秋元通信

なぜ今、ハイブリッドワークが注目されているのか?

  • 2024.7.24

「出社か、それともテレワークか」の二者択一ではなく、出社とテレワークを都合に合わせて使い分けるハイブリッドワークが増えつつあることを、前回お届けしました。
 
前回記事から引用しましょう。
 

「週5~7日、テレワークを実施する」言わばフルタイムテレワーカーが、2022年度:18.7%から2023年度:17.7%に減少している一方で、「週1日以上テレワークをする」という人の割合は、2022年度:72.4%から2023年度:75.5%へと増えているのです。
 
「週1日以上テレワークをする」人の割合は、2021年度:78.0%でしたから、コロナ禍の水準には達していないまでも、テレワークそのものがコロナ禍とは違う理由で定着しつつあることを示しています。

 
ではなぜ、ハイブリッドワークを行う人が増えているのでしょうか?
 
 
 

テレワークは、生活満足度を向上させる

 
国土交通省の調査によれば、テレワークをしている人の約4割が、「生活の満足度が上がった」と答えています。対して、「生活の満足度が下がった」と答えた人は、わずか5.6%しかいなかったそうです。
 
この調査では、生活満足度について、複数の項目を挙げてアンケートを取っています。
 
「テレワークをすることで満足度が上がった項目」としては、「子育てのしやすさ」(32.6%)を筆頭に、「心の健康」(27.6%)、「介護のしやすさ」(25.9%)が続きます。
 
逆に、「テレワークをすることで満足度が下がった項目」の筆頭は、「身体の健康」(17.4%)、次いで「レジャー・余暇」(16.3%)、「心の健康」(12.8%)と続きます。
 
なぜ、テレワークをすることで「レジャー・余暇」への満足度が下がるのか、本調査ではその理由は示されていません。
 
また、割合こそ大きく違いますが、テレワークのメリット、デメリットの双方に「心の健康」が出ているのは留意すべきでしょう。
さらに言えば、「身体の健康」については、「下がった」とした人が17.4%いる一方で、「上がった」とした人も21.7%おり、ほぼ割合が拮抗しています。
 
このあたりについては、テレワークそのものの問題と言うよりも、テレワークをさせる側、すなわち会社側にも原因がありそうです。
 
 

 
 

テレワークの良いところ、悪いところ

 
・テレワークが個人や社会に与える良い影響とは?
※以下、かっこ()内の数字は、「とてもそう思う」「そう思う」の合計
 

  • 通勤の負担が軽減される (67.2%)
  •  

  • 通勤に費やしている時間を有効に使える (62.3%)
  •  

  • 災害や事故発生時でも出勤しなくても業務を行え、BCP(事業継続性)が確保される (55.9%)
  •  

  • 鉄道混雑や交通渋滞が緩和される (59.9%)
  •  

  • 出勤が負担となる人(子育て、介護、病気、けが、障がい、加齢等)も働き続けられる (59.6%)

 
 
・テレワークが個人や社会に与える悪い影響とは?
 

  • 運動不足になる、外出が減る (53.6%)
  •  

  • オン・オフの切り替えが難しくなる (49.3%)
  •  

  • コミュニケーションが取りづらく、業務効率が低下する (43.0%)
  •  

  • 勤務時間が長くなる、いつでも勤務してしまうようになる (35.2%)
  •  

  • 消費活動がオンライン化し、地域での消費活動が減る (27.9%)

 
 
良い影響、悪い影響をそれぞれ診ると、良い影響の方が、テレワークがもたらすメリットとして一般化しやすい内容であることに対し、悪い影響の方は、テレワークをする本人あるいは企業の課題と思われる内容になっています。
 
例えば、悪い影響で挙げられた「運動不足」は、テレワークをする当人次第でどうとでも改善可能です。筆者の知人の中には、通勤時間に該当する時間帯にウォーキングをしている人、あるいはテレワーク中の昼休みは、あえて遠くのスーパーまで買い出しに行くという人もいます。
 
「コミュニケーションが取りづらく、業務効率が低下する」というのも、やり方次第ですね。テレワークを積極的に行っている会社の中には、雑談用のチャット(もしくはTV会議スペース)を常時開放しておくことで、コミュニケーション不足を補うという事例もあります。
 
一方で、TV会議で、カメラをオフにすることがデフォルトになってしまっている会社もあります。こういった会社では、ノンバーバル・コミュニケーション(※身振り、手振り、あるいは表情などの非言語コミュニケーションのこと)ができなくなるので、コミュニケーションに支障が生じるのも当然でしょう。
 
ちなみにコロナ禍の緊急事態宣言中にGoogleが開催したテレワークに関するオンラインセミーでは、テレワークにおけるコミュニケーション不足を補うために、Googleでは以下社内ルールを定めているという話があり、「なるほど、さすがGoogle!」と感心しました。
 

  • TV会議の冒頭10分間は、雑談をすること
  • 背景は、リアルな部屋の様子を映すこと(バーチャル背景などは禁止)
  • 犬猫などのペット、あるいは子どものTV会議乱入は全然OK(というよりも、場を和ませるオプションとして、むしろ歓迎)

 
 
 

テレワークに対する役職別、あるいは年齢層別の考え方

 

 
 
詳しくは、アンケート結果をまとめた上図を見てほしいのですが。
 

  1. 役職が低い人ほど、フルタイム出勤(週5日出勤)を望み、テレワークを忌避する傾向が高い。
  2.  

  3. 50歳未満と50歳以上では、概ね50歳未満のほうが、テレワーク実施に対する意向が高い。
  4.  

  5. 経営層・役員クラスに限って言えば、フルタイムテレワーク(週5日テレワーク)を望む50歳未満は、50歳以上の倍以上になった(50歳以上:9.8%に対し、50歳未満24.3%)

 
 
「50歳未満を若い人とみなすかどうか」という議論はありますが、経営者の年齢層によって、これだけテレワークに対する意識に違いが生じていること(上記3.)は、興味深いです。
 
また、平社員ほど出社したがる(上記1.)というのもおもしろいです。
 
ちなみに、テレワークをしている人に対し、会社が出社を指示した場合ですが、50歳以上では7割以上が「会社の方針に従い出社する」と答えた一方で、29歳以下では「会社の方針に従い出社する」と答えた人は、55.5%まで減ります。しかも、1割が「転職または独立起業を検討する」としています。
 
 
この調査では、詳細なクロス分析は発表されていないのですが。
もしかすると、年齢の高い低役職者(平社員含む)はテレワークを忌避する傾向が高い一方で、年齢の低い低役職者はテレワークをしたがるという二極化が進んでいる可能性があります。
 
 
 

テレワークの普及が、消費にもたらす影響

 

  • 55.9%が、「テレワークをするようになってから、勤務地近くでの『食事・飲み会』が減った」と回答
  •  

  • 同様に、「食料品・日用品の買い物」(26.7%)、「趣味・娯楽(映画鑑賞・コンサート等)」(28.3%)も勤務地近くで行うことが減ったと回答。
  •  

  • 逆に、自宅近くでの「食料品・日用品の買い物」が増えたとする人が、37.1%。
  •  

  • ただし、「食事・飲み会」については、自宅近くにおいても27.4%が減ったと回答。同様に、「趣味・娯楽(映画鑑賞・コンサート等)も19.7%が減ったと回答している。

 
 
テレワークが普及することによって、総じて外食などの消費が減っているというのは、「面倒くさいから」というのもあるのでしょうね。
確かに、筆者も飲み会等がある場合には、テレワークではなく、取材や打ち合わせなど、外出のスケジュールを入れるようにしてしまいますし。
 
テレワークが、映画鑑賞やコンサート等に行く機会を下げてしまうというのは、エンタメ業界にとっては悩ましいことではあるでしょう。
動画配信サービスが活況を呈しているのは、こういった事情もあるのかもしれません。
 
 
 
さて、2回に分けてお届けしたハイブリットワークに関する調査結果、いかがでしたでしょうか。
 
新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、強制的に実施せざるを得なかったテレワークは、アフターコロナの社会において、いったん出社への回帰傾向を示した後、新たな価値を見出されて、出社とテレワークを使い分けるハイブリッドワークという形で再評価されています。
 
こういった流れから見えてくるのは、働く人たちの生活事情や、あるいは仕事の成果を追い求める過程において、最適な働き方を実現したいという、働き方の多様化に対するニーズです。
 
もしあなたの会社で、「出社が良い」、あるいは「テレワークが良い」といった二者択一の議論をしているとしたら。
もはや時代の潮流から取り残されている可能性があります。
 
 
 

※参考および出典

 

 
 
 


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