秋元通信

「地頭が良いこと」よりも、「問いを立てるチカラ」が注目されつつある理由

  • 2024.7.24

先日、とても興味深い質問を受けました。
 
「世の中では、物流ロボットやら自動倉庫やらが注目されているじゃないですか?
でも、他の3PLさんって、そんなに現業に問題を抱えているのでしょうか?
どうして他社が、今、急いで自動化や無人化を進めているのか、理由がいまいち分からないんですよ」 
 
質問をくださったのは、ある大手3PL企業の部長です。仮に、A部長としましょう。
A部長は、「もし大きな課題を抱えている企業があったら、そもそもその企業はビジネスを継続できていないはず」だと言います。
 
つまり、今ビジネスを継続できているということは、額の大小はともかくとして、利益は出ているはずだと、A部長は指摘しているのです。
さらに、物流ロボット・自動倉庫などの導入事例で登場する企業の多くは、業界でも名の知れた大企業が多いことを、A部長は言及します。
 
「『飽くなき利益追求』ってことでしょうか? でも、まだ海のものとも山のものとも分からない物流ロボット・自動倉庫を導入するって、ある意味冒険ですよね。
現状、そこまで差し迫った危機はないのに、なぜそこまでやるのでしょうか?」
 
差し迫った危機はない?
 
これだけ「物流の2024年問題」が騒がれ、人手不足が社会課題化している今、A部長は危機感を感じないのでしょうか?
 
 
 

以前は、「地頭の良さ」が求められていた

 
筆者は、A部長のご意見に違和感を感じました。と同時に頭に浮かんだのが、「地頭の良さ」というキーワードです。
話がずれるように感じる読者もいるかもしれませんが、「地頭の良さ」について、解説させてください。
 
以前、Webサイト制作を手掛けていた筆者は、数多くの企業における採用情報サイトも制作してきました。
「Webサイト制作」と聞くと、多くの人は、Webサイトを新規に構築、あるいはリニューアルすることを思い浮かべます。しかし、Webサイト制作会社の仕事の多く(少なくとも筆者の場合)は、採用サイト関係の仕事です。
 
考えてみれば当たり前なのですが、企業サイトや商品・製品サイトなどは、毎年手を加えることはありません。そこまで頻繁に更新する必要がないからです。
一方で、採用情報サイトについては、最低でも毎年、募集要項ページは最新情報に更新する必要がありますし、大手企業を中心に、毎年デザインを変え、内容を変え、リニューアルする企業も少なくありませんでした。
 
「どんな学生に応募してほしいのか?」──採用情報サイトでは、必須となるこの質問に対し、筆者の経験上、もっとも多いコメントが「地頭の良い学生が欲しい」でした。
 
 
「地頭が良い」とはどういうことでしょうか?
 

  • 論理的思考力、問題解決能力、学習能力などを備えていること
  • 「地頭の良さ」は、知識を習得し、課題を解決するために必要な基礎的な能力となる

 
ひらたく言えば、「考えるチカラ」ということでしょうか。
 

  • 与えられた職務だけを受け身で黙々とこなすのではなく、自身で自発的に考え、自らのスキルアップも図りつつ、職務遂行能力を高めていくこと。

 
「地頭が良い学生が欲しい」、あるいは、「地頭の良い社員になって欲しい」という言葉の裏には、このような企業側の願いがあります
ただし最近では、「地頭が良い」ではなく、「問いを立てるチカラ」を学生や、あるいは従業員に求める企業が増えています。
 
先のA部長に関して言えば、A部長は、地頭の良い人ではあるのでしょう。
「物流の2024年問題」、あるいは物流クライシスというキーワードに惑わされず、自分自身の脳力で、課題を再検証することができるわけですから。
 
ただ、導いた考察は、どこかずれていますし、独りよがりな印象もあります。
なぜ、地頭が良い(と思われる)A部長は、ずれた考察に至ってしまったのでしょうか。
 
その原因こそが、「問いを立てるチカラ」の欠如だと、筆者は考えています。
 
 
 

物流センターの自動化を進める理由

 
別のエピソードをご紹介しましょう。
 
大手メーカーB社は、物流センターの自動化を推し進めています。仕事柄、筆者はさまざまな物流改善の取り組みを取材してきましたが、B社の取り組みは、他社よりかなり先進的な部類です。イノベーター理論で言えば、アーリーアダプターに当たるでしょう。
 
→参考
イノベーター理論とは
 
B社は、なぜそこまで自動化に積極的なのでしょうか?
背景にあるのは、「問いを立てるチカラ」が導いた、B社ならでは危機感でした。
 
先に挙げたエピソードにおける、A部長の鈍感さは言うまでもありませんが。
現在、「物流の2024年問題」を筆頭に、物流クライシスに対する危機感が、広く認知されています。
 
筆者が行う物流現場の改善事例取材でも、多くの企業が、改善を行う理由として、「物流の2024年問題」や物流クライシスを挙げます。
 
ところが、B社では、「物流の2024年問題」・物流クライシスの文脈からもう一歩踏み込んで、自社ならではの問いを立てて、危機分析を行っていました。
 

  1. B社が運営するメインの物流センターは、B社創業の地であるC市にある。
    C市から物流センターを移転させることは、地元の雇用創出というCSRの観点からも、創業地に対する会社の想いとしても考えにくい。
  2.  

  3. 一方、地方都市であるC市では、少子高齢化による人口減少、これにともなう就労可能人口の減少が続いている。
  4.  

  5. B社が掲げる事業拡大計画に従い、物流センターに求められる倉庫作業員の人数を考えると、2040年時点でC市における就労可能人口の予測人数における、およそ半分を必要とする。
  6.  

  7. C市における就労可能人口の半分を、B社物流センターが確保することなど、現実的にはできるわけがない。仮に実現したとしても、そんなことをすればC市の産業は壊滅状態に陥るはず。
    これでは地元貢献どころか、むしろB社はC市にとって有害な企業となってしまう。

 
だから、B社は強い危機感を感じ、物流センターの自動化・省人化を進めていたわけです。
 
 
繰り返しになりますが、物流改善・変革を進める多くの企業が、「物流の2024年問題」や物流クライシスを、改善・変革を行う理由として挙げます。
ただし、B社のレベルにまで、より深く、より精緻に問いを立てて課題を分析、すなわち課題を「私事化(ワタクシゴトカ)」できる企業は、まだそれほど多くはありません。
 
B社は、「問いを立てるチカラ」が他企業と比べても、優れていることが分かります。
 
 
 

「問いを立てるチカラ」とは

 
「問いを立てるチカラ」とは、問い(課題)として認識すらされていない、未認知の(あるいは「暗黙知状態にある」)課題に気づくチカラであり、さらなる改善や進化を導くために求められる能力です。
 
問いを立てるためには、眼の前にある事象に対し、これまで以上に多角的な視野が必要になります。
 
昨今、「問いを立てるチカラ」が注目されるようになり、企業の中には、学生に対する募集要項、あるいは求める人材像に、「問いを立てるチカラ」を挙げるところも出てきました。
 
 
なぜ、「地頭が良い」では駄目なのでしょうか?
その答えは、冒頭に挙げたA部長とB社の比較すれば明らかです。
 
 
現在は、VUCAの時代と言われます。
詳しくは以前の記事をご覧いただきたいのですが。
 
→参考
予測不可能な現代を表すキーワード「VUCA」とは
 
社会の仕組みが複雑になり、予測不可能なことが頻繁に起こる今、「地頭が良い」だけではもはや乗り切れなくなっています。課題そのものも複雑化・多様化し、課題そのものを把握することすら難しくなっています。
 
だからこそ、より深く考えるための方法論であり能力として、「問いを立てるチカラ」が求められてきているのです。
 
 
とは言え…
地頭が良いことが、不要になったわけではありません。
 
むしろ、「地頭の良さ」は「問いを立てるチカラ」の土台となります。地頭が良いことの構成要素である論理的思考力や問題解決能力は、「問いを立てるチカラ」を発揮するための基礎能力となります。
 
 
さて、今回は、「地頭の良さ」から「問いを立てるチカラ」へと社会のニーズが変わる背景を中心に考えました。
次回は、「問いを立てるチカラ」が必要とされる理由や、その育て方を考えます。
 
お楽しみに!


関連記事

■数値や単位を入力してください。
■変換結果
■数値や単位を入力してください。
■変換結果
  シェア・クロスバナー_300