秋元通信

「多重下請構造のあり方に関する提言」(全日本トラック協会)を読み解く

  • 2024.4.18

全日本トラック協会は、2024年3月、「多重下請構造のあり方に関する提言」を発表しました。
これ、利用運送事業者(水屋)にとってはかなり厳しい…、というか、水屋に対し、強く敵対する内容になっています。
 
ご紹介しましょう。
 
 
 

「下請けは、2次下請までと制限すべき」

 
これが、本提言書における一番のポイントです。
ここで言う2次下請の定義については、このように説明しています。
 

  1. 運送事業者=元請の場合は、直接協力会社(1次下請)の下請け(2次下請)まで
  2. 運送事業者=1次下請の場合は、直接協力会社(2次下請)まで

 

出典: 「多重下請構造のあり方に関する提言」4ページ

出典:
「多重下請構造のあり方に関する提言」4ページ


 
 
あくまで、元請起点で1次下請、2次下請…、とカウントするので、「あれ、これって3次下請じゃないの?」と思う方もいるでしょうね。
 
 
 

利用運送におけるルール(モラル?)

 
まず、今年に入って新たに発表された「標準的な運賃」に準じ、以下を指摘しています。
 

  • 実運送事業者が、標準的な運賃を収受できることが大原則。
  •  

  • 元請運送事業者は、利用運送手数料10%(※標準的な運賃に記載)を乗せた形で荷主と価格交渉をすべき。
  •  

  • もし、荷主から利用運送手数料の収受が難しい場合でも、元請は実運送事業者に対し、標準的な運賃の水準を確保した適正な運賃を支払うべき。

 
水屋(利用運送専業事業者・取次事業者) については、非常に厳しい指摘をしています。
 

  • いわゆる水屋は、全てではないものの、輸送に関しての無責任さ、明確な運行指示のない単なる横流しを行う実態があるため、何らかの規制をすべき。
  •  

  • 多くの車両情報を持つ水屋が、実運送事業者の採算を度外視した車両の確保を行うことについては問題がある。
  •  

  • 水屋に対し、国土交通省等が適切な事業の実施をチェックする仕組みを設けるべき。

 
同様に、求貨求車システム等のマッチングサイトについては、「マッチングサイトを単なる『掲示板』とし、運営会社等が掲載内容に関与せず、野放しとなっているものも散見され、運賃相場を引き下げる温床となっている」と指摘したうえで、やはり厳しい指摘をしています。
 

  • 標準的な運賃を大幅に下回り採算のとれない水準の運賃は、運営会社等が低運賃の取引を防ぐため、自社のサイト等に載せないよう自ら厳しく規制すべき。
  •  

  • 国土交通省等から運営会社等に対して、掲示板に標準的な運賃と乖離した低い運賃が掲示されることがないよう、利用者に警告を行う機能を設けるなど適切な対策を講じるよう促すとともに、例えば低運賃の取引を放置するなど悪質な運営会社等に対しては改善の要請を行うべき。
  •  

  • 著しく低い運賃を掲示している掲示板の利用者(元請運送事業者や利用運送事業者等)をトラックGメンによる監視や監査による是正指導等の対象とすべき。
  •  

  • 求貨求車システムに掲載された情報を、そのまま再委託する行為は厳しく制限されるべき。

 
また、岸田内閣が推し進める「物流革新」政策で規定される「実運送体制管理簿」については、「中小事業者には、都度管理簿を作成するのは負担が大きい」と指摘したうえで、「国土交通省はすべての元請運送事業者に作成するよう丁寧な指導をするとともに、管理簿作成の効果を検証し、必要に応じて見直しを行うなど多重下請構造の是正に繋がる仕組みとすべき」としています。
 
このように、水屋については非常に厳しい提言をまとめたうえで、「車両を保有しない利用運送事業者へのトラック協会への入会は禁止すべき(※現在は、半数以上の都道府県トラック協会で入会できる規定になっている)」としています。
 
 
多重下請構造は、確かに問題でしょう。
ただ、下請構造の下位に甘んじてきた運送会社は、決して一方的な被害者ではなく、「営業力がない(乏しい)」「対外折衝能力が乏しい」といった課題を抱えているケースも多く、よって多重下請構造の下位に「なるべくして」なっているといった事情や理由も忘れてはなりません。
 
運送業界に限った話ではないのですが、多重下請構造は中小企業が多い業界・産業における互助機能としての役割も果たしています。
今回の提言には、「なぜ互助機能が必要なのか?」(=なぜ多重下請構造が生まれたのか?)という議論が抜け落ちていることを筆者は懸念します。
 
人の手で保護され育てられた野生動物は、そのまま自然に返してしまうと、自ら餌を取る方法など、生き抜くための方法を知らず、餓死し、あるいは上位捕食者に食べられてしまうという話があります。
同じようなことは、運送ビジネスの多重下請構造にも起こり得る課題ではないでしょうか?
 
本提言書は、「国土交通省における各種施策に反映いただけるよう要請を行う」とされています。
今後、「物流革新」政策の中に、どのような形で組み込まれていくのか、要注目です。
 
 
 


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