秋元通信

イノベーター理論とは

  • 2020.7.17


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PDAをご存知ですか?
私が所有していたPDAは、SONYのCLIE。PalmというOSを搭載しており、今で言えば、電子手帳以上、スマホ未満のモバイル端末、といったところでしょうか。
 
PDAが注目を集めていたのは、2000年前後から、わずか数年間です。
一部のコアなファンを抱えていながら、広く普及することなく、消滅しました。
 
日々、世の中では、数多くの製品やサービスが生まれていますが、一般化し、世間の人たちに広く使われるようになるものは、ごくわずかです。世に受け入れられるものと、そうではないものを分けるポイントは、どこにあるのでしょうか。
 
今回は、PDAとスマートフォンを例に取りながら、イノベーター理論をご紹介しましょう。
 
 
 

イノベーター理論とは

 
イノベーター理論は、アメリカの社会学者:エヴェリット・ロジャースが提唱した普及学において語られた理論です。
 
普及学は、文字通り、ある製品やサービス、もしくは技術などが、社会に普及する要因、普及しない要因、もしくは普及していく過程を研究する学問です。
 
イノベーター理論とは、ある製品やサービス、もしくは技術が、社会に普及していく過程を、その製品やサービスを購入・利用・採用する人たちの性質にあわせて、5つのグループに分類して説明するものです。
 

  • イノベーター
    最初に製品やサービスを採用するグループの人たちを、イノベーター(革新者)と呼びます。
    このグループの人たちは、新しいものが大好きです。それが従来の製品やサービスに比べ、革新的であれば、なおのこと採用意欲をかきたてられます。
    ちなみに、本記事で言う「採用」とは、購入や利用、もしくは評価といった意味合いも含んでいると考えてください。

マーケット全体の、2.5%ほどが、このイノベーターであると言われています。
 

  • アーリーアダプター
    イノベーターに続いて、新しい製品・サービスを採用しようとするのが、アーリーアダプター(初期採用者)です。
     
    アーリーアダプターは、イノベーターに比べれば慎重ですが、やはり新しいものが好きな人たちのグループです。
    情報感度が高く、自らの審美眼で、これから社会にトレンドを巻き起こすであろう製品やサービスを判断する能力を持ちます。社会に対する影響力も高く、オピニオンリーダー、もしくはインフルエンサーとも呼ばれます。
     
    アーリーアダプターのマーケットにおける割合は、13.5%ほど。
    新製品やサービスを社会に普及させる上で、アーリーアダプターの攻略は、特に重要と考えられています。

 

  • アーリーマジョリティ
    ある程度、時間が経過してから製品・サービスを採用するグループが、アーリーマジョリティ(前期追随者)です。
     
    それなりの情報感度を備えているので、平均よりは早く、製品・サービスを採用します。アーリーアダプターの評価に影響を強く受けるとされています。
     
    アーリーマジョリティのマーケットにおける割合は、34%ほどです。

 

  • レイトマジョリティ
    新しい製品・サービスには懐疑的であり、なかなか採用しようとしないのが、レイトマジョリティ(後期追随者)です。社会に対し、その製品・サービスがある程度普及しないと、採用には踏み切りません。
     
    レイトマジョリティのマーケットにおける割合は、アーリーマジョリティ同様、34%ほどです。

 

  • ラガード
    保守的で変化を嫌うことから、製品・サービスが、社会のスタンダードになるまで、採用しないグループが、ラガード(遅滞者)です。
     
    ラガードは、マーケット中に16%ほど存在すると言われています。

 
これが、イノベーター理論における5つのグループです。
そして、イノベーター理論における、もうひとつ重要なポイントは、キャズム(深い溝)の存在です。
 
キャズムは、イノベーター&アーリーアダプターと、アーリーマジョリティの間にあると言われています。
このキャズムを超えられるかどうかが、その製品・サービスが社会に広く普及する壁となります。
 
ちなみに、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた、約16%のマーケットを初期市場と呼びます。
対して、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの3つを合わせた約84%のマーケットをメインストリームと呼びます。
 
 
 

PDAとスマホから診る、キャズムの存在

 
では、PDAとスマホを比べることで、イノベーター理論をより深く理解しましょう。
と、その前に、PDAについて、説明しておきましょうね。
 
PDAは、「Personal Digital Assistant」の頭文字を取ったものです。
サイズは手帳ほど。ですから、現在のスマホと、ほぼ同等のサイズです。PDAができるのは、メール、スケジュール管理、連絡帳、メモ、ネット閲覧など。さまざまなアプリをインストールすることもできるので、私は、電子書籍や地図、乗換案内などのアプリをインストールしていました。
 
…と言うと、ほぼスマホですね。
できないのは、通話くらいなものでしょうか。
 
イノベーター理論で言えば、PDAは、イノベーターとアーリーアダプターの段階、初期市場で停滞し、キャズムを超えられませんでした。
一方、スマホはキャズムを超え、今、スマホを使っていない方はラガード層の人々であると考えられます。
 
「平成30年版 情報通信白書」(総務省)によれば、2017年における国内のスマートフォンに対する個人の保有率は60.9%、モバイル端末全体(携帯電話、PHS、スマートフォン)におけるスマートフォンの占有率は84.0%です。
 
この統計を診ても、スマートフォンが、今や私どもの生活に浸透したことが分かります。
 
では、同じような機能を持っていたはずの、PDAが社会に普及しなかった原因は、どこにあるのでしょうか?
 
 
 

「機能」を提供したPDA、「ライフスタイル」を提供するスマートフォン

 
今考えると、PDAが提供したのは、従来のモノよりも、ちょっと便利な「機能」だったと思っています。
 
紙の手帳よりも、PDAの方が便利(メモやスケジュール管理)。
PCよりも、PDAの方が便利(軽いので日常的に持ち歩ける。起動も圧倒的に早く、バッテリーも長時間駆動を実現)。
 
ただし、「便利」という価値観には、投資対効果が伴います。
「確かにPDAは便利だけど、数万円を出してまで、求める『便利』なのかな?」、多くの人は、このように考えたのではないでしょうか?
 
PDAの便利さは、多くの人にとっては、投資対効果を満たせない程度の便利さでした。イノベーター、アーリーアダプターといった人たちは、満たせない投資対効果のギャップを、「新しいものを手に入れた」「革新的なデバイスを、私は利用している」という満足感で埋めたのだと思います(私自身の経験を踏まえて…ですが)。
 
当時は私自身、自身がPDAを持っていることをアピールしまくりましたが(見栄っ張りですね 笑)、多くの人は、「スゴイねぇ、それ!?」とは言うものの、私に影響されてPDAを購入した人は、ほとんどいませんでした(ひとりだけ)。
それでも、私はPDAを所有していることに満足していました。
 
もうひとつ、PDAは自ら使い方を探すことを求められるツールでした。
「紙の手帳では、スケジュールが書ききれない!」などという、猛烈に忙しいビジネスマンでない限りは、PDAの機能はオーバースペックでしょう。
自分なりに、いかにPDAを楽しむのか。
自らアプリを探し(Palmにはフリーアプリが豊富でした)、その使い方を模索し続けることが求められたのです。
 
受け身では、PDAを十分に楽しむことは難しかったのです。
 
 
一方、スマートフォンにおいては、すでにスマートフォンを介して楽しむことができるコンテンツが沢山用意されています。
 
スマートフォン普及の黎明期、先鞭をつけたのは、音楽でしょう。
すでにiPodを始めとするメモリー型音楽プレイヤーによって、音楽を気軽に持ち歩くというライフスタイルが一般的になりつつありました。例えば、初期のiPhoneは、携帯電話にiPodの機能をプラスしたことを大きくアピールしていました。
 
加えて、LINEに代表されるコミュニケーションツール、FacebookやTwitterといったSNS、Youtubeのような動画視聴ツールなどが、スマートフォンの普及とともに、私たちの生活の中に溶け込んできました。
 
LINEにおける、「既読スルー」は、その典型ではないでしょうか。
メッセージを受けたら、すぐに確認しなければならない、なんて感覚は、常に身に付けていて、かつすぐに確認ができる情報端末がなければ、物理的に実現不可能なわけですから。
 
スマートフォンが先か、ライフスタイルが先かは別ですが、今や私たちの生活は、スマートフォンなしには実現できないものになるつつあります。
 
目の前には、スマートフォンがあればより楽しいコンテンツが鈴なりになっています。受け身でよいわけです。
スマートフォンは、より便利で楽しいライフスタイルを、私たちの目の前に提示することで、キャズムを超え、社会のメインストリームとなったわけです。
 
 
 

新しいものに飛びつくのは、良いことなのか…?

 
イノベーター理論は、時にイノベーター、アーリーアダプターといった新しもの好きな人たちへの応援として、理解される、もしくは利用されることがあります。
 
でも、「新しいものに飛びつくこと」って、本当に良いことなのでしょうか?
 
イノベーター、アーリーアダプターに分類される人たちは、確かに総じて新しいものが好きです。しかし、新しければ、革新的であれば、どんなものであっても飛びつくわけではありません(そういう人も、いるにはいますが)。
社会に対するアンテナを持ち、情報に敏感なこういった人たちの感受性は、見習うべきものであることも確かでしょう。
 
しかし一方で、新しいとか革新的であるとか、そういった尖った部分に目を曇らされ、本来の機能や性能、品質などの社会的価値に対する評価が公平ではないことがあるのも、こういった人たちの特徴ではあります。
 
イノベーター理論って、製品やサービスなど、経済活動の産物だけに対するものではありません。文化や政治的志向、もしくは人間関係など、思想や嗜好に関しても言えるものです。
 
いますよね。
若者が、何か革新的なことを始めると、それだけで評価してしまう人…
そういう人に意見すると、「君は考えが古い!」って、一喝されて聞き入れてもらえないのですが。
 
イノベーター理論に関する紹介記事を、マーケティングではなく、人間観察の観点からまとめるのは邪道かもしれませんが。
 
新しもの好きは、社会的価値に対する正当な評価が伴って、初めて評価されるものです。
身に覚えのある方は、気をつけましょうね!
 
 
 

参考および出典

 
「マーケティング用語集 イノベーター理論」 
 
「イノベーター理論とは?5つのタイプと具体例を解説!」
 
「普及学 (Wikipedia)」
 
「携帯情報端末 (Wikipedia)」
 
 
 


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