秋元通信

会社にとっては困りもの、「静かなる退職」ってなんだ?

  • 2024.8.30

 「静かなる退職」が注目を集めています。
 
 「静かなる退職」とは、仕事にも、会社に対しても情熱を持たず、与えられた職務だけを淡々とこなす人々のことを指します。実際に退職するわけではありませんが、まるで退職を間近に控えた人のような心持ちで働く人を指す言葉です。
 
 「静かなる退職」は2022年、TikTokでの投稿動画をきっかけに、アメリカでZ世代(1996-2012年に生まれた若い世代)を中心に広まっていると言われています。
 
 
 

「静かなる退職」が広まったきっかけ

 
 端的に言えば、若い世代が抱える社会不安が「静かなる退職」を生み出しました。
 

  • 新型コロナウイルスによるパンデミックと社会不安の広がり
  •  

  • ChatGPTのような生成型AIの登場と、これに伴う将来への不安

 
 新型コロナウイルスによって急速に社会へと広まったテレワークは、良い面ばかりではありません。上司や同僚が常に隣りにいる環境ではなく、主体的・自律的に働き、そして結果を出すことを求められるようになり、よりどころを失ったような不安とともに働いている人も、中にはいるわけです。
 
 また、仕事よりもプライベートに対し、より大きな生きがいを求める人もいるでしょう。
 
 こういう人たちの場合、「仕事に情熱を注ぎ、生きがいを求める」というライフスタイルだったり、心の在りようそのものが疑問の対象となるケースもあるでしょう。
 
 結果、仕事に情熱を注がず、必要最低限、求められることだけを行う「静かなる退職」を心に秘めた人たちが増えていると考えられます。
 
 
 

企業における「静かなる退職」のリスク

 
 端的に言えば、「静かなる退職」を選んだ人たち(以降、「静かなる退職者」とします)が、企業の成長だったり、事業遂行の阻害要因となる可能性があることです。
 
 「静かなる退職者」の仕事におけるパフォーマンスは、その他の普通の従業員たちに劣ります。やる気に満ちた従業員からすれば、(言葉は悪いですが)「あの足手まといが!!」と舌打ちしたくなることもあるでしょう。
 
 「静かなる退職者」が増えれば、企業における事業遂行の足かせとなります。
 それどころか、「静かなる退職者」の存在そのものが、組織の雰囲気を悪くすることもあるでしょう。
 
 かと言って、「静かなる退職者」をクビにすることは難しいです。
 というのも、最低限の仕事はやっているわけですから。
 
 「職務命令に従わない」「就業規定に違反する」といった明確な違反行為がないため、会社としては「静かなる退職者」をクビにすることができません。
 となると…、会社としては、パフォーマンスの悪い従業員を抱え続けなくてはなりません。本来ならば、「静かなる退職者」をクビにして、もっとやる気に満ちた新入社員や中途社員で組織を補強したいところですが、それも難しいでしょう。
 
 それどころか、「腐ったリンゴ」効果によって、組織内で「静かなる退職者」が増殖する危惧もあります。
 
→ 参考

 
 
 

「静かなる退職者」とぶら下がり社員・フリーライダーとの違い

 
 ぶら下がり社員とフリーライダーについては、以前記事にしたことがあります。
 
→参考

 
 記事中から、それぞれの説明を転記しましょう。
 

  1. ぶら下がり社員
    それなりに優秀で、仕事もそれなりにこなす反面、向上意識や出世意欲に乏しく、言われた以上のことをしない、もしくは「したがらない」社員のことを指します。
  2.  

  3. フリーライダー
    簡単に言えば給料泥棒のこと。仕事はなるべく怠ける。でも、給料たっぷりと欲しがる。そのためには、他人の成果に相乗りしたり、横取りすることも辞さない社員を指します。

 
 「静かなる退職者」って、フリーライダーとぶら下がり社員の中間的な概念なのでしょうね。
 
 
 

組織のやる気を削ぐ、「静かなる退職者」の課題

 
 仮に、この男性をAくんとします。
 Aくんは、あるメーカーのデザイナーでした。趣味はマラソンで、容姿端麗なAくんは、見た目も仕事ができそうな雰囲気を漂わせていました。
 
 実際、Aくんは、それなりに仕事ができました。
 もって生まれたセンスなのでしょう。彼のデザインは、平均以上のものであり、クライアントからの評判も得ていました。
 
 当然、会社はAくんのことを、大事な戦力として考えていました。
 ただ、Aくんは常々、「仕事はお金を稼ぐための手段。僕にとって大切なのはプライベートだから」と言い続けていました。しかし、周囲は実力のあるAくんをそれでも信頼していたのですが…
 
 あるとき、仕事でトラブルが発生しました。
 Aくんの所属している会社の問題ではなく、クライアント側の問題です。しかし、結果Aくんが所属している会社も、その対応のために普段以上のパフォーマンスを発揮し、残業や、あるいは休日出勤もいとわず、対応に追われることになりました。
 
 皆がトラブル解消に向け、必死に働く中、Aくんは、「僕は残業しません。練習があるので帰ります」と言って、さっさと帰ってしまいます。
 上司がAくんを説得しようとすると、労働者の権利を盾に反論してきます。
 
 会社としてはどうすることもできず、Aくんの行動を黙認していたのですが。
 しかし、職場の仲間たちの心中では、穏やかでないことがあったのでしょう。
 仲間たちの心に芽生えたAくんへの不信感が顕在化したのは、トラブルが終息して1年ほど経った頃でした。
 
 コトは、クライアント案件ではなく、社内のデザイン案件で発生しました。
 会社のイメージポスターを作成するプロジェクトで、社内のデザイナー各人がデザイン案を作成したのですが、Aくんが作成したポスターデザインが物議を醸したのです。
 Aくんのデザインは、裸の女性を想起させるものでした。
 会社の事業性や、戦略方向などにはまったく関係ないデザインを出してしまったのです。
 
 「あいつ、ウチの会社の企業理念とか、まったく理解していないだろう!?」、ある役員が怒り始めたのです。
 
 そこで問題になったのが、Aくんのこれまでの行動や言動です。
 さらにAくんに不信感を抱いていた先輩や同僚が、Aくんに対する不満を口にしたのも致命的でした。
 
 実はAくん、会社上層部からは、それなりの評価を得ていました。Aくんの人となりが伝わっていなかったのでしょうね。
 ところがポスターデザイン事件を機に、Aくんに対する評価は180度変わってしまったのです。
 
 Aくんはたぶん、ぶら下がり社員と「静かなる退職者」の中間的な存在でした。
 Aくんが、「腐ったリンゴ」候補であることは、よくよく考えればわかることだったのですが、それなりに優秀であったがために、周囲が見逃していたのです。
 
 Aくんはその後、周囲の自分に対する評価が変わってきたことに気づき、ストレスをためていくのですが…。その話は、割愛しましょう。
 
 
 

「静かなる退職者」は、パレートの法則による必然とも言える?

 
 パレートの法則とは、「全体の80%の結果は、全体の20%の要因によって生み出される」という社会観測に基づく経験則です。働きアリの法則とも呼ばれます。
 組織においても、20%の社員が全体の80%の成果を上げているというケースは少なくありません。
 
 と、考えると、「静かなる退職者」は、パレートの法則における、優秀ではない80%の従業員のひとりとして、必然的に生じてしまう存在と諦め、認める考え方もありです。
 
 実際、会社の仕事の中には、一定量、人が行わざるを得ない仕事があります。これは、システムやAIの発展によって、ある程度解消することはできても、ゼロにすることは無理でしょう。
 その意味で、「静かなる退職者」のような仕事を淡々としてくれる従業員の存在は重宝ですし、必要でもあります。
 
 ただ、人というのは変わるんですよね。
 先のAくんのケースのように、「静かなる退職者」本人が変わらずとも、周囲の評価などが変わるケースもあるでしょう。
 
 さらに言えば、従業員が「静かなる退職者」になってしまうかどうかも、会社の雰囲気や将来性、あるいは職内容が影響している可能性は否定できません。
 
 
 「静かなる退職者」は、会社にとって、将来のリスクとなる可能性があります。
 逆に、職務内容などを見直したり、あるいは「静かなる退職者」当人とコミュニケーションを取ることで、「静かなる退職者」から脱却する可能性もあります。
 
 「静かなる退職」という現象も、社会が複雑化し、さまざまな考え方があふれる多様性の時代から生じたものです。
 
 これからの組織経営は、「静かなる退職」のような新たなリスクも考慮して行わなければならないことは、どうやら間違いがなさそうです。
 
 
 


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