秋元通信

「装置産業化」は物流業界を救うのか?

  • 2026.2.27

こんな記事がありました。
 

 
この記事、なかなか興味深いです。
 

  • 2025年1~11月までの出生数は64万5255人(外国人含む)で、前年同期比2.5%減。2024年に70万人を切る68万6173人となってしまったが、さらに減少して67万人も切る見込み。
  • 婚姻数は11月までで前年同期比1.1%の増加となっている。年間婚姻数を推計すると約49.0万組(5千組増)となる。

 
この統計実績だけを見ると、「日本の少子高齢化も、ようやく増加に転じたのか!?」と期待したくなるのですが、この理由に対する考察が注目に値します。
 

  • 実は2024年も婚姻数は微増しているが、これはコロナ禍(2020〜23年)に発生した結婚の後ろ倒しと「結婚に至る恋愛」が作られなかった「恋愛ロックダウン」の反動でしかない。
  • コロナ禍における婚姻減少は深刻。計算上、32万組の結婚が消滅したことになる。
  • 2年連続婚姻数1~2%増では、とても32万組もの婚姻減少を取り戻すまでに至っていない。

 
 
「人口を増加に転じさせる」少子化対策は日本社会における喫喫の課題です。
しかしこれは、さまざまな要因が複雑に絡んだ課題であり、例えば「高校授業料の無償化」「子育て補助金を支給」「妊活費用の補助金制度を整備」といった対策だけでは心もとないです。
 
そこで産業界としては、「人手に頼らない」省人化による少子化対策を模索しているわけです。そして物流産業や建築産業などの労働集約型産業で話題になっているのが「装置産業化」です。
 
今回は、この「装置産業化」というキーワードについて秋元通信流に解説し、物流産業への影響も考えます。
 
 
 

装置産業とは

 
装置産業とは、「人間が自分の手足を動かして働くよりも、大規模な機械や設備(装置)を動かすことで価値を生み出すビジネス」を指します。
 
パン屋を例に考えましょう。
「ひとりの職人さんが、自分の手で生地をこね、小さなオーブンで丁寧にパンを焼く」──これは労働集約型(人の力が主役)のビジネスです。
一方で、巨大な工場内で自動で生地を練る機械、発酵させる部屋、そして何百個ものパンを一度に焼くベルトコンベア式のオーブンを備えて、次々とパンを生産する方式が装置産業です。
 
後者の場合、最初に巨大な工場や機械を作るために、多額の設備投資が必要になります。しかし、一度設備が揃えば、人間の役割は「ボタンを押す」「機械が壊れていないかチェックする」といった監督・補助作業だけに限定されるため、最小限の人数で大量のパンを安定して作り続けることができます。
 
労働集約産業と装置産業を固定費と変動費という、お金の観点から比較しましょう。
 
装置産業は、最初に設備投資など、多額のお金──すなわち固定費──を必要とします。
一方で、製品をひとつ作るごとに増えていく材料費や、工場を動かすために必要な光熱費などの変動費は、機械化によって安く抑えることができます。
 
このように「たくさん作れば作るほど、商品一つの単価が安くなる(規模の経済)」というのが装置産業における最大の強みなのです。
 
 
 

代表的な装置産業

 
社会には、すでに装置産業として確立されている分野がたくさんあります。代表的な例を挙げます。
 

  • インフラ(電気・ガス・水道)
    これらは装置産業の代表格です。巨大な発電所、ガスプラント、浄水場、そして街中に張り巡らされた電線や配管。これら膨大な装置があって初めて、私たちは蛇口をひねれば水が出る生活を送れます。一度設備を整えれば、少ない人数で何千万もの家庭にサービスを届けることが可能です。
  •  

  • 素材産業(鉄鋼・化学)
    鉄を作る製鉄所や、石油からプラスチックの原料を作る化学プラントもそうです。これらは「24時間365日、一度も火を止めずに動かし続ける」ことで効率を最大化しています。人間がバケツで薬品を運ぶのではなく、巨大なパイプラインとタンクが主役の世界です。
  •  

  • 通信・データセンター
    現代的な装置産業と言えるのがデータセンターです。私たちがスマホで動画を見られるのは、各地に建てられた基地局や、膨大なサーバーが並ぶデータセンターがあるからです。ネットの世界を支えているのは、巨大な設備なのです。
  •  

  • 鉄道・航空
    電車や飛行機も装置産業の一種です。車両や機体、そして線路や空港という莫大な資産を保有し、それを効率よく回転させることで利益を生み出します。

 
 
 

なぜ今、物流業界が「装置産業化」を目指すのか?

 
前述のとおり、物流業界(特にトラック輸送や倉庫作業)は、典型的な労働集約型産業です。言ってみれば、トラックドライバーの数や、倉庫作業員の数が、イコール貨物輸送量や処理能力に直結していたのです。
 
しかし、今やこれは限界を迎えつつあります。
 

  • 深刻すぎる人手不足
    日本は少子高齢化の真っ只中にあります。特にトラックのドライバーさんは、全産業平均と比べても高齢化が進んでおり、若手の確保が非常に難しくなっています。「運びたい荷物はあるのに、運ぶ人がいない」という事態が現実のものとなっています。
  •  

  • 「長時間労働が当たり前」に対する反省
    働き方改革関連法により、2024年4月から、職業ドライバーの年間時間外労働時間に上限が課されました。「物流の2024年問題」の発生です。

 
人為的に物流クライシスを引き起こした政策の是非は検証されるべきではありますが、「長時間労働を当たり前のこと」として受け入れてきた物流業界の慣習は変わらなければなりません。これからの時代、そんな業界で働きたがる人など限られますからね。
 
一方で、現実的な問題として、これまで一日あたり平均12時間26分(※2020年実績)も働いてきたトラックドライバーの働き方を、8時間労働に強制的に変化させれば、その差分に相当する労働力が失われます。これはすなわち、貨物輸送リソースの喪失につながります。
 
これはあくまでトラック輸送の例ですが、長時間労働への反省と、これを改善する痛みは、物流業界のありとあらゆるところで発生しています。言わば、労働者の根性で担保してきた生産力をカバーするには、機械やシステムに頼るしかありません。
 

  • ネット通販の急成長
    重量ベースで言えば、eコマースや通販などの貨物量はさほどではありません。
    ただし、こういったネット通販は、「大量の小さな荷物を、多数の配送先へ」という、とにかく手間がかかるという特徴があります。
    「荷物が増えたら人手を増やせば良い」というのが、これまでの物流業界のスタンダードでしたが、多品種小ロット物流の極みのようなネット通販物流は、この限界をかんたんに超えてしまいます。

 
 
先日、ある食品物流センターにおける自動化への取り組みを取材したのですが、「自動化を検討しなければならない」と考えたきっかけは、新型コロナウイルスだったそうです。
ご承知のとおり、緊急事態宣言下による巣ごもり需要では、食品の購入量が著しく跳ね上がりました。平時の2倍3倍といった受注に対し、「こんなの、もはや人海戦術では無理だよ!!」と痛感したそうです。
 
人手を減らすだけではなく、機械化・自動化によって、マーケットの需要波動にも対応できるキャパシティを増やすこと。
これこそが、装置産業化の狙いです。
 
 
 

物流が装置産業化するメリット

 

  • メリット1:生産性の向上
    例えば、巨大な物流センターを想像してみてください。これまでは人が歩き回って荷物を探していましたが、最新の自動倉庫では、棚搬送型ロボットによって棚が作業員の元までやってきます。結果、今まで「歩いて探していた」時間が理論上はゼロになり、仕分けのスピードが向上することになります。
    このように自動化・機械化は、人では実現が難しい生産性を実現するのです。
  •  

  • メリット2:過酷な労働からの解放
    物流の現場は、重い荷物を運んだり、夏は暑く冬は寒い倉庫内で作業したりと、肉体的な負担が大きいです。こうした「きつい作業」「しんどい仕事」をロボットなどに任せることで、人間は「機械の操作」や「全体の管理」といった、より知的で負担の少ない仕事にシフトできます。
  •  

  • メリット3:品質の安定と「見える化」
    人間はどうしても疲れるとミスをしてしまいますが、センサーやAIを搭載した装置は、24時間35時間、基本的には同じ精度で働き続けます。つまり、自動化・機械化は作業品質を向上させるのです。「基本的に」としたのは、例えばセンサー類は倉庫内の粉塵などによって汚れ、精度が下がる──つまり、「作動精度が下がる」──ことはあるのですが。
    また、自動化・機械化の対象となる作業は、すべてデータとして記録されます。
    今までアナログな、人の勘と経験に頼ってきた物流現場でも、データ主導型の業務改善ができるようになるのです。

 
 
 

装置産業化に伴うデメリットとリスク

 

  • デメリット1:莫大な投資リスク
    装置産業化は、大きな初期投資を必要とします。そして、初期投資は数年かけて回収するものですが、もし当初の見通しに反して景気が悪くなったり、あるいは顧客の業績悪化や事業変更などが発生、取り扱い貨物量が減ることもあるでしょう。
    この場合、機械は止まっていても、メンテナンス費用や減価償却費は発生し続けます。
    実際、筆者は、大枚はたいて導入したであろうベルトソーターが資材置き場と化していた様子を見たこともありますし。
    この「つぶしが効かない」という点は、経営上の大きなリスクです。
  •  

  • デメリット2:柔軟性の欠如
    基本的には、自動化・機械化された装置は、あらかじめ設計されたとおりの作業しかできません。つまり装置産業化には、変化に弱いというデメリットがあります。同時に、災害や予期せぬトラブルに見舞われると、いったんすべてをストップさせなければならないケースもあるでしょう。
    ただしこの点については、AIや自動化・機械化機器の進化によってリスク低減ができる可能性があることを付記しておきましょう。
    例えば、「2026年は人型ロボット元年になるか!?」と期待されていますが、人型ロボットは柔軟性を担保できるものとして期待されています。
    製造工程がすべてベルトコンベアでつながり、一体化された工場では、どれかひとつのロボットが停止すれば、製造工程すべてが止まってしまいます。
    しかし人型ロボットであれば、故障した筐体(ロボット)だけを交換すれば、そのまま生産は継続できます。
  •  

  • デメリット3:雇用の質の変化
    単純作業が機械に置き換わることで、そうした仕事に従事していた人たちの職が失われる懸念があります。一方で、ITやロボットをメンテナンスする高度な人材は不足しており、働く側に求められるスキルのハードルが上がってしまうという側面もあります。
    結果、装置産業化は労働者におけるスキルのアンマッチによって、より深刻な人手不足を生み出す可能性があります。

 
 
 

物流産業における現実的な装置産業化とは

 
物流業界、特に運送業界は、99.9%が中小企業という巨大な中小企業の集合体です。
一方で、装置産業化には資本力が必要であり、一般的に考えれば中小企業には難しい取り組みと言えるでしょう。
 
このような事情から、物流業界の装置産業化にはいくつか考えられるシナリオがあります。
 
 

  • 大企業への集約説
    現在は中小企業の集合体であっても、やがてこういった中小企業はM&Aなどによって大企業へと集約されていくという説です。これには、大企業の傘下に入る代わりに、装置産業のキーとなる機器(自動化・機械化倉庫や無人運転トラックなど)の提供を受ける、といった可能性もあります。
  •  

  • 二極化説
    装置産業をベースにした物流ビジネスを展開する事業者と、現在と変わらぬ労働集約型物流ビジネスを展開する事業者に二極化するという説です。
    例えばトラック輸送で考えると、幹線輸送については無人運転トラックの導入が(将来は)進んでいくでしょうが、住宅地において行われる宅配輸送などのラストワンマイル輸送は、無人運転トラックが参入できるかは難しいところです。
    結果、大手では装置産業化が進み、中小は装置産業化しない領域でのビジネス展開を行うという二極化が進んでいくという可能性です。

 
 
あくまで筆者の予想ではありますが、おそらくこの両方が緩やかに進行していくものと思われます。つまり、物流事業者は、M&Aなどを介して大企業へと集約されていく流れは止まらないものの、生き残った中小物流事業者は「人の手が介さざるを得ない」領域のビジネスで継続して事業活動を行うことになりそうです。
 
一方で、装置産業化の肝となるハードウェアが、イノベーションによって安価になり、中小企業でも使いやすくなっていくこともあるでしょう。
例えば、倉庫内で貨物を運ぶAGV(Automated Guided Vehicle)といった搬送ロボットの中には、月数万円程度でレンタルできるものも登場しています。トラックについても欧米では「走行した距離に応じて使用料金を支払う」サブスクリプション形式で運送会社がトラックを利用できる「TaaS」(Truck as a Service)が登場しています。TaaSは、車両価格が高くなりがちなEV・FCV・自動運転トラックなどでは、特に人気を集めるものと考えられています。
 
 
冒頭にも申し上げたとおり、日本における労働者不足はとても深刻な状況であり、運送業界では人手不足倒産が増えています。
「どこまで?」という程度の議論はあれど、装置産業化に取り組むことができない物流事業者が、今後さらに厳しい経営を強いられるのは間違いがないでしょう。
 
 
 

関連記事

■数値や単位を入力してください。
■変換結果
■数値や単位を入力してください。
■変換結果
  シェア・クロスバナー_300