2026年3月、厚生労働省は「トラック運転手、倉庫スタッフのスキルと給与とキャリアラダーの事例集 ~ スキルアップで適切に処遇を高める ~」を発表しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001686624.pdf
このレポート、参考になる点も多いのですが、読めば読むほどモヤモヤします。
とにかく、まずは内容を解説しましょう。
本レポートでは、まず運送従事者における給与の現状をデータとして示しています。

こちらの図は、年齢別の月額賃金について、運輸業と全産業の平均値を比較しています。これを見ると、20代以下では全産業の平均を上回っているものの、その後の賃金があまり伸びず、30歳頃から全産業平均に抜かされることが分かります。

こちらの図は、トラックドライバーにおけるスキルスコア(※後述)と給与水準を比較しています。
新人に対し、グループリーダーの給与水準は3割増しになっています。
ただ、色が他の産業に比べて高いのか低いのか、このレポートだけではわかりません。「第三四分位数」(※データを小さい順に並べたとき、初めから数えて75%の位置にある数値)と「第一四分位数」(※同様に25%の位置にある数値)の伸び率を見ると、平均値と第三四分位数はともに4割弱ですが、第一四分位数の伸び率は2割弱です。
やや乱暴な推論をすれば、新人とグループリーダーの間に、十分な給与のラダーを設けられない運送会社は、総じて賃金が安いと考えられます。

こちらの図は、倉庫スタッフ(倉庫作業員)における同様の比較図です。
新人に対し、グループリーダーの給与水準は4割増程度で、トラックドライバーよりはやや上昇率が高いです。
- 第三四分位数~平均値~第一四分位数の差が、トラックドライバーに比べて小さいこと
- スキルスコアの上昇率が、トラックドライバーに比べて大きいこと
これらから、トラックドライバーに比べて倉庫スタッフの方が業界内の給与水準が統一されていて、かつスキルに対する評価方法も整備されている可能性が示唆されます。
ドライバーに対しては、配車運行管理、輸配送作業、輸送梱包作業の3カテゴリに分けて、計33のスキルを、0点から3点までの4段階のスコアで評価しています。
それぞれの詳細は元レポートをご覧いただきたいのですが、本稿では新人とグループリーダーでスキルスコアの差が大きい上位5項目を挙げておきましょう。
- 運転者に対する指導監督(1283.3%)
- 乗務割の作成・遵守(803.4%)
- 運転者や車両の配置(740.6%)
- 乗務基準の作成・遵守(681.8%)
- 情報システムの導入推進(591.7%)
…、これってトラックドライバーのスキルと言うよりは、運行管理者(配車担当者)のスキルが混ざっている気がします。
倉庫スタッフの方は、事務作業、入荷・保管・出荷、流通加工の3カテゴリに分けて、計29のスキルを、同様に4段階のスコアで評価しています。
新人とグループリーダーでスキルスコアの差が大きい上位5項目を挙げておきましょう。
- 外部業者の手配・調整(1195.2%)
- 荷主との相談・調整(1171.4%)
- クレーム管理(1050.0%)
- 安全管理のルール創設(711.1%)
- トラブルへの対応(673.7%)
こちらについては、なるほどと思えるような結果になっています。
全般的に、ドライバーよりも倉庫スタッフに対するスキルの方が、腑に落ちます。これは、1人で働くことが多いドライバーよりも、チームで働くことが多く、またタスクも多い倉庫スタッフの方がスキルの可視化がしやすいという結果が現れている可能性があります。
◯ ドライバーの場合

◯ 倉庫スタッフの場合

ドライバー、倉庫スタッフであまり差はありません。
これも他産業との比較がなければなんとも言い難いのですが、他業界のベンチャー企業に努めていた筆者の感覚だと、10年前後の経験を積んで、ようやくグループリーダーの割合が30%を超えるというのは、だいぶ遅いように感じます。
厚生労働省では、このレポートの活用方法について、以下のように説明しています。
「物流業界や観光業界の各企業では、こうしたキャリアラダーと賃金をベンチマークとして、社内のキャリアラダーを整備し従業員のスキルと処遇を結び付けてみてはいかがでしょうか」
一方で、このレポートを作成した理由については、医療・保健・福祉グループ、保安・運輸・建設グループ、接客・販売・調理グループという社会インフラ関連職の3グループで、国内全就業者の約35%を占めている調査結果を挙げたうえで、「社会インフラ関連職は他の職業と比べて賃金水準が相対的に低く、スキルや経験を積み重ねても、十分に賃金へ反映されにくい状況」であると指摘しています。
先に挙げた調査結果は、あくまで現状のものです。
したがって、これらの結果をベンチマークにしても、これらの業界の課題は解決せず賃金上昇にもつながらないのではないでしょうか?
冷酷な表現にはなりますが、賃金をアップさせるのは就労者のスキルではなく、稼ぐ力(マネタイズ能力)です。稼ぐ力をアップさせるためにスキルは必要ですが、スキルアップが必ずしも稼ぐ力、ひいては賃金アップにはつながらないのが現状です。
稼ぐ力をアップさせるためには、就労者のスキルアップよりも経営能力のほうが大切でしょう。
本レポートは参考にはなりますが、スキルアップと賃金アップ、そして稼ぐ力の関係性を勘違いしそうです。
このあたりが、モヤモヤを感じる原因なんでしょうか…?






