秋元通信

下積みは無意味な時間なのか?

  • 2018.11.22

以前、ある社長からお聞きしたエピソードです。
 
その方は、ある電機メーカー子会社の社長です。しかし、学生時代に内定をもらっていたのは大手食品会社だったそうです。おそらくは学生時代から才能の片鱗を見せていたであろうその方に対し、件の電機メーカーの創業者であり、当時の社長が声を掛けてきたそうです。「うちに来い!」、ストレートな申し出に、当時の学生だった彼はふたつ返事で承諾したとのこと。
社長自らヘッドハンティングした人材ですから、入社したらさぞや優遇されるかと思いきや。彼は入社してから二年間、ずっと工場の製造機械に対する清掃だけしかさせてもらえなかったそうです。ただし、清掃だけではつまらないですから。彼は製造機械のマニュアルや仕様書をつぶさに読み、時には勝手に分解し、いつしか社内の誰よりも製造機械に詳しくなります。
入社から2年、彼はある人物に引き合わせられます。ある機械メーカーのエンジニアです。
その機械メーカーでは、ある技術を開発しました。ところがその技術はどうやっても量産ラインで使えませんでした。手作業では可能でも、製造機械に組み込むことができなかったからです。持て余した件の機械メーカーは、特許もろとも問題の技術を、彼の勤める電機メーカーに売り払い、技術供与のためエンジニアを派遣しました。
期間は半年。
社長からの命令は、「半年以内に問題の技術を製造機械に組み込むこと」でした。
 
結局、彼は命令を三ヶ月で実現してしまいます。
派遣されたエンジニアは、「まさか学生あがりに三ヶ月でうちの技術をモノにされるとは…」と驚嘆と尊敬を込めた言葉を残し、機械メーカーへと戻っていったそうです。
ちなみに、その技術は現在さまざまな電気製品に使われるようになっています。
 
さて、今回は下積みについて考えましょう。
 
 
こんな記事がありました。
 

「下積み時間もったいない」 20代女性は「濃い時間」を求めてユニリーバを選んだ
https://www.huffingtonpost.jp/ambi/koijikan20_a_23567047/

 
記事に書かれているユニリーバ社における取り組みは、働き方改革という視点、人材育成という視点など、とても優れたものだと感じます。迫力もありますし、これからの企業が目指すべき方向性だと、私も感じるのですが。
私は以下の部分に違和感を感じました。
 

「とにかく20代を濃い時間として過ごしたい、(中略)たとえば、新人が事務作業しか任されなかったり、先輩社員のアシスタントにまわったり。下積みに時間を費やしていたらもったいない」

 
下積みに時間を費やしたらもったいない?
若い方々にとって、下積みは嫌なものなのでしょうか?
 
 
エン・ジャパンが実施した「退職を考えたきっかけ」アンケートを診ましょう。
 
 
アンケート結果は以下のようになっています。

「退職を考え始めたきっかけを教えてください」
No.1 給与が低かった。
No.2 評価や人事制度に不満があった。
No.3 残業や休日出勤が多くて辛かった。
No.4 業界や会社の将来が不安になった。
No.5 人間関係がうまくいかなかった。

本アンケートですが、25歳以下に限るとランキングはこのように変わります。

No.1 給与が低かった。
No.2 残業や休日出勤が多くて辛かった。
No.3 やりたい仕事ではなかった。
No.4 人間関係がうまくいかなかった。
No.5 評価や人事制度に不満があった。/他にやってみたい仕事ができた。

3位に「やりたい仕事ではなかった」が入っています。
 
おそらくは、先に挙げた「新人が事務作業しか任されなかったり、先輩社員のアシスタントにまわったり」という下積み的仕事も、「やりたい仕事ではなかった」と言われてしまうのでしょうね。
 
さて、少し話題を変えましょう。
以下はどんな仕事なのか分かりますか? すべて転職サイトに掲載されていた募集職種名です。
 

  • 自販機オペレーター
  • デジタルコンサルタント
  • PRアドバイザー
  • Fishingアドバイザー

「自販機オペレーター」とは、飲料系自販機の補充をするトラックドライバーのこと。
「デジタルコンサルタント」とは、Webサイト制作で要件定義をするSE(システムエンジニア)のこと。
「PRアドバイザー」は、新聞販売店の勧誘員。
「Fishingアドバイザー」とは、釣り船の船長。
 
おかしいでしょう?、こんなの…
でも、仕事に見かけのかっこよさを求める人がいるからこそ、こういったふざけた(とあえて言い切りますが)職業を謳って採用募集をかける会社がいるのでしょう。
 
先に挙げたユニリーバ社女性の発言で、私が違和感を感じるのは、「とにかく20代を濃い時間として過ごしたい」の後に、「下積みに時間を費やしていたらもったいない」と文脈が続くからです。つまり、彼女は、「下積み」イコール「濃い時間ではない」と考えているわけです。
冒頭に挙げた、電機メーカー子会社社長のエピソードを診れば、下積みを濃い時間にするのも、薄い時間にするのも、結局は本人次第であることが分かるはずです。
 
私ども物流業界においては、額に汗して働くことの大切さは十分理解されていることと思います。(少なくとも、私はそのように信じています)
しかし、「額に汗して働く」働き方とは、もしかすると一部の人々からは、下積みとほぼ同じ意味と捉えられ、魅力のない仕事だと思われてるのかも知れません。だとすれば、どうやって魅力を創出するのか?、その方法を物流業界全体の課題として考えないと、現在物流業界が直面している人不足という巨大すぎる課題に対し、打開策は生まれないでしょう。
 
私自身を例に挙げれば。
今現在、私はコンサルティング業務も行っていますが、多くの方が私が元トラックドライバーであることを知ると、おもしろがり、興味を持ち、そして信頼してくれます。
その理由は様々なのでしょうが、私のような存在は、ヒントのひとつになるかと思います。20代だけといった短いキャリアパスではなく、もっと長期的なキャリアパスを考えれば、名ばかりで見掛け倒しの「***コンサルタント」みたいなへんてこ職種名に踊らされることもないでしょう。
 
さて、最後にもうひとつ、極めつけのへんてこ職種名をご紹介しましょう。
「サービスプロバイダー」、これどんな職業だと思いますか?
ISP(インターネットサービスプロバイダー)ではありませんよ。なんとこれ、某大手観光バス会社の広告に掲載されている、観光バスドライバーのことです。
 
さすがにやりすぎでしょう。
でも世の中、こういう表現に魅力を感じる人もいるのでしょうね。
残念ではありますが…


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