| ゴールデンウィーク(GW)、お出かけする方も多いと思いますが、困るのが乗り物酔いです。クルマ、船、飛行機…、実は筆者、乗り物酔いしやすいため、新幹線に乗るときも酔い止め薬が欠かせません。 乗り物酔いは、「動揺病(Kinetosis / Motion Sickness)」と呼ばれ、古くは古代ギリシャの詩人であるホメロスが、『オデュッセイア』において主人公オデュッセウスが船酔いと思われる症状に苦しむさまを描いています。 また進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、船酔いに弱く、「早く陸に上がりたい」と切望したことが歴史的な発見につながったという説もあります。(ダーウィンが船酔いに悩まされたのは事実のようですが、この説は後年のこじつけのような気がしてなりませんが) 今回は、クルマ酔い、船酔いなどの乗り物酔いについて解説します。 ◇ なぜ私たちの体は「酔う」のか? 乗り物酔いの正体は、脳の中で起きている情報のミスマッチである感覚矛盾説がもっとも有力です。 私たちの脳は、耳の奥にある三半規管や耳石器といった「前庭感覚」、目から入る「視覚」、そして筋肉や関節が感じる「深部感覚」という三つのルートから情報を集めて、体のバランスを保っています。 ところが、乗り物に乗っているときは、この情報のバランスが崩れてしまいます。 例えば車内で本を読んでいると、目は「静止している」と言っているのに、耳や筋肉は「揺れている」と報告します。この予測と現実のズレに脳が混乱し、自律神経がパニックを起こすことこそが、酔いの根本的な原因なのです。 実は、赤ちゃんは乗り物酔いにならないそうです。もっとも酔いやすいのは3歳から12歳頃の子ども。大人は逆に乗り物酔いにかかりにくいとされています。 理由は、脳の発達にあります。脳は、現在経験している感覚だけではなく、過去の膨大な運動経験に基づき「次にどのような感覚入力が来る”べき”か」を常に予測しています。 乗り物酔いは、この「期待される感覚入力」と「実際の感覚入力」の間に許容できない乖離が生じた際に発生するとされます。 赤ちゃんの場合には、この予測モデルが形成されていないため、乗り物酔いになりにくいと言われていますが、逆に3~12歳頃の子どもの場合には、予測モデルの精度が上がっているものの、現実の外部刺激に対する適応能力が十分に発達しておらず、乗り物酔いしやすいそうです。 大人の場合には、脳の適応が進むことと、逆に前庭機能そのものが衰えるため、乗り物酔いしにくくなると考えられます。 ◇ なぜ乗り物酔いをすると嘔吐してしまうのか? ここで疑問が浮かびます。 脳が混乱したからといって、なぜわざわざ吐き気という不快かつ極端な反応が起きるのでしょうか。 理由として考えられているのは、毒物誤認説という仮説です。 人類の長い歴史の中で、自分の意志と無関係に感覚が激しく混乱する事態というのは、毒キノコや腐敗したものを食べたときくらいしかありませんでした。 そのため、脳の監視システムは感覚のズレを検知すると「大変だ、毒を盛られたぞ!」と勘違いし、防衛反応として胃の中身を外に出そうとするという説です。 現代の乗り物が、私たちの原始的な生存プログラムをバグらせてしまっているという興味深い仮説です。 ◇ 乗り物酔いを防ぐ方法 ◯ 進行方向の遠くの景色を眺める 基本中の基本ですね。 水平線や遠方の山々など、動かない一点を視覚のアンカー(錨)にすることで、網膜上の像の動きと前庭感覚が一致しやすくなるため、酔いにくくなるとされます。 逆に、車内での読書やスマートフォンの操作は、視界を「車内という静止空間」に固定しながら、体には激しい揺れを送り込むため、乗り物酔いしやすくなります。 ◯ 頭部を物理的に固定させる 頭部をヘッドレストに密着させ、あごを引いて固定することで、内耳内のリンパ液の慣性運動を最小限に抑えることができるそうです。 内臓負荷の軽減 空腹や満腹の状態は、迷走神経を介して嘔吐中枢の感受性を高めてしまうそうです。 よって、乗車前は消化の良いものを軽く摂取するようにして、脂っこい食事や柑橘類などの酸性の強いものは避けるのが鉄則なんだそうです。 ◯ 生姜の効能 古くから生姜は乗り物酔いを防ぐハーブとして活用されてきたそうです。 学術的に言うと、生姜に含まれる成分の一種が、嘔吐を生じさせる感覚器に作用し、吐き気を抑える効能が期待されていますが…、これはエビデンスとしては、まだまだ発展途中(研究途中)です。 ◇ 同乗者を酔わせないドライバーの気配り 不思議なことに、自分で運転しているドライバーは決して酔いません。 これは、脳がこれから起こる揺れを事前に予測して、筋肉や感覚を準備させているからです。 一方で、予測ができない同乗者は、すべての揺れを予期せぬ衝撃として受け取ってしまいます。 同乗者をクルマ酔いさせない運転についても考えましょう。 ポイントは、加減速を穏やかに抑えることです。 急加速、急減速はもちろん、気をつけたいのがよく言うカックンブレーキです。 カックンブレーキは、無造作にブレーキをかけた際、停止直前に発生する衝撃を指します。カックンブレーキを防ぐためには、停止直前にブレーキを少しだけ緩め、極低速を維持し、スムーズに停止させます。 なお、カックンブレーキを防ぐためには、まず車間をきちんと取ることが大切になります。そうしないと、前車のペースで減速せざるを得ないですから。 ただし、最近のクルマの中には、クリープ(※AT車において、アクセルを踏み込まないアイドリング時にクルマが前進する現象)が強く、どうしてもカックンブレーキにならざるを得ない(スムーズに停車できない)ものもあります。 ハイブリッド車やEV車に搭載されている回生ブレーキなどもカックンブレーキを避けるのが難しいケースがあることは付記しておきます。 ◇ 酔い止め薬の選び方 最後に、乗り物酔いを防ぐ薬の特徴についても挙げておきましょう。 ◯ タイミングや目的に合わせた使い分け 薬の成分によって、予防に強いものと、症状が出てから効くものがあります。 ・予防(乗車前) 「スコポラミン」などの抗コリン成分は、高い予防効果を発揮します。 ・酔った後の対処 すでに酔ってしまった場合は、「ジフェンヒドラミン」などの抗ヒスタミン成分が、症状を鎮めるのに適しています。 ・長時間・家族向け 「メクリジン」は作用時間が長く、1日1回の服用で済むものが多いのが特徴です。 ◯ 眠気の出やすさによる相性 移動中に眠りたくないか、それとも寝て過ごしたいかによって選ぶべき種類が変わります。 ・ 眠気が強いタイプ 効き目が強力ですが、眠気が出やすい成分が含まれている薬もあります。 ・眠気が少ないタイプ 眠気を抑える設計の市販薬、あるいは漢方薬(普導丸など)は眠くなる成分を含んでいません。また「メクリジン」も他の抗ヒスタミン薬に比べると眠気が比較的少ないとされています。 例えば、新幹線で移動した後に、クルマを運転する予定のある人などは、眠気が強いタイプの酔い止め薬は避けてください。 ◯ 注意が必要な「悪い飲み合わせ(相性)」 成分が重複したり、副作用を増幅させたりするため、以下の併用は避けるべきです。 ・酔い止め薬同士の併用 例えば、処方薬の貼り薬と市販の錠剤を一緒に使うと、重い眠気や目のかすみ、口の渇きなどの副作用が強く出る危険があります。 ・他の薬との併用 風邪薬、鼻炎薬、アレルギー薬、抗うつ薬、筋弛緩剤などは、酔い止めと成分が重なることが多く、副作用のリスクを高めます。 ・アルコールとの併用 アルコールは薬の作用を不安定にし、自律神経の乱れを助長するため、酔い止め薬と一緒に飲んではいけません。 ◯ 年齢による制限 成分によって対象年齢が厳密に決まっており、特に5歳未満の乳幼児が服用できる市販の酔い止め薬はほとんどありません。 ご自身の体質や移動時間に合わせ、薬剤師や登録販売者に相談して「相性の良い」一錠を選ぶことを強くおすすめします。 せっかくの楽しいお出かけも、乗り物酔いのために楽しめなくなってしまうことがあります。ぜひ、乗り物酔いと上手に付き合う、自分なりの方法を見つけてください。 |
秋元通信






