秋元通信

退職代行サービスから学ぶ違法行為の境界線、ビジネスマンが知っておきたい「非弁行為」の難しさ

  • 2026.3.31

こんなニュースがありました。
 

 
退職代行サービス「モームリ」の代表らが逮捕されたというニュースです。
このニュースはかなり親切に「何が問題だったのか?」を説明してくれていますが、本事件を扱ったニュースの中には、聞き慣れない「非弁行為」という言葉に頼って背景の説明を終わらせてしまっているものもたくさんあります。
これは、良くも悪くも最近になって急に注目され始めた退職代行サービスやモームリという会社に対する批評に記事の考察が集中してしまい、肝心の事件における本質が霞んでしまったという側面もあるのでしょう。
 
実はこの非弁行為、私たちが仕事をしている限り、常に付きまとうリスクでもあります。
特に、顧客に対する提案行為や、あるいはコンサルティングのような業務の場合には、非弁行為の境界線を踏み外さないようにすることが大切になります。
 
今回は、この聞き慣れなく、またとても難しい非弁行為について、秋元通信流になるべく分かりやすく説明しましょう。
 
 
 

「非弁行為」とは何か?

 
非弁行為とは、「弁護士資格を持たない人が、報酬を得る目的で、他人の法的トラブルに介入したり、法律相談に乗ったりすること」を指します。
弁護士法第72条では、以下のような条件が揃うと違法(非弁行為)であると定めています。
 

  1. 弁護士ではないこと
  2.  

  3. 報酬を得る目的があること(直接の現金だけでなく、間接的な利益も含む)
  4.  

  5. 法律事務を扱うこと(代理、交渉、鑑定、相談など)
  6.  

  7. 「事件性」があるものに関わること(争いがある、またはその可能性が高いもの)
  8.  

  9. 「業」として行うこと(反復継続して行う意思があること)
  10.  

 
非弁行為が厳しく禁じられているのは、専門知識や倫理観を持たない人が、自分のお金儲けのために他人の法的問題に口を出し、結果として当事者が不利益を被ったり、社会の秩序が乱れたりするのを防ぐためです。
 
「倫理観」について、補足します。
弁護士には、弁護士職務基本規程というとても厳しい倫理ルールが課されています。依頼者の秘密を絶対に守る守秘義務はもちろん、利益が相反する双方から依頼を受けてはならないという利益相反の禁止などが徹底されており、これに反すれば資格停止などの重い懲戒処分を受けます。
 
一方、資格のない非弁業者にはこうした法的な規律や監督体制がありません。そのため、目先の報酬のために強引な進め方をしたり、預かり金を着服したり、あるいは相手方と裏で通じて依頼者を裏切るといったトラブルが懸念されます。
 
もうひとつ。
国家資格による裏付けがないということは、問題が起きた際にその責任を公的に追及する仕組みも存在しないということです。
つまり倫理観については、問題を抱えている当事者を守るために、とても大切な要素なのです。非弁行為について、「弁護士の既得権益を守るための規定だろう?」と考える人もいるようですが、それは大きな間違いなのです。
 
 
 

どこからがアウト?「事件性」という分水嶺

 
非弁行為を理解する上で最も重要なキーワードが、対象となる事案に事件性があるかどうかです。
 
ここでいう事件性とは、簡単に言えば「当事者間に法的な争いや、意見の食い違い(摩擦)が発生している、あるいはその可能性が高い状態」を指します。単なる事務的な手続き(誰がやっても結果が変わらない作業)を超えて、利害を調整する交渉が必要になったり、放置すれば将来的にトラブルへ発展するリスクが客観的に高かったりする場面がこれに該当します。
 
争いがあるデリケートな場面に、高度な倫理観と専門性を持たない人が報酬目的で介入すると、当事者が大きな不利益を被る恐れがあるため、この事件性が弁護士の出番を決める重要な境界線となっているのです。
 

  • 事件性がない(原則OK)
    単なる事務的な手続きや、ひな形通りの書類作成。争いがない状態での事務連絡。
  •  

  • 事件性がある(弁護士以外NG)
    相手と意見が食い違っている、お金の額で揉めている、解雇の有効性を争っているなど。

 
例えば、「契約書の文字に誤字がないかチェックする」のは事務的ですが、「この条項は民法第〇条に反して無効だから、こう書き直すべきだ」と具体的な法的判断を下すのは、弁護士の領域に踏み込んでいる可能性が高くなります。
 
 
 

身近なビジネスに潜むリスクと境界線

 
最近話題のサービスを例に、どこが「境界線」なのかを見てみましょう。
 
◯ 退職代行サービス
最近利用者が増えていますが、民間業者が行う場合は注意が必要です。

  • セーフ(使者)
    「本人が辞めると言っています」と伝えるだけ。
  •  

  • アウト(代理・交渉)
    会社が拒否した際に「法律上、2週間で辞められるはずだ」と反論したり、有給休暇の消化や残業代の支払いを交渉したりすること。

 
※労働組合や弁護士法人が運営している場合は、法律上「交渉」が認められています。
 
◯ コンサルティング業務
経営コンサルタントや税理士、社労士などの専門家でも、それぞれの資格で認められた範囲を超えると非弁行為になります。

  • セーフ
    ビジネス上のリスクを指摘する、一般的な法改正情報を伝える。
  •  

  • アウト
    特定のトラブルに対し、「この法律を使ってこう戦いましょう」と具体的な法的スキームを提示し、合意をまとめようとすること。
  •  

 
◯ リーガルテック(AI契約書チェック)
2023年に法務省がガイドラインを公表しました。

  • セーフ
    「定型的な取引」における見落としチェックや、参考情報の提示。
  •  

  • アウト
    複雑な紛争案件やM&Aなどにおいて、AIが独立して「この内容は法的リスクがあり、こう修正すべき」と断定的な鑑定を行うこと。
  •  

 
 
 

物流ビジネスと法改正

 
物流ビジネスの例も挙げましょう。
一昨年から、物流効率化法や貨物自動車事業法などが次々と改正・施行されています。
これらの法令改正について、アドバイスや助言などを求められた場合を考えましょう。
 
◯ 適法(OK)とされる範囲:ビジネス・実務コンサルティング
 
原則として、経営戦略の策定や業務効率化のための数値解析、一般的な情報提供は非弁行為には該当しません 。
 

  • 一般的な制度解説と情報提供
    物効法の概要、認定を受けるメリット、法改正の動向(いわゆる「2024年問題」に伴う規制など)について、一般論として解説すること。
  •  

  • 物流効率化の計画策定支援
    二酸化炭素(CO2)排出削減量の計算、輸送ルートの最適化、モーダルシフトのシミュレーションなど、物流実務に基づいた事業計画の策定をサポートすること。
  •  

  • 事実関係の整理
    クライアントが保有する運行データや倉庫の稼働状況を整理し、認定基準に照らして不足しているデータが何かを指摘すること。
  •  

  • 一般的なひな形の提供
    特定の事案に依存しない、事業計画書や社内規定の一般的なテンプレートを提供すること 。
  •  

 
◯ 非弁行為となる可能性が高い範囲(NG):法的判断と交渉
 
報酬を得る目的で、特定の事案に対して法律の適用に関する判断を下したり、代理人として動いたりすると、弁護士法第72条(非弁行為)に抵触します 。
 

  • 個別具体的な法的鑑定(鑑定)
    クライアントの固有の状況に対し、「このスキームであれば、物効法第〇条の要件を確実に満たし、〇〇の罰則は適用されない」といった断定的な法的判断を下すこと 。
  •  

  • 行政機関との直接的な交渉(代理)
    認定申請において、内容の不備を指摘された際に、コンサルタント自身がクライアントに代わって「法律の解釈上、この記載で認められるべきだ」と行政庁と議論や交渉を行うこと 。
  •  

  • 紛争性のある案件への介入
    例えば、物効法に関連する契約(荷主と運送会社間の契約など)において、既にトラブルが発生している場合に、間に入って和解案を提示したり示談交渉を行ったりすること 。
  •  

 
例えば、「荷主が作成すべき『中長期的な計画』作成を丸投げされた運送会社が、その作成を請け負ってしまう」のはNGになります。
 
 
 

もし「非弁行為」に関わってしまうと?

 
「便利だから」「安いから」と非弁業者を利用したり、あるいは自らが無自覚に非弁行為を行ってしまったりすると、以下のような深刻なリスクがあります。
 

  • 刑事罰
    2年以下の懲役、または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
  •  

  • 契約の無効
    非弁業者が間に入って成立させた合意や契約は、後に「公序良俗に反する」として無効になるリスクがあります。
  •  

  • 責任の不在
    弁護士には厳しい職務倫理と懲戒制度がありますが、無資格業者にはそれがありません。ミスをされても損害賠償を求めるのが難しいケースが多いのです。
  •  

 
スキルの高い営業やコンサルタントには提案やアドバイスを顧客に対して行うことが求められます。
 
しかしこれが行き過ぎてしまい、今実際に発生している揉め事に対して解決策を提示したり、あるいは将来的に起こりうる揉め事をあらかじめ排除するような、高度過ぎる提案などをしてしまうと、非弁行為に抵触する危惧があります。
このあたりは、やっている当人たちからすればジレンマではありますが…。
 
「餅は餅屋」ではありませんが、法的な紛争や高度な判断が必要なときは、プロである弁護士に正当なルートで依頼すること。
これが結果として自分自身や会社を守る、最も賢明なビジネス・リテラシーだと考えるべきなのでしょう。
 
 
 

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