政府は、2024年6月、「デジタルライフライン全国総合整備計画の概要」（以下、本資料）を発表しました。
名前からだと分かりにくいのですが、これ、メインが旅客輸送と貨物輸送に関わる内容であり、また岸田内閣が推し進める「物流革新」政策とも深くリンクしています。
「デジタルライフラインとは 、 デジタル情報配信道やドローン航路のように 、 自動運転やドローン等のデジタル技術を活用したサービスの社会実装に必要な共通規格 ・ 標準 ・ 仕様に準拠した 、 ハード ・ ソフト ・ ルールといったデジタル時代の社会インフラの総称」
これがデジタルライフラインの定義です。
「物流は産業の血液」と言われますが、本資料では、血液たる物流（※旅客・貨物の双方を含む）を、「少子高齢化による人口減少が続く日本社会の未来においても、維持継続するための方策として、デジタルのチカラが欠かせない」という立ち位置からスタートしています。
- 人口減少が進むなかでもデジタルによる恩恵を全国津々浦々に行き渡らせるため、 約10年のデジタルライフライン全国総合整備計画を策定
- デジタル完結の原則に則り、官民で集中的に大規模な投資を行い、共通の仕様と規格に準拠したハード・ソフト・ルールのデジタルライフラインを整備することで、自動運転やAIのイノベーションを急ぎ社会実装し、人手不足などの社会課題を解決してデジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成に貢献する。
これが本資料の冒頭に挙げられた、デジタルライフライン全国総合整備計画の概要です。
本資料では、以下3つの危機を挙げています・
- 人流クライシス
中山間地域では移動が困難に… - 物流クライシス
ドライバー不足で配送が困難に… - 災害激甚化
災害への対応に時間を要する…
一応申し上げておきますが、上記補足の「◯◯◯…」の部分は、本資料からの転記です。
こういうふわっとした表現をするところなど、本資料には今までの省庁発行の資料らしからぬところがたくさんあるのですが、まあ、それは置いておきましょう。
本資料では、さらにアーリーハーベストプロジェクトとして以下を挙げています。
- ドローン航路 180km以上
- 自動運転サービス支援道 100km以上
- インフラ管理のDX 200平方km以上
「ハーベスト（harvest）」は収穫の意味ですから、「アーリーハーベストプロジェクト」とは、本プロジェクトの中で、早期に結果を出すプロジェクトという意味合いでしょう。
例えば、ドローン航路では、1年目（つまり2024年度中？）に、天竜川（静岡県浜松市）水系上空で30km、秩父地域（埼玉県）の送電網上空で150kmのドローン航路を実現することを目標に掲げています。
また自動運転サービス支援道では、1年目に新東名高速の駿河湾沼津SA～浜松SA区間の100kmと、大甕（おおみか）駅（茨城県日立市）周辺を挙げています。
本資料では、さらに各取り組みについて、基本となる整備・設計仕様について、言及しています。このあたりは、各企業の取り組みに任せ、市場競争に標準化を委ねていたがために、結果的に「標準化が遅れる」、あるいは「世界標準から取り残される」現象を招いていた過去を反省したものなのかもしれません。
ビデオテープの標準化競争（VHS規格vsβ規格）のような、資本と時間と労力の無駄を避けることができるのではないでしょうか。
「データ連携システムのうち、民間事業者によって協調領域として整備されるものについては、公益デジタルプラットフォーム運営事業者認定制度によって育成を目指す」という考え方は、「ようやくそこにたどり着いたか…」という感慨すら覚えます。
ちなみに協調領域とは、経産省が発表したDXレポートの中で度々登場する考え方です。
産業の中には、協調領域と競争領域があり、ビジネス上の差別化につながらない協調領域については、企業が個別に整備するのではなく、皆が同じ仕組みを使えば、コストメリットを生み出す上、本来の競争領域への投資により集中できる…、という考え方です。
本資料は、経産省が音頭を取る、デジタルライフライン全国総合整備実現会議によって作成されました。
これが絵に描いた餅で終わるのか、それとも日本の国際競争力向上につながるのか、今後も注視していきましょう。
