メルマガ「秋元通信」読者の物流関係者の皆さまの中で、さすがに「トラックGメンを知らない」という人はいらっしゃらないとは思うのですが…
2023年7月21日、トラックGメンは、国土交通省内に創設されました。
トラックGメンのミッションについては、以下のように記されています。
「2023年6月2日に『我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議』において取りまとめられた『物流革新に向けた政策パッケージ』に基づき、発荷主企業のみならず、着荷主企業も含め、適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者の監視を強化するた め、2023年7月21日(金)に『トラックGメン』を創設し、緊急に体制を整備するとともに、当該『トラックGメン』による調査結果を貨物自動車運送事業法に基づく荷主企業・元請事業者への『働きかけ』『要請』等に活用し、実効性を確保します」
(出典 国土交通省)
筆者は、昨年10月、今年7月と、2回、横浜市中区にある国土交通省 関東運輸局 自動車交通部 貨物課にあるトラックGメンを取材しています。
創設から2024年6月30日まで、トラックGメンの活動実績は、以下のとおりです。
- 働きかけ
635件(荷主423件、元請193件、その他(倉庫等)19件) - 要請
174件(荷主88件、元請81件、その他(倉庫等)5件) - 勧告
2件(王子マテリア(荷主)、ヤマト運輸(元請))
ちなみに、トラックGメン創設前の、2019年7月から2023年7月20日までの4年間弱の実績は、なんと「働きかけ」:85件、「要請」:4件だけです。
トラックGメン創設前のお粗末な仕事っぷりも気になりますが、ともかく、トラックGメン創設後は、大きな成果を上げていることに注目しましょう。
ちなみに、「働きかけ」「要請」「勧告(公表)」の違いについては、以下のように説明されています。
- 働きかけ
違反原因行為を荷主がしている疑いがあると認められる場合 - 要請
荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合 - 勧告・公表
要請してもなお改善されない場合
地域別の件数については、こちらをご確認ください。
関東運輸局が一番多く、勧告2、要請92、働きかけ307となっています。
関東だけで、トラックGメン全体の半分以上の実績を上げていることになります。
関東運輸局に続くのが、近畿運輸局(要請32、働きかけ72)、中部運輸局(要請16、働きかけ73)。意外と言っては失礼かもしれませんが、東名阪に続いているのは、北陸信越運輸局(要請5、働きかけ42)です。
- 運送会社の事業所を訪問してヒアリング
- 高速道路のサービスエリア、パーキングエリアなどで、トラックドライバーからのヒアリング
こういった、対面を基本とした情報収集活動を行っている地域もありますが、関東運輸局では、電話をかけ、ヒアリングを行っているそうです。
理由は、対象となる事業所の数が多すぎるから。
発足時のトラックGメンの人員数は162人で、この限られた人員で、全国6万3千社強の運送会社を、しかも事業所単位でヒアリングをかけていくわけですから、これは致し方ないでしょう。
昨年10月にトラックGメンを取材した時、担当者は、「架電をしても、摘発につながるような有効な本音を語ってくれる人は、1割くらいしかいないんですよね…」とおっしゃっていました。
筆者の肌感覚で言っても、荷主との取引条件、関係性などに不満を感じている運送会社は世の中にたくさんいるはずですから、皆さん怖いんでしょうね。
「もし、トラックGメンにチクったのがばれて、取引が切られたらどうしよう」
「いや、取引停止までは至らずとも、今後嫌がらせを受ける可能性だってあるし」
トラックGメンでは、情報ソースの守秘については十分に配慮しています。
しかし、例えば取引のある運送会社が数少ないような荷主であれば、内容によって容易に「どの運送会社がトラックGメンに通報したのか?」が分かってしまうケースもあるでしょう。
荷主や、あるいは運送条件について不満はあれど、いざそれをトラックGメンに情報提供しようとすれば、躊躇してしまうという気持ちは、分かりますけどね…
ここからは、今年7月に取材した内容を中心にお伝えします。
取材した関東運輸局管内ではどれくらいの事業所にヒアリングができたのでしょうか?
担当者は、「オフィシャルに進捗状況は公開していないのですが」と前置きしたうえで、「まだ管内すべての事業所に対してのヒアリングは終わっていません」とおっしゃいます。
最近の変化として、働きかけ等を行った荷主から、トラックGメンに対し連絡をもらうケースが増えていること、そしてその反応が二極化しているそうです。
働きかけ等の内容に対し、真摯に向き合い是正対応を行う荷主がいる一方で、「誰がトラックGメンに情報提供を行ったのか?」、いわば犯人探しをしようとする荷主もいるそうです。
ただ、全般的に言えば、「ウチは関係ない」「きちんとやっているはず」「運送会社が頑張ればいいんだよ」といった後ろ向きな反応を示す荷主よりは、前向きに取り組んでいこうという荷主のほうが多いそうです。
2024年8月1日、国土交通省は「適正化事業調査員(仮称)」制度をスタートさせます。
- 適正化事業調査員は、トラックGメンとともに、荷主・元請けに対する監視体制を強化する。
- 適正化事業調査員は、都道府県トラック協会の適正化事業実施機関の指導員から選任される。
- 適正化事業調査員は、47都道府県で2人ずつ選任され、8月以降94人が情報収集に従事する予定。
結果、これまでのトラックGメン162人と合わせて、256人体制へと監視体制が強化される。
ある事業所に対して、トラックGメンがヒアリングしたエピソードです。
当初、事業所の担当者は、トラックGメンのヒアリングに対し、そっけない態度をとっていたそうです。ところが架電から数日後、担当者から連絡が入りました。
「社長とも話し合ったのですが…。『全部話していいよ』と社長から承諾をもらいまして」
もちろん、荷主側が自浄的に取り組み、運送会社側が何もせずとも、自主的に課題解決に努めるケースもあるでしょう。
しかし、多くの場合、そういった「棚からボタ餅」的なことは期待できないことを、私たちは経験上知っています。
だからこそ、トラックGメンというチャンスを逃さないように、自ら主体的に行動しなければならないのですが…、その決断には、勇気と時間が必要なのも、これまた事実なのでしょうね。
誤解のないように言うと、トラックGメンは、「摘発するための機関」であって、問題を「働きかけ」「要請」あるいは「勧告(公表)」された後の改善活動は、荷主や元請けが自らが自発的・主体的に取り組まなければなりません。
しかし実際には、「トラックGメンから指摘は受けたものの、どうすればいいか分からないよ…」と頭を抱えてしまうところもあるそうです。
運送会社側にも課題はあります。
荷主の問題(違反原因行為)を指摘することはできても、「だったらどのようにして改善すればよいのか?」という改善提案をできるところは少ないことです。
以前から言われていることですが、ある運送案件における諸条件に対する決定権のほとんどは、発荷主・着荷主が握っています。だから「運送会社側からは改善提案は難しい」というのは事実なのですが、こうなると物流改善に疎い荷主は、「物流改善は行いたいけど、頼る相手がいない」という状況に陥ります。
かと言って、コンサルティング会社に頼るにも、コストや手間を考え、尻込みする荷主もいるでしょう。
より手軽に、物流改善を相談できる窓口を増やすこと。
これは、トラックGメンの活動が拡大し、さらに世の中が物流改善に目を向けるようになるにつれて、課題として顕在化していくことでしょうね。
トラックGメンという制度は、これまでになかったものであり、素晴らしいものです。
ただ、本来は30年前(※1990年代の物流2法改正時)にこういう組織が必要でした。当然、30年間対策を放置したツケは、物流業界に対し、さまざまな歪みを生じさせます。
「物流改善を相談できる窓口が少ない」というのも、歪みのひとつなのでしょう。
トラックGメンの活躍を、今後も期待しましょう!