あなたは、城壁に囲まれた街に入ろうとしています。
街の入口には、ふたつの門があり、ふたりの門番が警備しています。
片方の門は、街に入ることができる「正しい門」で、もう片方の門は街には向かわない、間違った門です。
また、ふたりの門番のうち、ひとりは正直者で、もうひとりは嘘つきです。
正直門番は、本当のことしか言いませんが、嘘つき門番は、必ず嘘をつきます。あなたには、どちらが正直門番で、どちらが嘘つき門番なのかは分かりません。
あなたは、どちらかの門番に一回だけ質問をして、正しい門を見分けなければなりません。
さて、どのような質問をすれば良いのでしょうか?
論理的思考を求められる、古典的な謎解きですね。
この謎解きの難しさは、ストレートに質問をしただけでは、求める解(どちらが正しい門なのか?)が得られないことにあります。
門番に、「こちらは正しい門ですか?」と聞きます。
正しい門だった場合、正直門番は、「はい」と答えますが、嘘つき門番は「いいえ」と答えます。
間違った門だった場合、正直門番は「いいえ」と答えますが、嘘つき門番は「はい」と答えます。
あなたには、嘘つき門番と正直門番の区別がつかないわけですから、これでは正しい門を見極めることができません。
論理的思考を駆使し、この関門をどうやって乗り越えるかが、謎解きの回答に至るポイントとなります。
今年は、論理的思考というキーワードが、とても注目された年だったと感じています。
来年度から、小学校でプログラミング教育が必修化されることもあります。
AIやRPAが注目され、そして活用事例が次々と公開、周知されていることもあるでしょう。
また、働き方改革関連法が施行されて、長時間労働が否定され、より賢く効率のよい働き方を求められるようになったこともあるでしょう。
今回は、論理的思考について、日本的労働の問題を踏まえ、考えてみましょう。
※先の問題の回答は、最後にご案内します。
論理的思考とはなにか? 確認しておきましょう。
「論理」
- 考えや議論などを進めていく筋道。思考や論証の組み立て。思考の妥当性が保証される法則や形式。「ーに飛躍がある」
- 物事の間にある法則的な連関。
- 「論理学」の略。
「論理的」
- 論理に関するさま。「ーな問題について書かれた本」
- 論理にかなっているさま。きちんと筋道を立てて考えるさま。「ーに説明する」「ーな頭脳の持ち主」
※ともに、Web大辞林より
仕事における、論理的思考を論じる上で重要な要素は、形式知化できているかどうか、というのが、ひとつのポイントになるでしょう。
ある事象を因果関係や、実行される順番を鑑みながら要素分解し、それを第三者に対しても伝わるように形式知化することですね。
先の「嘘つき門番」問題ですが、前述の通り、これは古典的な謎解きであり、既にご存じの方もいるでしょう。この類の謎解きには、定番の解き方が存在します。
では、答え、もしくは定番の解き方を知っている方は、論理的思考をしていないのでしょうか?
もっと言えば、論理的思考とは、知識を身につけるまでの行程(※この場合、謎解きの答えを考える行程)でしか身につかなくて、知識を身につけた後は、論理的思考の役には立たないのでしょうか?
現在活用、もしくは開発されている、AI(Artificial Intelligence / 人工知能)は、大きくふたつに分類されます。
「ルールベース型AI」とは、あらかじめ人が設定したルールを元に判断を下すもの。
「機械学習型AI」とは、過去のデータを元にして近しい類型ケースを抽出、処理に用いるものです。
「嘘つき門番」問題、もしくは定番の解き方を、既に知見としてご存じの方というのは、言わば「機械学習型」の論理的思考をしていると考えられます。
論理的思考を論じる際に、目の前にある課題に対し、その場で答えを導くような瞬発的な思考力だけを、論理的思考と捉えるむきもありますが、それは間違いでしょう。
論理的思考とは、過去に積み上げてきた膨大な知見をベースとして導かれるものであり、日々の経験を糧として大事に積み上げてきた人が、より優位に獲得できるものなのです。
いわゆる旧来型の目標管理制度(MBO / Management By Objectives)は、成果主義の波及とともに、日本企業の多くが取り入れていきました。
「売上目標:*千万円」という目標を課し、その結果を、個人、組織、ひいては会社の結果であり評価と連動させる仕組みです。
MBOが普及した要因のひとつには、目標設定とその対価(評価であり報酬)のストーリーが分かりやすかったことが考えられます。
確かに、MBOは分かりやすさ故に多くの企業で採用されてきましたが、反面、問題もありました。
MBOが重視するのは、「インプット=目標」と「アウトプット=結果」です。
インプットとアウトプットをつなぐ、プロセスについては着目されていません。これが、MBOの大きな課題でした。
正確に言えば、MBOを提唱した経営思想家ピーター・ドラッカーは、決してプロセスを軽視はしていないのですが、実際に各企業が行っているMBOでは、プロセスが軽視されるケースが圧倒的に多いのではないでしょうか。
アウトプット、つまり目標の達成が重視される組織においては、プロセスは軽視されてしまうことが、多々あります。
「努力は認めるよ。でも、結果がすべてだから…」
「ごちゃごちゃ考える前に、手を動かせ!」
新しいことを考える前に、先輩たちがつくった道をなぞり、最大化することを求められる組織。
バットを振るテクニック、パフォーマンスを求められるのは、それが野球というルールに縛られているからです。会社は、野球のように、ルールに縛られているわけではないので、バットではなく、他の道具を利用する手段も検討すべきです。
先輩たちのやり方を模倣することを重視するあまり、バットを振ることばかりに集中、新たな発想を否定するような会社であり、組織が多くなってしまったのではないでしょうか。
その反省もあるのでしょう、最近ではOKR(Objectives and Key Results)などが注目されています。
これは、結果辺重で、考えることを軽視した過去からの反省の結果でもあるのでしょう。
なぜ今、企業は論理的思考を身につけるべきなのでしょうか?
理由は簡単で、労働は、長時間労働から生産性効率を求めた定時間労働へと変化せざるを得ないからです。働き方改革等々、事情はさまざまありますが、労働生産性の向上は、企業経営の大きな課題となりました。
ところが、企業、つまり社員一人ひとりが論理的思考を身につけようとしていく中で、ボトルネックとなる人たちがいます。それは40~50代の管理職などについている、旧来型の働き方をよしとしてきた方々です。
こういった方々は、彼ら彼女らが長年のサラリーマン経験で得てきた経験と知識をもとに、若年者たちの指導的立場にいました。
この「長年のサラリーマン経験で得てきた経験と知識」というのが曲者ではないでしょうか?
というのも、「長年のサラリーマン経験で得てきた経験と知識」をベースに新たなアイデアを生み出すから、論理的思考の育成につながるわけであって、「長年のサラリーマン経験で得てきた経験と知識」にあぐらをかいていたら、むしろ思考力は退化してしまいます。そして、この「あぐらをかいた方々」とは、決して少なくないからです。
企業が論理的思考を身につけるのであれば、上司/部下の区別なく、皆が論理思考を身につけるための努力をする必要があります。
どのようにすれば良いのでしょうか?
一例として、物流企業にはうってつけの方法があります。
それが、事故対策報告書です。
事故報告書では、原因と対策が求められます。
例えば、追突事故を考えましょう。
原因:
ドライバーのよそ見
対策:
追突事故の危険性を、全ドライバーに再教育する
こんな事故報告書、書いてしまってませんか?
事故報告書に、「なぜなぜ分析」を取り入れることで、事故対策のレベルを格段に上げるとともに、論理的思考のトレーニングにもなるのです。
なぜなぜ分析とは、トヨタ生産方式で行われる分析手法のひとつです。
ある問題について、「なぜ、**は発生してしまったのか?」「**の原因になったのは、何か?」を複数回繰り返すことによって、問題を階層的に要素分解していきます。
「追突事故の原因は?」
一回目の「なぜ」:なぜ、追突事故を起こしたのか?
→ 「よそ見をしていたから」二回目の「なぜ」:なぜ、よそ見をしたのか?
→ 「電話がかかってきたから」三回目の「なぜ」:なぜ、電話が運転中にかかってきたのか?
→ 「配車マンがドライバーに電話をしたから」四回めの「なぜ」:なぜ、配車マンは運転中だと分かっていたのに、電話したのか?
→ 「荷物を積み間違えていたから」五回めの「なぜ」:なぜ、積み間違えが発生したのか?
→ 「伝票を取り違えたから」
概ね、三回から五回以上の「なぜ」を繰り返します。
また、これは原因に対する、なぜなぜ分析ですが、対策についてもなぜなぜ分析を行うケースもあります。さらに、前出の5つの原因の「なぜ」について、個別になぜなぜ分析を行うこともあります。
ここまでやると、結構ハードですよ。
なにせ、5つの「なぜ」について、それぞれ五階層のなぜなぜ分析を行うため、5×5=25通りの対策を考えることになるわけですから。
論理思考は、一朝一夕で身につくものではありません。
言わば、筋トレのようなものですから、業務中に論理思考のトレーニングを取り入れることで、継続的に論理思考型企業(組織)へと成長していくことが大切なのです。
乱暴な言い方かもしれませんが、努力&根性型の人材育成論には限界があります。
努力、根性は必要ですが、それが活きるのも、賢い働き方があってのことです。そうでないと、ひたすら残業を繰り返す、長時間労働になってしまいます。
例えば、ここ数年、Youtubeの普及と人気の高まりとともに、Youtuberと呼ばれる職業が注目されるようになりました。彼ら彼女らは、全世界を相手に、ご自身のスキルとアイデアだけで人気を集め、配信収入を得ています。
賢い、ということが、注目を集める時代になってきたのでしょう。
私ども物流業も同じです。
例えば、ドライバーの能力が、仕事を選ぶのは、皆さまご存知のとおりでしょう。
「美味しい仕事なんだけどなぁ…。うちのドライバーには難しいよなぁ…」
よく聞かれるぼやきですね。
論理的思考というのは、仕事をする人たちが身につけるべき武器のひとつです。
その意味では、資格と同じようなものですが、資格と違うのは、ありとあらゆる仕事の基礎となる点かもしれません。
繰り返しになりますが、論理的思考とは、筋トレのように、日々トレーニングによって得られるものです。ですから、早く始めて、早く意識したほうが、よりライバルたちに差をつけることができます。
論理的思考、皆さま、もしくは皆さまの会社でも、その育成を始めてはいかがでしょうか?
片方の門番に、どちらかの門を指差し、以下のような質問をします。
「『こちらの門は、正しい門ですか?』と聞いたら、あなたは『はい』と答えますか?」
「はい」と門番が答えたら、その門番の後ろにある門が正しい門です。
「いいえ」と門番が答えたら、もう片方の門が、正しい門です。
では、この答えを検証、解説します。
まず、もっともノーマルな質問、つまり「こちらは正しい門ですか?」と門番に聞いてみます。
図表のように、「こちら」、つまり正しい門について尋ねても、嘘つき門番は「いいえ」と答えてしまいます。
そのため、嘘つき門番と正直門番のどちらに尋ねても、同じ答えが返ってくるような質問方法を考え出す必要があります。
ポイントは、「嘘の嘘は、ホント」であることに気がつくかどうかです。
嘘に対して、さらに嘘を重ねると、本当のことになります。また、本当のことに対して、本当のことを重ねても、本当のままであることも、大事な点です。
「マイナスの数字同士を掛け算するとプラスになる。プラスの数字同士を掛け算してもプラスのまま」、発想としては、プラスマイナスの掛け算に似ています。
つまり、仮に嘘つき門番に質問をしてしまっても、二回嘘をつかせることができる質問方法を考えることが、答えへの鍵となります。
「『こちらの門は、正しい門ですか?』と聞いたら、あなたは『はい』と答えますか?」
この質問には、ふたつの質問が含まれています。門番に、門番自身の回答を考えさせるわけです。
正直門番に、この質問をした場合、指した門(こちらの門)が、正しい場合は「はい」、間違っている場合は「いいえ」と答えます。
嘘つき門番に、この質問をした場合、指した門(こちらの門)が、正しい場合は、嘘つき門番は「いいえ」と答えるはずです。
従って、後半の「あなたは『はい』と答えますか?」に対しては、嘘つき門番は、「いいえ」に対する嘘、つまり「はい」と答えざるを得ず、結果として正しい答えを伝えてしまうわけです。
もし、この回答が分かりにくかったら、ぜひ周りの人と本問題について、一緒に考えてみてください。
そこで議論をすることそのものが、論理的思考を身につける訓練となります。