秋元通信

「物流の2024年問題」解決に光明が見えてきた!?、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を解説

  • 2022.12.13

「2024年4月以降、トラック輸送における輸送能力が14.2%不足し、4億トンの貨物が運べなくなる」──これは、2022年11月に開催された、「第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」(経済産業省)のなかで、NX総合研究所(以下、NX総研)が発表した試算です。
「2024年4月以降」というのは、言わずもがなの「物流の2024年問題」です。
 
 
 

「物流の2024年問題」とは

 
「物流の2024年問題」とは、2024年4月1日以降、働き方改革関連法によって、トラックドライバーにおける年間の時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する諸問題を指します。
2019年4月に施行された働き方改革関連法によって、年間時間外労働は上限720時間に制限されました。ただし、長時間労働が常態化している建設業、医師、そしてトラックドライバーなどは、猶予期間が設けられていました。
 
その猶予期間が終わるのが2024年3月31日であり、労働時間に制限が設けられることから、トラック輸送のリソースが懸念されています。
 
 
 

物流の2024年問題のリアルインパクトと、その対処方法

 
NX総研の試算が示した、「2024年4月以降、トラック輸送における輸送能力が14.2%不足し、4億トンの貨物が運べなくなる」というのは、とても大きなインパクトです。すごく乱暴な考え方をすると、20個貨物があれば、3個は運べなくなるということですから。これは大変なことです。
 
一方、物流の2024年問題を解消する試算も行われています。
 

  • 現状発生しているすべての荷待ち時間において、18%の削減が実現した場合
  • 現状発生している荷役時間の3割において、10%削減された場合

 
ちょっと分かりにくいので解説します。
 
まずは荷待ち時間について。
試算では、過去のアンケート調査から、荷待ち時間が発生している運行は、24%としています。1運行における平均荷待ち時間は1時間34分です。これを、1時間17分に削減できればOKと試算しているわけです。
 
また荷役時間については、同様に平均荷役時間を1時間29分としています。荷役の発生しないトラック輸送はありませんから、これはすべてのトラック輸送における平均荷役時間となります。このうち、3割の運行について、1時間20分に削減できればOKという試算結果です。
ちなみに、荷待ち時間と荷役時間の削減については、「どちらか一方が実現できればOK」ではなく、両方の条件を実現する必要があります。
 
またこの試算は、過去のアンケート調査をベースに、現時点におけるすべてのトラックドライバーの総労働時間を算出し、その合計時間が働き方改革関連法をクリア(時間外労働が960時間以下)になるように単純計算した結果です。
荷待ち時間と荷役時間、それぞれをどれくらい削減するのかというバランス感覚については、NX総研の人々が頭を捻った結果なのでしょう。
 
「どうですか?、1日の荷待ち時間を17分、荷役時間を9分減らすことができれば(しかも荷役時間は3日に一回でOK)、物流の2024年問題なんて、恐れるに足りませんよ!」ということなんでしょうが。
 
かんたんなようで、結構難しいハードルに感じるのは筆者だけではないでしょう。
 
 
 

この試算の意義と問題点

 
まず、物流の2024年問題という、「大変なコトなのは確かなんだけど、どのように対策すれば良いのかが、いまいち分からない…」という課題に対し、「荷役・荷待ちの時間を削減すればなんとかなりそうですよ」という道筋を、それも具体的な数字を挙げて示したことは意義があるでしょう。
「運行ルートを効率化してください」とか、「トラックを増車してください」などと言われるよりも、よほど具体的かつ現実的です。
また、荷待ちと荷役という、主として荷主範囲の課題を取り上げ、物流の2024年問題解消の方向性を示したことも、プラスに働く可能性があるでしょう。
運送会社としても、「これこれこういう報告書がありまして、荷役時間(荷待ち時間)の削減に協力してもらえないでしょうか?」と荷主や配送先に交渉しやすくなる可能性があります。
 
一方で、荷主にとって、荷役・荷待ち時間の削減は、義務ではありません。
冷たい言い方をすれば、運送会社が年間時間外労働時間960時間以内を実現できなくて困っていたとしても、基本的には協力しなくとも罰則はありません。
そのため、特に配達先の荷役・荷待ち時間の削減は、なかなか進まない可能性もあります。荷主のお客さまとなる(ことが多い)配達先における荷役・荷待ち時間削減は、荷主が主体となってもらう必要があるのですけど。
また、これらの試算は、あくまで調査の結果得られた平均的なトラック輸送の実態を対象にしていることも課題です。総論であって、各論に通じるかどうかは不明なわけです。
 
「うちの荷主は、運送会社の事情なんて、何も気にしないからねぇ」という、困った荷主と取引をしている運送会社では、ドライバーの時間外労働時間を減らすのは相当苦労するでしょう。中小の荷主企業では、具体的な対策を取りたくても取れないケースもありえます。
 
今回の試算における、「荷役・荷待ち時間の削減が、物流の2024年問題を解消するポイントとなる」という指摘は、奇しくも「運送ビジネスの改善・改革は、手足となって動く運送会社という実働部隊ではなく、ビジネスの上流を担う荷主が動かないと推進できない」という、運送ビジネスの歪さを、あらためて明らかにしました。
 
どうなるんでしょうね、これ….
 
実際、2024年4月以降、労働基準監督署が突然運送会社を次々と摘発し始めるわけでもないでしょうから。
物流の2024年問題、行く末は見えないです。
 
NX総研の資料では、他にも2030年における物流危機の深刻さを試算しています。
試算によれば、2030年には、輸送能力の34.1%(9.4億トン)が不足する可能性があるとのこと。
 
今回の報告書が掲載されている経産省WebサイトのURLを貼っておきます。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/003.html
 
今回挙げられた資料は、どれも現在の物流業界におけるマイルストーンになりうる内容です。物流関係者は、(少々面倒ではありますが)すべての資料に目を通しておくことをおすすめします。
 
 
 


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