秋元通信

ダイナミックプライシングとは?、高速道路料金から宅配まで、さまざまなところで拡大中

  • 2024.3.29

こんなニュースがありました。
 

 
交通渋滞が課題となっている東京湾アクアラインにおいて、時間帯によって料金を変動させるロードプライシングの社会実験を行うという報道です。
 

  • 対象は、土日と祝日の千葉県から神奈川県に向かう上り線で、ETCを搭載したすべてのクルマ。
  •  

  • 午後1時から午後8時までは料金が50%値上げ。
  •  

  • 午後8時から翌日の午前0時までは25%値下げ。

 
結果、普通車の場合は、通常800円のところ、値上げ時間帯では1200円、値下げ時間帯では600円になります。
 
「20時前にアクアラインを渡ると1200円だけど、20時以降だと600円なのか…」、そう考えたドライバーたちが、通行時間をずらすことで交通渋滞を減少させ、あるいは「じゃあ、夕食も房総半島内で食べて帰ろうか!」という、地域の消費拡大も狙ってしまおうというのが、今回の施策、ロードプライシングの狙いです。
 
 
ではこの効果はどうだったのでしょう。
 

 
ニュース内で報告された効果を挙げましょう。
 

  • 渋滞によって余分にかかっている時間が土曜日は約31%、日曜日は約21%減少。
  •  

  • 通過所要時間は以下のように減少。
    • 土曜日:
      試験導入前:最大35分 → 試験導入後:最大24分(11分の減少)
    •  

    • 日曜日:試験導入前:最大47分 → 試験導入後:最大37分(10分の減少)

     

  • 渋滞の長さは、ロードプライシング導入前:平均12.6kmに対し、導入後:平均10.9kmまで減少。
    また、10km超の渋滞の発生日数は、導入前は28日間のうち27日だったのに対し、試験導入後は26日間のうち17日まで減少。

 
要はロードプライシング導入前の土日祝日は、ほぼ毎日渋滞が発生していたのに、導入後は約35%減少したというのですから、一定の効果はあったということでしょう。
ただし、ロードプライシングによる渋滞削減効果は、社会実験が開始された2023年7月22日以降、月日が経過するにつれて、だんだんと下がっていることも報告されています。
 

  • 通過所要時間の変化
  •  

    • 試験導入開始時~8月20日:最大38分
    •  

    • 試験導入開始時~9月18日:最大41分
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    • 試験導入開始時~12月3日:最大47分

 
千葉県では、効果が低下した理由について、「ロードプライシングに対する認知度の低下」「冬にかけて日没が早まったことで、帰宅時間も早まった」と考察しています。
 
 
 

ダイナミックプライシングとは

 
ダイナミックプライシングとは、商品やサービスの需要や供給状況に合わせて価格を自動的に調整する価格戦略です。
先に挙げたロードプライシングも、ダイナミックプライシングの1種です。
 
ダイナミックプライシングにおける消費者側のメリットは比較的分かりやすいです。
その商品やサービスを購入するうえで必要な本来の価格よりも安く入手できる機会が提供されることです。
 
対して、商品・サービス提供者側のメリットはさまざまです。
 

  • 収益の最大化
  • 需要波動の平準化
  • 需要喚起
  • 在庫管理の効率化

 
解説します。
 
販売における機会損失は、売り手側にとってもっとも忌むべきことです。
その商品・サービスを「買いたい!」という人がいるのに、在庫やサービス供給余力がなく、販売機会をみすみす失ってしまうわけですから。
 
商品・サービスの供給能力を超えた需要は、機会損失につながります。
「1.収益の最大化」を行うために、商品・サービスの供給能力を超えた波動の上振れ部分を、波動が少ない時期に移行させること(=需要波動の平準化)で、収益の最大化を図るわけです。
 
アクアラインにおけるロードプライシングの例で言えば、「交通渋滞が頻発している」という情報は、アクアライン利用者、ひいては房総半島への観光需要に対してネガティブな要素となります。
例えば、「夏休みの間はアクアライン渋滞しているからね。家族旅行は渋滞する房総方面を避けて、山の方に行こうか?」と考える人だっていますからね。
 
高速道路における交通渋滞は、「健全な道路通行」という在庫を超えて、需要が上振れした状態です。
ロードプライシングを活用し、在庫に余裕がある夜間帯へ通行を誘導することで、利用者の満足も向上させられます。また高速道路公団側も、「渋滞するんだったら行かない」という利用者の認識を変えて、売上を向上させることができます。
 
 
「需要喚起」については、ホテルの宿泊料金の例で考えましょう。
 
ホテル等の宿泊施設の場合、土日祝祭日やゴールデンウィーク、お盆、シルバーウィーク、年末年始などは、宿泊費が上がります。
 
余談ですが、近々筆者は房総半島方面へ家族旅行を計画しているのですが、ゴールデンウィークと6月の平日では、宿泊料金が2倍どころか3倍近く違うケースもあることに驚きました。
これだけ料金差があると、以下のようなネガティブ要素を踏まえても、6月の平日に旅行したくなります。
 

  • ゴールデンウィークではなく平日に旅行をすると、有給を取らなければならないこと。
  •  

  • 5月ではなく6月に旅行すると、梅雨に入ってしまい、旅行中雨が降る可能性があること。

 
結局、6月に旅行をすることにしました。
 
 
話がずれました。
ホテル側とすれば、ゴールデンウィーク中の宿泊料金と、6月平日の宿泊料金に価格差を設定することで、「ゴールデンウィーク中には在庫(空き部屋)が減る」「6月の平日は在庫が余る(空き部屋がたくさん生じる)」という需給のギャップを解消し、需要が低下する時期の需要喚起を図ることができるのです。
 
 
在庫管理については、アパレルを取り扱うECサイトを例に考えましょう。
 
「夏になると夏物が売れる」「冬になると冬物が売れる」、当たり前です。
 
しかしそれぞれの季節品が売れる時期に合わせて在庫を持つと、在庫量の波動に大きな差が生じます。
例えば、波動が大きくなる時期には、フルフィルメントセンターの保管スペースが足りなくなるケースもあるでしょうし、作業員等の人数も多めに配置することも必要です。
 
これを避けるために、例えば、真夏に冬物セールを行ったらどうでしょうか?
一般的に「ニッパチ」と言われ、2月と8月は閑散期と言われます。
 
8月にセールを行えば、過剰な在庫を保有することなく、売上を上げることができます。
 
アパレルなどの季節を先取りしたセールには、需要の先食いであるという批判もあります。つまり、「本来は10月に上がったはずの売上が、8月にずれただけじゃないか?」という考え方です。
こういった考え方にも一理あるのですが、しかし在庫管理の効率化という観点で言えば、メリットも大きいわけです。
 
ダイナミックプライシングは、他にも航空券や飲食業、あるいはコンサートや映画、観劇、さらにはアミューズメントパークなど、さまざまなシーンで利用されています。
 
 
 

ダイナミックプライシングのリスク

 
とは言え、ダイナミックプライシングは万能ではありません。
 
例えば、需要の波動を読み間違えると、「あれ、これじゃあ単なる安売りでしかないよね!?」ということも起こり得ます。
そもそも、需要を予測するというのはかんたんではありません。
 
航空券を例に取れば、「この時期、東京~沖縄便は、お客さんが少ないんだよなぁ」と考え、料金を安くしたら、なぜか満席を起こすほどの需要が生じてしまうケースもありえます。
仮にですけど、例えば沖縄を舞台としたドラマが人気を博し、それによって撮影地を巡る聖地巡礼重要が高まってしまえば、航空券を安売りすることなく、売上を上げられたはずです。
 
需要予測は、単に取り扱う商品・サービスの過去販売実績だけから得られるものではありません。マーケットや社会情勢など、さまざまな要素が上振れ・下振れの原因となります。
 
お客様が感じる不公平感も課題です。
極論ですが、年末年始になると、1泊4万円で売り出す温泉旅館が、閑散期には1泊5千円だったらどう感じますか?
 
中には、「繁忙期には、ぼったくる旅館なのね!」と思い、「ということは大した旅館ではないよね…」と、旅館そのものの価値を低く勘違いする人もいるでしょう。
 
他にも、ダイナミックプライシングは、情報弱者には届きにくいという課題があります。
先のアクアラインの例でも、社会実験開始から時が経過するにつれて、その効果が薄れている理由のひとつに、「ロードプライシングに対する認知度の低下」が挙げられていました。
 
ダイナミックプライシングは、上手に活用すれば売上向上などのメリットがありますが、不適切な活用は利益の圧迫や、ブランドイメージの低下にもつながるリスクがあります。
 
 
 

ゆっくり配送という、運送業界におけるダイナミックプライシングの可能性

 
一部のECサイトが、配送予定日を確約せず、長めのリードタイムを取る「ゆっくり配送」「ゆっくり宅配」「おトク指定便」などと銘打ったサービスを開始しています。
 
事業者によって違うはあるのですが、例えば「4月1日から5日までのいずれかの日に配送を行う」といったゆとりのあるリードタイムを設定する代わりに、顧客に対してはポイント還元等のメリットを提供しているようです。
 
「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスでは、トラック輸送における輸送効率の低下が問題とされます。
90年代には60%近くあった輸送効率は、昨今40%以下まで低下しています。この原因のひとつとして挙げられるのが、過度な配送リードタイムの圧縮(例えば翌日配送や当日配送)や、時間指定です。
 
極論ですが、「◯月◯日の午前中に届けてくれ」と言われれば、仮に運ぶ荷物がひとつしかなくとも、運送会社はトラックを走らせなければなりませんから。
 
ゆっくり配送は、「運ぶべき荷物が溜まってから配送する」ことで積載効率を向上させ、また輸送にかかるトラックの台数も削減することが期待されています。
 
 
さまざまなダイナミックプライシングの例を挙げてみました。
デメリットもありますが、ダイナミックプライシングは賢い販売戦略として、さまざまな業界や、商品、サービスで活用され始めているのです。
 
 
 


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