秋元通信

配車担当者はスゴイ! オペレーションズ・リサーチとは

  • 2021.4.27

例えば、あなたが、3ヶ所の訪問先を巡らなくてはならないとします。
この場合、考えられるすべての移動経路は、6通りです。
 

3×2×1 = 6

 
この6通りの経路について、Googleマップなどの経路探索機能を用いて、必要な所要時間を算出すれば、もっとも最短で巡回する順番、経路を算出可能です。
 
最適な経路を導く方法って、やることは単純です。
このように、考えられるすべての経路について、その所要時間を算出するだけですから。
 
ところが、巡回地点が増えると、大変です。
例えば、10ヶ所を巡回する場合の組み合わせは、以下のようになります。
 

10×9×8×7×6×5×4×3×2×1=3,628,800

 
これが、15ヶ所になると約1兆3千万通り、20ヶ所になれば約243京通りと、天文学的な数字に近づいていきます。
 
これは、『巡回セールスマン問題』と呼ばれる、数学上の難問です。
ロジックはけっして難しくないのですが、例えば20ヶ所の巡回組み合わせを算出し、最短経路を算出しようとすれば、極めて高い演算能力を備えたコンピューターが必要となります。
 
 
私ども、運送会社が利用する自動配車システムでは、ルートの組み合わせに加え、改善基準告示などの労務コンプライアンスを遵守した上で、貨物の詰合わせも考慮し、最適な配車を算出します。
自動配車システムでは、すべての組み合わせを洗い出した後で、ベストな組み合わせを算出しているわけではありません。AIを用いて、良い意味で計算を端折って算出しているのです。
 
本記事では、自動配車システムでは欠かせないルート最適化アルゴリズムを生み出した、オペレーションズ・リサーチについてご紹介しましょう。
 
 
 

オペレーションズ・リサーチの必要性

 
先日、新型コロナウイルスのワクチン接種に関し、興味深い書き込みを見つけました。
 

「コロナのワクチン接種って、高齢者から始めているけど、ホントは現役で働いている20代~50代、60代を先に接種したほうが、いろいろな意味で効果が高いのでは?」

 
なるほど…。
確かにそうかもしれません。
 
考え方を整理するために、それぞれのメリットを考えましょう。
 
 

高齢者からワクチン接種をすることのメリット

 

  • 重症者、死亡者を減らすことが期待できる。
  • (前項に関連し)病床の使用数、使用率を下げることが期待できる。
  • (前項に関連し)医療機関のリソースを解放することを期待できる。

 
 

現役世代から先にワクチン接種をすることのメリット

 

  • 現役世代が早期に日常を取り戻すことで、経済活動の復活を期待できる。
  • 活動が活発な現役世代からワクチン接種をすることで、人流を制限することなく、感染増加を防ぐことが期待できる。

 
それぞれに、理があるように感じませんか?
ただし、こういった議論を行う上で大切なことは、それぞれの主張に、科学的な根拠があるかどうかです。「私は、**が正しいと思うな」といった、卓上の空論をぶつけあうだけの議論では、正しい結論を導くことはできません。
 
例えば。
 
「現役世代が早期に日常を取り戻すことで、経済活動の復活を期待できる」
 
現在の、微々たるワクチン供給量で、果たして日常を取り戻すためのワクチン接種が完了するのはいつなのでしょうか。
変異ウイルスの登場により、さらなる感染拡大が予想される今、重症化しやすく医療機関のリソースを圧迫しがちな高齢者を後回しにワクチン接種することは、医療崩壊を招かないのでしょうか。
 
このようなケースでは、さまざまなシミュレーションを行い、予測される未来を根拠のある数値で示さないと、最適な判断はできません。
オペレーションズ・リサーチとは、統計学などの数学やアルゴリズムを駆使、課題となる事象に対し、科学的に正しい解決策を導くための「問題解決学」なのです。
 
 
 

オペレーションズ・リサーチの歴史

 
オペレーションズ・リサーチは、第二次世界大戦下のイギリスで誕生したと言われています。
一例を挙げましょう。
 
第2次世界大戦時、イギリスは、ドイツの潜水艦Uボートの脅威にさらされていました。
当時、イギリスは商船がUボートに沈められることを防ぐため、複数の商船をまとめ、軍艦を随伴させる護送船団方式を実施していました。しかし、その護送船団の規模については、議論が分かれていました。
 
小規模の船団の方が、Uボートからの被害を抑えられるという意見がありました。
これは、小さな船団の方が速力を上げることが可能なため、Uボートに発見されにくいはずである、という主張でした。
 
対して、大規模の船団の方がよいという意見もありました。
これは、船団が受ける被害の大小は、船の全体数ではなく、随伴する護衛艦の数に依存するはずである、という主張でした。
 
オペレーションズ・リサーチは、後者の主張が正しいと判断し、実際に被害を減らすことに貢献したそうです。
 
 
オペレーションズ・リサーチは、当初戦争における戦略論において、さまざまな実績を上げました。
現在では、さまざまな産業の場において、活用されています。
 
例えば、製造の現場では、製造ラインの最適化を図るために、オペレーションズ・リサーチが役立っています。
 
災害発生時には携帯電話による安否確認電話が爆発的に増加しますが、この時に、どのように携帯電話の通信制御を行うのかといった、アルゴリズムの開発にも、オペレーションズ・リサーチは用いられています。
 
劇場などの閉鎖空間では、災害発生時、避難しようとする人が出入り口に殺到し、避難行動の阻害要因となります。
オペレーションズ・リサーチでは、なるべく円滑に避難するために最適なドアや通路の幅を検討し、また避難に必要な時間の算出シミュレーションでも活用されています。
 
そして、もちろん自動配車システムも、オペレーションズ・リサーチは用いられています。
物流関係では、倉庫内オペレーションの最適化、サプライチェーンの最適化、航空貨物の積付けシミュレーションなどでも、オペレーションズ・リサーチは活用されています。
 
 
 

秋元運輸倉庫 芝浦営業所の配車の組み合わせ数

 
当社芝浦営業所の場合、日々配車を行う車両数は、だいたい16台となります。
仮に、各トラックが日々5ヶ所の配送を行うとした場合、その組み合わせ数は、
「2,884,801,920」通りとなります。
 
約29億通りですって。スゴイですね、配車担当者って!!
 
実際には、時間指定やら、車両指定、もしくは定番として配送ルートが決まっているケースもあり、この約29億通りからは、だいぶ減る要素もあります。
また、これとは別に、路線便に依頼している配送もあります。路線便に出すかどうかを検討する要素も入れれば、組み合わせ数は増えるでしょう。
 
人間の思考能力というのは、とても優れています。
29億通りを検討することは、人の限界をはるかに超えており、不可能です。しかし、「適当に思考を端折り、最適に近い結果を導く」という能力に関しては、人の思考能力は卓越しています。
 
とは言え、これからの配車に関しては、自社の最適化だけを目指すのではなく、サプライチェーンにおける輸送フェイズ全体の最適化を目指す方向へと、拡大/拡張する試みが始まりつつあります。
 
こうなってくると、もはや人力による配車は、無理でしょうね。
 
 
 
 

参考および出典

 


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