この番組を見ているんだ」ということがあるでしょう。
 
同じコメントをしても、ポジティブな受け止め方をされるコメンテーターと、そうでないコメンテーターがいるのは、何よりも「◯◯さんのコメントだから」という非言語コミュニケーションが存在する証であり、またコメンテーター自身の存在証明でもあります。
 
さらに深堀りします。
生成AIには任せられない、人間にこそ求められ、人間だからこそできることとはなんでしょうか?
 
 

一般的な職業に見る、AIによる代替と非代替の境界線

 
ニュース番組における専門家とコメンテーターに限らず、生成AIのできることと限界を知るために、一般的に生成AIによる影響が大きいとされる職業と、そうではない職業の共通点を考えます。
 
◯ 生成AIによる代替(効率化)が進む仕事の共通要素
AIは「大量のデータ処理」「ルールに基づいた繰り返し作業」「定型的なコンテンツの生成」に強みを発揮します。これらの要素を持つ業務は、AIによって効率化、あるいは代替が進む可能性が高いです。

  • 代替が進む要素
    大量のデータ処理、ルールに基づいた繰り返し作業、定型的なコンテンツの生成。
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  • 具体的な代替が進む職業の例
    事務・オフィスワーク系:データ入力係、経理事務、コールセンターオペレーター(FAQ応答)、一般的な校正者。
    情報処理系:Webライター(単純な記事作成)、翻訳者(定型的な文書翻訳)、市場調査アナリスト(単純なデータ抽出)。
    スポーツによっては審判機能が、カメラやセンサー技術と組み合わされてAIに取って代わられるという予測もあります。

 
 
◯ 生成AIが代替できない、人間が創造的な価値を発揮すべき領域
AIが不得意とするのは、「創造性」「倫理的判断」「複雑な感情の理解」です。以下の要素を含む仕事は、AI時代において最も非代替性が高いと言えます。

  • 創造性・論点設定(問いを創造する行為)
    ゼロベースでのアイデア創出、独創的な問題解決、新たな方向性を定める「問い」の設定。
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  • 感情的知性(EQ)と信頼構築
    他者の感情の機微な理解、共感、人間的な信頼を通じた影響力の行使。
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  • 最終的な責任と倫理的判断
    共通要素:不確実な状況下での最終意思決定、倫理的・法的責任を伴う判断。
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  • 具体的な代替が難しい職業の例:
    高度な判断・責任を求められる、企業の最高経営責任者(CEO)、裁判官、専門分野の外科医、法廷弁護士など
    人間的相互作用を必要とする、精神科医、心理カウンセラー、ベテランの人事・採用責任者、高い創造性を伴うクリエイティブディレクターなど。

 
 
「生成AIはニュース番組コメンテーターを排除するのか?」──この問いに対する答えは「No!」です。
むしろ、ニュース番組・情報番組に出演するコメンテーターや専門家におけるアシスタントとして、生成AIは良きパートナーと言えるでしょう。
 
なぜならば、ニュース番組・情報番組の価値とは、「どれだけ正確な情報を提供するか」だけでなく、「その情報を、誰が、どのような人間的な視点と責任を持って提示するか」という観点も重要だからです。
 
 
私たちの周囲には、膨大な量の情報があります。
これを人の手で収集・整理・分析するのは、とても手間がかかります。
 
生成AIは、こういった手間がかかる作業を代替し、人間が本来行うべきより創造的で価値のある仕事に集中させてくれるツールなのです。


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