「2021年にはわずか100台しかなかったレベル3自動運転車両を、2030年には700万台まで増やす」、これは「モビリティDX戦略に関するロードマップ」(総務省)が掲げた目標です。
ちなみに、レベル3自動運転とは、限定された道路、指定された天候条件下などにおいて、運転をシステムに委ね、ドライバーは「システムの監督」をすれば良いという自動運転のレベルを指します。
レベル4自動運転では、ドライバーは自動運転システムに、運転の責任を丸投げできるのですが、その一歩手前ということですね。
ちなみに現時点で実現されたレベル3自動運転車両は、「レジェンド」(ホンダ)しかありません。その詳細は、以前記事にしていますので興味のある人はご一読ください。
これも勘違いしている人がいるのですが、「プロパイロット2.0」(日産)、「アイサイトX」(スバル)、あるいはテスラなどが実現しているのは、レベル2自動運転であって、レベル3ではありません。
このあたりの、ハンズオフを実現したADAS(先進運転支援システム)のことを、「レベル2+」とか「レベル2.5」と評するケースもありますが。
これは本稿のテーマとは乖離するため割愛しましょう。
先のレベル2+などと呼ばれるハンズオフ機能を備えたADASは、車両に搭載されたカメラ・レーザー(LiDAR)・レーダーなどのセンサだけで構成されています。
こういう自立型自動運転システムでは、より高度な安全性や、スムーズな運転を実現できないことが、自動運転に対する研究・検証の発展とともに分かってきました。
「SIP協調型自動運転ユースケース -2019年度協調型自動運転通信方式検討TF活動報告- 」では、自立型自動運転システムでは対応が難しい、複数のユースケースを挙げています。
以下に列記していきましょう。
- 高速道路などの支線(ICなど)から、高速道路本線へ合流するケース
- 信号機の灯火色の読み取り
- 衝突回避
前方車両の急停止・急減速、あるいは死角の多い交差点など - 走行計画の変更
故障車などの回避や、逆走車などの異常車に対する回避行動、あるいは渋滞や工事に対する対応 - 緊急車両の回避
パトカー・救急車・消防車などの緊急車両に対する回避行動と、緊急車両の円滑な走行支援
これらの中で、車載センサー(自立型自動運転システム)だけで、自動運転が難しいことが分かりやすいのは、BとEでしょうか。
信号機の灯火色を完璧に識別できるカメラ・センサーはありませんし、カメラだけでパトカーを見分けるのも難しいでしょう。
これらの、すなわち自立型自動運転システムだけでは不十分なシチュエーションを補うべく、期待されているのが、V2X通信と呼ばれる技術です。
V2Xは、「Vehicle to X」のこと。
V2X通信とは、車両と、車両・歩行者・インフラ・クラウドなどを双方向通信する技術のことです。
具体的には、以下を包括します。
- V2N通信
車両-クラウド / Vehicle to Network - V2V通信
車両間 / Vehicle to Vehicle - V2P通信
車両-歩行者 / Vehicle to Pedestrian - V2I通信
車両-路側インフラ / Vehicle to Infrastructure
少し詳しい人は、「V2Xって、コネクテッドカーのことでしょう?」と勘違いするかもしれません。コネクテッドカーは、V2N通信を指すので、V2Xはコネクテッドカーよりも、より広い概念を指します。
先のA「高速道路などの支線(ICなど)から、高速道路本線へ合流するケース」を考えると、「私は支線から本線に合流します」という車両と、「本線を走行する私(車両)は、あなたに合流のためのスペースを用意します」という車両が、お互いに会話し、同意形成を行いながら走行することになります。
ウィンカーを出さないで車線変更を行うクルマが嫌われるのは、法律違反うんぬんの前に、周囲のクルマからすると意思疎通が図れないからです。
V2X通信搭載車両では、常に周囲のクルマと意思疎通を行い、合意形成のもとに走行します。自立型自動運転車両よりも、あるいは人が運転するクルマよりも、よりスムーズで安全な道路交通環境が実現されるのは間違いがありません。
先のC「衝突回避」などはわかりやすい例です。
先行車が、「急ブレーキを踏みます!」という情報を後続車にV2X通信によって伝えれば、追突事故の発生は大幅に抑制できるでしょう。
また街なかに設置されたセンサーが、「路地から子どもが飛び出しますよ!」という情報をクルマに伝えることができれば、悲劇的な交通事故を未然に防ぐこともできるでしょう。
このように、車両間、あるいは歩行者、あるいは街(道路)に設置されたセンサからの情報を受け取ってより安全で快適な走行を実現するのが、協調型自動運転システムなのです。
以前、当社営業の西田が、初めてACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール / 指定された速度を基本に、先行車との適切な車間を維持し、流れにのって、アクセル操作なしに走行するADASのひとつ)搭載のクルマを運転し、その快適さに感動したという話をしていました。
ADAS、あるいは自動運転の進化は、「ヒトがクルマを操るFan to Drive」の楽しみは損なうかもしれませんが、クルマ移動の快適性は、間違いなく向上させます。
もちろん、高齢者がクルマを安心して利用できるような、安全性の向上にも貢献しますけどね。
こういう研究はもっと進んでほしいですね。
そして、ホントに6年後の2030年には、レベル3自動運転車両が700万台まで増えるのかどうかも期待です。