秋元通信

「問いを立てるチカラ」を鍛える方法

  • 2024.7.31

前号において、「問いを立てるチカラ」について、以下のように説明しました。
 

「問いを立てるチカラ」とは、問い(課題)として認識すらされていない、未認知の(あるいは「暗黙知状態にある」)課題に気づくチカラであり、さらなる改善や進化を導くために求められる能力です。

 
前号では、「地頭の良さ」から「問いを立てるチカラ」に企業の求める人材像が変わりつつある様子やその理由をご紹介しました。
ではなぜ、「問いを立てるチカラ」は求められるのでしょうか?
 
 
 

【「問いを立てるチカラ」が求められる理由】 生成AIとの関係から

 
Googleの生成AIであるGemini(ジェミニ)に、「問いを立てるチカラ」が今求められる理由を尋ねたところ、とても興味深い答えが返ってきました。
 

「『問いを立てるチカラ』が注目されている理由の一つとして、ChatGPTやGeminiのような生成AIの存在が挙げられます。
 
生成AIは、膨大な量のデータから学習し、文章生成、翻訳、要約など様々なタスクを実行することができます。しかし、生成AIには、自ら問いを立てたり、本質を見抜いたりする能力がありません」

 
だから、AIにはできない、人間にしかできないこととして、洞察力とともに、「問いを立てるチカラ」が今注目されているというのです。
 
 
 

師弟関係を基本としてしていた、従来の組織

 
AIが起点なのかどうかはともかくとして、いろいろな意味で、これまでのやり方が通用しなくなっているのは確かなのでしょう。
 
従来の企業組織における上司と部下、先輩と後輩のような階層関係は、基本的には師弟関係に近いものです。
経験・知識・技能のいずれにおいても優位に立つ先達(※先輩や年配者)が、後進(※後輩や部下、新人)にスキルトランスを行うことで、企業は企業文化・スキルの伝承を行い、また新陳代謝を繰り返しながら拡大も実現してきました。
 
この考え方は、対象となる業務やビジネスに必要な経験・知識・技能が、「変わらない」ことを前提としています。
実際には、ビジネスやその環境は日々変わっていくので、「変わってはいるのだけれども、変わったとしても、ある程度、先達の経験・知識・技能の延長線上にあり、大いにこれらを参考にすることができた」ということでしょうか。
 
しかし、現在は違います。
それまで内燃機関を作ってきた自動車メーカーが、EVのようなモーターの世界に変遷していくとおり、先達の経験・知識・技能が、十二分に参考にできない世界へと変遷しつつあるのです。
 
 
 

古い経験則にしがみつく先輩と、「問いを立てるチカラ」

 
筆者がWebサイト制作・Webアプリケーション開発を行うシステム会社に転職したとき、ある先輩がいました。筆者よりも年齢で10近く上の、この先輩の前職は、ある大手製紙メーカーの営業でした。
 
この先輩は転職した当初の筆者の教育係だったのですが…。
気は良い人だったのですが、ビジネスに対するジェネレーションギャップに、筆者は悩まされることになります。
 
 
「議事録は事実だけを書くんだよ!君の所感とか、不要だから!!」
 
「営業が制作に口を出すのはNGだ!営業はお客さまとの関係づくりにチカラを注ぐべきであって、制作内容に口を出すもんじゃない!!」
 
 
筆者はこの会社に転職する前、ベンチャー企業にいました。
ベンチャー企業、そしてその顧客を含めたエコシステムの世界では、「意見を言わない」人は評価されませんでした。意見することは当然で、意見の内容の良し悪しで評価される世界にいた人間が、いきなり「意見するな!」と説教されたわけです。
 
「えっ…、Web屋の世界って、そうなの…?」、結局、間違っていたのは先輩であって、僕ではありませんでした。状況を見かねた部長が、先輩を筆者の教育係から外し、部長自身が教育係になってくれた結果、1年も経つと、筆者の営業成績は、先輩を大きく上回り始めたのです。
 
おそらく、地頭の良さでは、先輩も筆者も、そう変わらなかったはずです。
違うのは、「問いを立てるチカラ」だったと、筆者は考えています。
 
 
このエピソードは今から20年近く前のことです。
今から考えると、製紙業界という古いビジネスの世界にいた先輩が、その古い業界で身につけた仕事の進め方を捨てられなかったことが、当時最先端であったWebビジネスにマッチしなかった原因だと、筆者は考えています。
 
筆者は、当時Webビジネス素人だった自分が投げかける意見や疑問に対する自社の制作スタッフやお客さまの反応をとても楽しんでいました。
言ってみれば、筆者の問いが引き起こすハレーションが次々と連鎖し、より良いモノへの昇華していく過程に夢中になっていたと言えます。
 
 
 

「問いを立てるチカラ」を身につける(あるいは「強化する」)方法

 
「残念ながら」、あるいは「当たり前ですが」、「問いを立てるチカラ」は、一朝一夕で身につくものではありません。
 
「問いを立てるチカラ」を身につけるために必要な要素を考えていきましょう。
 

  • 観察力
    大前提として、「問いを立てるチカラ」は、その問いの対象となるモノを知覚しなければ発動しません。観察力は、問いの対象となるモノを見出すための第一歩と言えます。
  •  

  • 知識
    問いの対象となるモノに対し、問いを具体化するためには、知識が必要となります。他のモノや事象と比較することで、問いを具体化するのです。
  •  

  • 多角的な視野
    立てた問いが、何か良い変化をもたらすモノであるためには、問い、あるいはその回答たる仮説のバリエーションが必要となります。
    そのために必要なのが、多角的な視野です。
  •  

  • 経験
    「問いを立てるチカラ」を身につけるって、結局のところは筋トレです。
    何度も繰り返すことで、「問いを立てるチカラ」を生み出すための脳内回路、あるいは思考回路を、より優れたものへと成長させる必要があります。

 
 
余談です。
実は筆者、この原稿は、スターバックスコーヒーで執筆しています。
 
暑い夏の日にスタバに来ると、なおさら感じるのですが。スタバって、どこの店舗も冷房が強すぎると思いませんか? まあ、暑がりな筆者は、あえて強すぎる冷房を期待して、隣りにあるコメダ珈琲ではなく、スタバに来ているのですが。
 
Googleで、「スタバ 寒い」と検索すると、冷房が強すぎることを訴えるコンテンツがヒットしますが、「スタバ 暑い」では、「冷房が弱い」という内容のコンテンツはヒットしません。
ということは、スタバの冷房が強いことは、スタバ全体の方針なのでしょうか?
そして、それはなぜでしょうか?
 
この「立てた問い」について、先の要素を当てはめましょう。
 

  • 観察力
    「スタバは冷房が強い」ということに気づくことができる観察力。
  •  

  • 知識
    「他のカフェでは、必ずしも冷房が強くない」という知識。

 

    「多角的な視野」については、この問いに対し、どのような目線で仮説を立てるのか、そのバリエーション数が試されます。
     

  • 「暑い外から迎えたお客さまにより強い爽快感を与えるための冷房設定」という接客目線での考え方
  •  

  • 「冷房を強くすることで、長時間滞在客を減らし、客の回転率を高めよう」という経営目線での考え方
  •  

  • 「紙ストローの導入など、環境貢献をうたっていながら、電気を無駄遣いしている」という、環境目線での批判的な考え方
  •  

  • 「店内の冷房を強くすることで、冷蔵・冷凍が必要な商品に対する冷蔵・冷凍コストを、トータルで考えると軽減できる」という、店舗運営での考え方

 
「問いを立てるチカラ」は、より高い次元での問題解決能力を得るための方法論です。
そのためには、こういった多角的な視野が必要となります。
 
ちなみに、「問いを立てるチカラ」を育成する方法として、世の中では「ワイ・ハウ・ラダー(Why-How Ladder)」やデザイン思考、あるいはマインドマップなどの活用が挙げられています。
 
マインドマップについては、以下記事で取り上げたことがありましたが。
 

 
興味がある方は、その他の方法も検索してみてください。
 
 
筆者は、物流ロボット、物流ITなどの事例取材も行っていますが、(当たり前ですが)こういったものは、前例がないんですよね。
 
導入する理由を前例に頼ってしまうと、どうしても「導入しない」という否定する結果に結びついてしまいます。なので、こういった先進的な取り組みを行えている企業って、問いに問いを重ねて、仮説の精度を高めてから、導入しています。
つまり、「問いを立てるチカラ」が高い企業が、先進的な取り組みを行っていることになり、逆に言うと「問いを立てるチカラ」が足りない企業は、なかなか先進的な取り組みができないという二極化が進んでいます。
 
二極化のどちらに位置するかはあなた次第です。
ぜひ今日からでも、「問いを立てるチカラ」を意識し、強化することを心がけてはいかがでしょうか。
 
 
 


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