秋元通信

「明日からあなたの給与と待遇は下がります」、ポストオフ制度から考える、会社と従業員の関係性

  • 2026.5.28

先日、人生の先輩である70代の方とお話ししていたところ、「あいつは僕と同期なんだけど、給料も下がらず、今も働いているんだよ」という発言がありました。


先輩は自動車メーカーに勤めていましたが、ご自身は65歳で退職、現在は悠々自適な生活を送っています。
「僕は会社に残っていても、給料は下がっていたしなぁ」と先輩は言っていました。



このように、ある一定の年齢に達すると、嘱託制度などによって役職も収入も下がる(下げられてしまう)ということは、広く、あるいは常識として定着しているようです。


それが当人の意思に基づくものなのか、それとも会社から強制されるものなのかといった違いはありますが、それまで務めてきた役職を外れることを「ポストオフ」と呼びます。


今回は、報告書「ポストオフの新常識 人と組織のあらたな関係」(リクルートワークス研究所、2026年03月23日)を紹介しつつ、ポストオフを契機に「変わっていく」、あるいは「変わらざるを得ない」従業員と企業との関係性を考えましょう。


→ 参考
「ポストオフの新常識 人と組織のあらたな関係」(リクルートワークス研究所)
https://www.works-i.com/research/report/postoff.html







ポストオフ、3つの方向性

本報告書では、「ポストオフ運用の3つの方向性」として、以下を挙げています。


  • 年齢基準型
    年齢到達を基準に、役職や職務を調整する仕組み。
    一定年齢を契機に役職や処遇の見直しが行われ、日本企業では、役職定年や定年前後の
    役割変更として運用されるケースが多い。

  • 成果基準型
    個人の成果やパフォーマンスを基準に、役職や職務を調整する仕組み。
    役職や処遇はその成果水準に応じて見直され、期待水準に満たない場合には役職変更やポストオフが行われる。

  • 役割基準型
    組織の戦略や役割設計を基準に、役職や職務を再設計する仕組み。
    判断の基準は個人ではなく、組織にとって必要な役割や機能に置かれる。事業環境の変化や組織再編に応じて役割そのものが設計・再構成され、それに伴って役職や配置が見直される。


筆者は、最後の「役割基準型」について、「そんなにこれ、行われているんだろうか?」と疑問を感じたのですが、本報告書には以下の調査結果も記されています。

これを診ると、多いのは「定年」(66.7%)と「役職定年制度」(51.9%)が該当する「年齢基準型」、次いで「降格」(47.7%)が該当する「成果基準型」ですが、「組織改編によるポストオフ」(28.8%)──つまり「役割基準型」──も相応に多いことが分かります。






ポストオフの問題点

まず考えられるのは、ポストオフされた当人が感じる不満でしょう。
本報告書では、「ポストオフの現在地 『役職を降りた日』の衝撃と葛藤」として、ポストオフをさせられた方々の生々しい声を挙げています。


  • 給与が何百万単位で落ちちゃったんです。こんなに落ちるんだっていうのが自分のなかで、ちょっとショックだった。(40代・元課長)

  • ほぼ左遷みたいな感じ。元同僚ともあまりしゃべりたくなかったので、1年半ぐらいずっと隅っこに座っていました。(40代・元営業課長)

  • 冗談で『首ですか』って話をしたら、そのまま降格だった。もうその日は興奮して寝られなかった。人生の中で一番きつかった通達です。(50代・元部長)


一方で、ポストオフされたことを前向きに捉えている方もいます。


  • このままやっていたら恐らく医者にかかるような状態に追い込まれてたんじゃないかなって思います。(40代・元役員)

  • ようやくノルマから解放されたなっていう安堵感が鮮明にありました。3割年俸が減っても、この苦しさから逃れられるならバランスしている。(60代・元部長)


前向きにポストオフを受け入れた方々に対し、企業側が個人の事情やメンタリティに配慮してポストオフを行ったかどうかは不明です。
ただし、先の「企業におけるポストオフの実施形態」調査では、当人からの希望によってポストオフを実施したケースが約3割あるとされています。
本報告書では、「自分を取り戻すために必要な選択だった。降格を申し出て良かったなって
心から思っています」(50代・元総務課長)という声も紹介されています。



一方で、ポストオフに対する戸惑いの声もあります。


  • 自分が評価していた人間が、今度は自分の上長になる。非常に過ごしづらいし、やる気はなかった。与えられたことしかやらないようにしていました。(50代・元部長)

  • 役職はあくまで役割でしかないので、あまり意識してない。自分の必要な役割を、自分で考えていかなきゃいけないなと思ってます。(40代・元役員)


企業がポストオフを行う際、留意しなければならない点としては、ポストオフされる当人たちのメンタリティと、役割の再構成があります。






企業はなぜポストオフを行うのか

本報告書では、ポストオフを行う企業側の事情を、以下のように説明しています。


  • 組織構造の更新
    ポストの滞留を防ぎ、新陳代謝や次世代リーダーの登用、管理職ポストの適正化を図る。


  • 長期雇用への対応
    定年延長などを見据え、ポストオフ後のベテラン人材の再配置や、非役職期間の働き方・組織貢献のあり方を調整する。


  • 個人キャリアの重視
    自律的なキャリア開発の促進や柔軟な働き方の両立など、個人の意識や選択に合わせる。


高齢化が進む組織では、管理職が目詰まりを起こします。
実際、「やたらと部長が多くない?」という企業はありますからね。


若手のやる気を創出するためにも、管理職の人数と顔ぶれを整理するというのは、雇用延長などに伴って企業にとっても頭の痛い、しかし避けては通れない問題になっているわけです。


「個人キャリアの重視」の中身は、ひとそれぞれでしょう。
9年前、秋元通信では以下のような記事を配信しています。



この記事では、子会社の社長まで務めた伝説の営業マンが、突然サブマネージャー(※一般的な会社で言う係長)に降格することを自ら望んだ結果、生じた混乱について記しています。


この記事で書いた例は極端です。しかし役職に伴う重圧を嫌がり、「自分のしたい仕事を、自分のやりたいように行う」ことを選ぶ人はいますし、昨元の風潮からしても、こういった考え方に対する理解は広まっています。


もちろん、子育てや介護などを理由に、仕事量を減らしたいと希望する人も増えています。
趣味や副業に、より時間を費やしたいと考え、自らポストオフを申し出る人もいるでしょう。






キャリアパスとポストオフ

本報告書では、2章で「当事者たちへの調査から見えた理想と現実」、3章で「人と組織の新たな関係」と続きます。
興味のある方は、ぜひ本報告書に目を通してください。


多くの場合、ポストオフが「役職が下がる」「給料が下がる」といった否定的な文脈とともに語られるのに、ポストオフが注目されるのは、企業側の都合があります。


人手不足が進む社会においては、高齢者の雇用も必須となります。
しかし一方で、企業における高齢者の割合が増えれば、若手の意欲を削ぐ可能性があります。さらに言えば、健康上のリスクが高まる高齢者に依存する企業は、組織運営上のリスクも高まります。


高齢者の知恵や労働力は頼りにしつつ、若手の登用にも、組織の活性化にも気を配らなければならない──こういった事情を考えると、ポストオフという制度はベストではないにせよ、企業経営にとってはベターな選択であるのでしょう。


スポーツ選手は加齢とともに、やがてパフォーマンスが下がっていきます。同様のことは、営業やエンジニア、その他企業における職務でも発生するという考え方があります。


例えば、「営業マンは一生進化し続け、常に成果を向上させられる」というのは幻想でしょう。だからこそ、多くの企業ではあるレベル・ある年齢まで達した営業マンは、管理職に登用し、個人ではなく組織のパフォーマンスを追求するようにミッションを変化させます。
ただしポストオフ問題は、この「管理職の席が足りなくなってしまうので」ポストオフを行わざるを得ないという、双互に作用し合う因果関係がコトを難しくしています。



「明確な役割が与えられず、処遇や期待が曖昧なままポストオフを迎えるケースもある。『特に明確な役割定義はない』と回答した企業が17.8%あり、役割や期待が十分に言語化されない課題もうかがえる」──これは本報告書からの引用です。
このような状態において、ある日突然「君、明日から課長に降格ね」と言われたら、「冗談で『首ですか』って話をしたら、そのまま降格だった。もうその日は興奮して寝られなかった。人生の中で一番きつかった通達です」(※前述。ポストオフ経験者の談話)という状態になるでしょう。


経営者は、ポストオフを行う(制度化する)という経営選択の理由や、ポストオフという制度に関する説明責任から逃げることなく向き合わなければなりません。



前述のエピソードに戻りましょう。
「僕は会社に残っていても、給料は下がっていたしなぁ」と言った先輩の心中には、「理不尽だけどしょうがないよね」という達観があったと考えられます。これは社会や勤務先の状況を当人たちが考え、勝手に納得している状態です。


しかし、若手はそうではありません。
若手は、きちんと説明をされないことに強い不満やストレスを感じます。
「全部を説明しなくても、なんとなく察してよ」というのは通用しません。


だからこそ、ポストオフを制度化する(した)企業には、強い説明責任が生じると筆者は考えます。
そうしなければ、守らなければならないはずの若手から、企業は愛想を尽かされてしまいますからね…。

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