秋元通信

桜の木はなぜ伐採されるのか?ソメイヨシノの生物的課題とその解決策

  • 2026.3.23

最近、筆者が暮らす街では、桜の木が伐採されるケースが増えています。
大好きだった桜の舞い散る小道も、数年前に伐採、今は切り株だけが残されており、以前のような景観は望めなくなってしまいました。
 
調べてみると、これは筆者の身近だけでなく全国各地で発生しているようです。
今回は、この桜の木の伐採問題について調べてみました。
 
   

なぜ、桜の木が伐採されるのか?

 
端的に言うと、「ソメイヨシノという品種特有の宿命」と「都市部での安全確保」というふたつの背景に集約されます。
 
この理由を理解するための4つのポイントを挙げます。
 
◯ 「ソメイヨシノ」の寿命と歴史的背景
 
日本にある桜の約8割を占めるソメイヨシノは、実は江戸時代に作られたクローン(接ぎ木)です。
 
一般的な野生の桜(山桜など)は数百年生きることもありますが、ソメイヨシノは成長が早い分、老化も早く、寿命は60年〜80年です※。
この短命なソメイヨシノが全国に広まったのは、戦後の復興期や高度経済成長期(1950〜70年代)と言われています。
そのため、今、日本中のソメイヨシノが同時に寿命(老齢期)を迎えているのです。
 
※ただし、土壌管理などの適切な管理を行うことで100年以上ソメイヨシノが生きる弘前公園などの事例も増えています。
 
 
◯ 外見ではわからない「中身の空洞化」
 
桜はとても腐りやすく、なかでもソメイヨシノは後述の腐朽や害虫に弱いとされます。
 

  • 剪定の切り口や折れた枝からベッコウタケなどの菌が入り、幹の内部をじわじわと腐らせるケース。
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  • 外来種であるクビアカツヤカミキリの幼虫によって、幹の中を食い荒らされるケース。

 
特に、クビアカツヤカミキリに食い荒らされると治療が難しく、周囲の健全な桜への被害拡大を防ぐために、特定外来生物法に基づき、泣く泣く伐採せざるを得ないケースが増えているそうです。
 
桜は、外見は元気そうできれいに花が咲いても、中身がスカスカの空洞になっていることがあります。
しかしながら強度は失われているため、台風や強風などで突然根元からボッキリ折れるリスクが高くなってしまいます。
 
 
◯ 都市インフラとの衝突(根上がり)
 
狭い歩道や道路脇に植えられた桜が成長しすぎたことによる問題です。
 

  • 太くなった根がアスファルトを押し上げ、歩道がデコボコになります。高齢者や車椅子の通行に支障が出て、バリアフリーが維持できなくなるため、道路管理上の責任(安全義務)から伐採せざるを得ません。

 
ちなみに、ソメイヨシノの根には浅根性(せんこんせい)という特徴があり、地下深くまで伸びる「直根(ちょっこん)」がほとんど発達せず、地表に近い部分を水平方向に広く張る性質があります。
 
これはソメイヨシノが他の品種に比べて成長が早い理由のひとつです。
ソメイヨシノが備える成長の早さは、戦争によって焼け野原となった街を復興させるうえでは好都合でした。しかし、その成長の早さが、今となっては根上がりや、近隣の建造物への侵入被害などの問題を引き起こしました。
 
 
◯ 「クローン」ゆえの弱点
 
ソメイヨシノはすべて同じ遺伝子を持つクローンであるため、ある病気や害虫が流行ると、その地域の桜が全滅するリスクがあります。
そのため、一度病気が広がると、「1本ずつ治す」よりも「一度リセットして別の強い品種に植え替える」方が、長期的な景観維持に繋がると行政は判断します。
 
   

そもそも街路樹の目的とは

 
街路樹は、街の景観を保ち、快適な住環境を構成する大切な要素のひとつです。
加えて、防災の役目も果たします。
 
例えば火災が発生した際には、生木に含まれる水分が延焼を妨げる効果が発揮します。
また、1995年の兵庫県南部地震では、倒壊した建物を街路樹が支えて道路への倒れこみを防いだ事例が報告されました。
さらに、台風などの暴風が発生した際には、看板やゴミなどが飛散しても、街路樹がクッションとなり、人や建物などへの被害を軽減する働きがあります。
 
ただし、こういった役目を果たすには、樹木が健康であることが前提です。腐朽し、倒れてしまう可能性が高まっている状態では、むしろ街路樹が道路をふさぐ危険があり、防災上のネックとなってしまいます。
また、浅根性という特徴を持つソメイヨシノは、防災面での街路樹の役目を果たすには、力不足である、とも考えられます。
 
   

悩ましい切り株問題

 
桜が伐採された後に残される切り株の問題についても考えましょう。
 
切り株を残してしまうと、以下のようなデメリットがあります。
 

  • シロアリの発生源になる
    これが住宅街において最も懸念されるリスクです。桜の木が枯死し、根が腐り始めると、シロアリにとって格好の餌場となります。結果、切り株で繁殖したシロアリが、地下を通って近くの住宅の基礎や庭木へ移動してしまう二次被害が懸念されます。
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  • キノコ(腐朽菌)の増殖
    ベッコウタケなどの菌が、残された根に繁殖し、近隣にある、まだ生きている元気な桜や他の樹木に対し、連鎖的に立ち枯れを起こすことがあります。
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  • ひこばえ(胴吹き)とのいたちごっこ
    桜は生命力が強く、根が生きていれば切り株の脇から新しい芽(ひこばえ)が次々と生えてきます。放っておくとボサボサの低木のようになり、視界を遮ったり、再び害虫(毛虫など)の住処になったりします。これを放置すると、結局何度も除草作業が必要になり、管理コストがかさむという悪循環に陥ります。
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  • 地盤の陥没
    長期間放置し地中の根が完全に腐ってスカスカになると、その部分の土が締まらなくなります。結果、歩道などに小さな陥没(穴)が開いてしまうことがあります。

 
ではなぜ根を残す(切り株を残す)かというと、やはり予算の問題が大きいようです。
切り株と根をすべて取り除こうとすると、手間がかかり、結果、街路樹などの管理をしている行政の予算を圧迫してしまうということです。
 
桜の根が下水道管や通信ケーブルを巻き込んでいるケースもあります。
こういった場合、無理に抜くとライフラインを破壊する恐れがあるため、慎重な作業が必要になり、ますます手間がかかります。
 
また、斜面に生えていた桜の場合、根を抜くと地盤が緩んで土砂崩れが起きやすくなることもあります。
そのため、やむえず消極的な対策として、腐るまで放置し、積極的に切り株・根の除去をしないというわけです。
 
 
行政や専門家にとって、桜の伐採は倒木による人命事故を防ぐための苦渋の決断であることがほとんどです。
 
最近では、伐採した後にまた同じソメイヨシノを植えるのではなく、病気に強く寿命も長いジンダイアケボノやコマツオトメといった新しい品種へ交代させる世代交代も進められています。
 
桜の木にも、さまざまな事情があるものですね。
 
 
 

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