秋元通信

「プログラミングを覚えたい」、部下の向上心に、会社はどう応えるべきか?

  • 2022.7.21

もし、あなたの部下が「プログラムを覚えたい」と言ってきたら、どうしますか?
 
システム開発会社、もしくは実際にプログラミングを行っている情報システム部などで働いている方の場合は、よしでしょう。
でも、総務、人事、経理、業務管理などの事務職、もしくは営業職の部下などの場合は、判断に悩みます。
 
「毎日、Excelで**という業務を行っていますが、もしVBA(※Excelで自動処理などを行うことができるプログラミング言語)を覚えれば、仕事を効率化できると思うんです。駄目ですか?」
 
「自分磨きです」などと言われたら断りやすいでしょうが、当人は、純粋に業務改善を願う向上心から言っているわけです。
 
ただし、プログラミングを学ぶのは時間が掛かります。
筆者自身の経験ですが、ExcelVBAの場合、ある程度モノになるレベルまで学習するのに、最低40時間は掛かるでしょう。後は実践あるのみですが、最初のプログラムを完成させるまでには、さらに数10時間から、人によっては100時間オーバーの工数を必要とする可能性があります。
 
 
 

「それだったら、結局手作業でやったほうが早くない?」

 
ExcelVBAを例にしましたが、RPAでも、もしくは何か新たに知識を習得しなければならないシステムやアプリケーションでも、同様のことは言えます。
最近では、Pythonでデータ処理業務を自動化したいと考える人もいるでしょう。
 
例えば、あなたの会社でも、システム間のコピペを延々と繰り返すような業務ってありませんか?
お客さまとのEDI(電子商取引)システムの内容をExcelにコピペし、Excelで計算処理を行ってから自社の基幹システムに入力するとか。
 
例えば、毎日1時間、このような業務を行っているのであれば、RPAに任せることで、数分で終えることができる可能性があります(実際には、勝手にRPAが処理するので、担当事務員の工数はゼロになります)。
 
RPA導入の手間などは議論から外すとして、例えばRPAを学ぶために40時間の教育タイムを部下に許可できるかどうか…
 
難しいですよね。
だって、40時間(仮にですよ)という教育時間を許すということは、イコール当人が40時間通常業務から外れることを意味するわけですから。
 
「ん~~、だったら、結局手作業でやったほうが早くない?」
 
そのように言ってしまう方(上司)もいるでしょう。
 
 
 

当人のモチベーション

 
「**というスキルを身に付けたい」、このように考える人は、改善意識や問題意識が高く、社内でも有用な人材でしょう。
ただし、当人が純粋に改善意識、もっと言えば会社のことを思っていっているかどうかは、また別です。
 
きっと、このように言い出す人の中には、「新たなスキルを身に付けたい」という気持ちもあるはずです。これは、純粋な知的好奇心から発するケースもあれば、社会人としてどの会社でも通用するスキルを身に付けたいという打算的な気持ちから発するケースもあるでしょう。
 
こういう方の、「新たに**を覚えたいんですが?」という希望を却下することは、当人のモチベーション低下にもつながりかねません。最悪、転職されてしまうこともあり得るでしょう。
 
さて、あなたはどうしますか?
 
 
 

マージナルゲインから診る、改善施策とROIの関係

 
見出しのキーワードが難しいですね(笑
ひとつずつ、説明いたします。
 
マージナルゲインについては、以前以下の記事でご紹介しました。
 
「1%の積み重ね」で勝ち取った金メダル
 
「すべての行動において1%の改善に取り組む」──これがマージナルゲインの基本であり(ある意味)すべてです。
 
記事中では、マージナルゲインを生み出したイギリスのサイクルロードレースチーム 「TEAM SKY」の取り組みを紹介しています。
 

  • 枕を変える(睡眠の質を向上させるため)
  • 選手ごとに別々の洗濯機を用意する(感染症対策)
  • ホテルの部屋は、事前にスタッフが徹底的に清掃除菌する(感染症対策)

 
世界最大のサイクルロードレースであり、3大スポーツイベント(他はオリンピック、サッカーワールドカップ)であるツール・ド・フランスで総合優勝を勝ち取るため、改善の可能性があると考えられるすべて施策に取り組むのが、マージナルゲインです。
 
「1%の改善」とは言いましたが、実際には「それって1%も改善効果見込めないんじゃないの?」と思ってしまうようなことまで、TEAM SKYは徹底的に取り組み、そして実際、チーム結成からわずか3年でツール・ド・フランス総合優勝を勝ち取りました。
 
留意しなければならないのは、マージナルゲインの考え方には、ROI(Return On Investment / 投資対効果)の観点が限りなく希薄なことです。
 
 
 

成果を得るための、現実的な工数

 
「従業員の仕事効率を上げるために、オフィスで使っている椅子を見直したらどうでしょうか?」──最近では、テレワークの普及によって、自宅で仕事をする機会も増えています。そのため、長い時間座っていても疲れにくいゲーミングチェアなどが売れていると聞きます。
ただし、こういう椅子って高いです。一脚10万円を超えるものもたくさんあります。
従業員全員分、ゲーミングチェアに買い替えたら、結構な出費になります。
 
「すべての行動において1%の改善に取り組む」、言葉は美しいですよ。
ただし、1%の改善を得るために、今の10倍、100倍の労力(ないし投資)を費やすのであれば、それは現実的な施策とはいえません。
 
現在、マージナルゲインは、TEAM SKYに限らず、すべてのプロサイクルロードレースチームが実践しています。他のスポーツや、企業でも実践しているケースがあると聞きます。
 
マージナルゲインの前提となるのは、どんな犠牲を払ってでも、絶対に達成したい目標の存在です。サイクルロードレースの場合は、ツール・ド・フランス総合優勝なわけです。
そして、もう一つ、マージナルゲインを実践するために必要なことがあります。それは潤沢な予算です。TEAM SKYが実践した「枕を変える」「選手ごとに別々の洗濯機を用意する」「ホテルの部屋は、事前にスタッフが徹底的に清掃除菌する」は、TEAM SKYが潤沢な予算を持っていたから実践できたことです。予算規模の小さな他のプロサイクルロードレースでは、TEAM SKYほどの徹底した「1%の改善」には取り組めていません。
 
 
 

成長を望む部下との現実的な折衝ポイントは?

 
「プログラミングを覚えたい」という部下に対し、「ん~~、だったら、結局手作業でやったほうが早くない?」と返す上司の心中には、少なからずROIの天びんがあるはずです。
 
「『プログラミングを覚える』という投資に対し、十分なだけの業務改善効果が得られるのだろうか…?」
 
加えて、このケースでは、部下のモチベーションやロイヤリティにも影響します。判断が難しいところです。
 
現代の社会では、残業は悪です。
プログラミングを覚えることで残業が増えるとして、それは最小限に抑えなければなりません。
現代の組織マネージメントでは、限られた時間、すなわち定時の範疇で、業務の遂行、メンバーの成長、組織の成長などの複数のタスクを実行・実現する必要があります。
 
部下(≒組織のメンバー)たちの努力をどこに投資させるのか、
そのマネジメントも、優秀な上司の必須事項と言えるのではないでしょうか。
 
 
「プログラミングを覚えたいのであれば、プライベートで行いなさい」──これも一つの選択です。ただし、その勉強に掛かるコスト(テキスト費用、講座費用など)は、会社で負担しても良いのではないでしょうか。
 
プログラミングを覚える上で、より効率の良い方法をレクチャーすることも、部下の向上心をサポートすることになります。
 
余談ですが、ExcelVBAの場合、多くの人が「初めてExcelVBA」的なテキストを購入、学習を始めますが、私はこの方法は退屈で辛抱が必要な方法だと思います。
ExcelVBAを覚える場合、最初はマクロの自動記録を使い、一連の作業の一部だけを自動化するほうがとっつきやすいです。もちろん、自動記録だけでは対応できないこと、例えば処理前の初期条件の回収や、条件分岐処理などを必要とするシーンが出てきたら、テキストを辞書代わりに使いつつ、マクロのプログラムを改修していけば良いでしょう。
 
 
 

部下に対するROIは、長い目、広い視野で、捉えるべき

 
以前、ビジネス上の機密保持契約書を締結する機会がありました。相手は法人成りはしているものの、社長1人だけの会社です。
社長は、もともと誰もが知る大企業の部長を務めていました。その社長が作った契約書を診て、私は呆れてしまいました。
 
「乙は、秘密情報を改変、改造、逆アセンブル、逆コンパイルまたはリバースエンジニアリングしてはならない」
 
アセンブル、コンパイル、リバースエンジニアリングなどは、大原則としてプログラムやシステムに関する契約条項で登場する用語です。私と同社の間で行うのは、記事執筆です。的外れにしても、外れ過ぎです。おそらく、この方は過去に使ったなにかの契約書を適当につなぎ合わせて、契約書を作ったのでしょう。
 
私もかつて大企業に所属していたことがありますが、法務部は、営業部などからの契約書(ないし締結交渉)の丸投げを絶対に許しませんでした。
法務部長は、「契約というのは、営業活動における最大の武器である。だからこそ、契約書に明るい営業員を育成することは、私たち法務部の責務である」と説明していました。
 
率直、面倒くさかったと思います。
だって、私のような契約書の基本を全く知らないようなズブの素人相手に、正しい契約書の作り方やあり方、相手先との交渉をすべてレクチャーし、サポートするわけですから。
 
企業によっては、契約関連業務を法務部に丸投げするところもあります。「忙しい営業部員に、専門外の契約処理で時間を取らせたくない」というのが理由です。この社長も、きっとそういう人なのでしょうね。
効率性、もしくはROIを考えれば、この判断は正しいのかもしれません。
 
ただし、専門外の知識も身に付けていかなければ、スキルアップはないです。
スキルアップと、業務の効率的な遂行は、ときとして矛盾します。この社長は、「契約業務の効率的な遂行」というお題目のもとで、契約業務に関する知識を身に付け損なったのでしょう。
その点で考えれば、ある意味、この社長も被害者なのかもしれません。
実際、私もその会社とのビジネスは見送りましたから。
 
 
会社は、人の集合体です。
当然ですが、従業員一人ひとりのスキルが高いほうが、会社のレベルも上がるはずです。
 
「プログラミングを覚えたい」──そんな従業員の向上心を否定することは、会社のレベルアップに反する判断です。
一方で、ROIの判断は必要です。必要ですが、そのバランス感覚は難しいです。
 
私見ですが、「プログラミングを覚えたい」という従業員がいたら、会社は投資のつもりで、プログラミング教育の費用負担や、業務時間の一部を費やすこともよしとするべきではないかと考えます。
業務改善が不要の会社なんてないでしょうし、そもそも、そんなやる気の高い従業員がいたら、そのやる気・向上心は、サポートしてあげたいです。
 
 
 


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