秋元通信

客先訪問至上主義とザイオンス効果

  • 2022.1.27

「会社でPCとにらめっこしている時間があるんだったら、お客さまを訪問しろよ!」
 
こういう客先訪問至上主義の上司は、どこの会社にもいるのではないでしょうか?
もしかすると、コロナ禍の今は、少し鳴りを潜めているかもしれませんけれども。
客先訪問至上主義の上司に対し、「うざいなぁ…」と思っている方もいることでしょう。
もっと言えば、「用もないのに訪問したって、ウザがられるだけだろう!?」と思っている方もいるかも?
 
しかし実は客先至上主義には、それなりに科学的な裏付けがあります。
 
 
 

ザイオンス効果とは?

 
例えば、あなたは買い出しのため、スーパーにいるとします。
ケチャップでもマヨネーズでも醤油でも、もしくはインスタントカレーや、カップ麺でも良いです。
「あっ、いつもCMで見ている商品だ…。これを買おう」と思ったことはありませんか?
 
その後、あなたはレジに並びます。
その時、初めて見かけた新人よりも、よく顔を見かけるベテラン店員さんのレジに並んだことはありませんか?
 
 
人は、同じモノや人などに対し、最初は興味の対象外だったとしても、何度も目にし、耳にすることで次第に好感を持つことが知られています。
これを、ザイオンス効果(もしくは、「単純接触効果」)と呼びます。
 
ザイオンス効果は、アメリカの社会心理学者 ロバート・ボレスワフ・ザイアンスが発見した心理効果です。
 
 
 

ザイオンス効果を裏付ける実験

 
ザイオンス効果そのものは、なんとなく、皆さまも心当たりがあるのではないでしょうか。
ザイアンスは、その「なんとなく心当たりがあること」に対し、科学的な裏付けを求め、研究を重ねました。
 
ザイアンス先生は、72人のアメリカ人に、「IKTITAF」というトルコ語と発音させました。
そして、被験者たちに、「『IKTITAF』とは、どういう意味なのか?」を想像させました。もちろん、被験者たちは、「IKTITAF」の意味を知りません。
 
ポイントは、発音させた回数です。
ある人には1回だけ。
ある人には5回。
ある人には20回発音させました。
 
すると、たくさん発音した人ほど、良い意味での単語だと想像したのです。
 
しかしこれだと音の響きで、印象が左右された可能性があります。
そこで、ザイアンス先生は、別の実験を行いました。今度の実験で使用したのは、漢字です。
 

  • 心理学者
  • 科学者
  • 経済学者
  • 社会学者
  • 天文学者
  • 物理学者
  • 地理学者
  • 植物学者
  • 生物学者

 
それぞれの文字を見せた回数を変えて、単語の意味を想像させたところ、たくさん見せられた単語ほど、良い意味だと想像したそうです。
 
 
 

ザイオンス効果の限界

 
ザイオンス効果は、どんな状況でも効果を発揮するわけではありません。
ザイオンス効果が発揮されるのは、基本的に相手が、ザイオンス効果の対象となるモノや人に対し、初期段階でプレーンな印象を持っていることが前提です。
 
当たり前と言えば、当たり前ですね。
もし、もともと嫌いな人から何回も「会いたい」と言われたら、それはストーカー行為と取られかねません。
 
また、ザイオンス効果にはリミットがあると言われています。
ザイオンス効果の対象となるモノ・人と接触し、好感度が上がるのは10回までと言われています。
10回以上の接触は、それ以上効果を発揮しないわけです。
 
 
 

無意味に営業訪問することに意味はあるのか?

 
「って言うことは、10回までは訪問OKだってことだよな!?」──ザイオンス効果の説明をすると、「会社でPCとにらめっこしている時間があるんだったら、お客さまを訪問しろよ!」と主張する上司の中には、このように発想する人もいるかもしれません。
 
こと営業に関して言えば、これは短慮ではないでしょうか。
 
 
もともとトラックドライバーだった私は、転職し、いきなり飛び込み営業の世界に足を踏み入れました。
営業のことなど、右も左も分からない私に、ある先輩がこんな話をしてくれました。
 
「相手にとって価値のある話ができれば、必ず時間を割いてくれるから」
 
先輩の話はこうです。
 
48億円の売上を上げている企業の部長と面談を行うとします。その企業には、4人の部長がいるとします。
単純に考えると、一人の部長が上げなければならない売上は、年間12億円になります。
 
一人の部長が、一ヶ月に上げなければならない売上は、1億円(※12億円÷12ヶ月)。
一人の部長が、一日に上げなければならない売上は、約455万円(※1億円÷22日)。
一人の部長が、一時間に上げなければならない売上は、約57万円(約455万円÷8時間)となります。
 
つまり、この部長と面談する際に、58万円以上の価値のある話をできれば、この部長は、必ず私と会ってくれるというわけです。
 
この話は、理論的な話のようですがそうではなく、心構えを説いています。
会社の売上を部長の頭数で等分した金額が、イコール目標売上であるわけもありませんし、(扱う商材にもよりますが)一時間で50万円、60万円といった、相手のミッションに応じた価値がある話が、いつもできるわけもありません。
 
ただし、ビジネスで人と会うということは、すなわち「相手が仕事をする時間」を割いてもらうことです。ただ単に、「会いたいから」といった理由で相手に時間をもらうことは、身勝手であり、また相手に対する尊敬・尊重が足りないのではないでしょうか。
 
ビジネスにおいて相手に時間を割いてもらうのであれば、相手に時間を割くだけの価値を提供できるかどうか、覚悟をすることが必要だと、先輩は私に説いたのです。
 
 
 

営業に大切なこと

 
ザイオンス効果は、対象との接触回数と好感度の関係を科学的に分析しただけです。
机上の空論とまで言うつもりはありませんが、ザイオンス効果を鵜呑みにし、「だから足繁く客先に通うべきなんだよ!」と単純に説く上司がいたとしたら、それは違うでしょう。
 
営業においてザイオンス効果を活用するのであれば、それは訪問(直接面談)だけに頼るべきではありません。
訪問に加え、電話、メールなど、違うアプローチ方法も含めて、お客さまへのアプローチを行うべきです。
 
少し話が違いますが、最近、保険会社などでは、営業の個人名(個人のメールアドレス)でメルマガを配信するケースを見かけます。
メイン記事は、会社で用意しているようですが、メルマガの挨拶文などは、営業それぞれが考えているケースもあります。中には、営業個人のブログをそれぞれ用意し、メルマガに貼り付けているケースもあります。
 
ザイオンス効果を意識しているかどうかは別として、これもお客さまとの接触機会を増やし、営業個人への好感度を上げるための施策なのでしょう。
 
営業に好感度は必要です。
しかし、お客さまから好感を持たれることが、すなわち営業成績につながるとは限りません。いくら訪問やメールなどの接触回数を増やしても、「良い人」だけをアピールする営業手法では、成績につながりません。
 
同様の意味で、お客さまに会うことだけを強要する上司は無能だと、私は考えます。
部下に対し、「お客さまが時間を割くだけの価値」を用意してあげること、すなわち営業としての武器を授けることこそ、営業部の課長や部長に求められることではないでしょうか。
 
ザイオンス効果は、しょせんテクニックに過ぎません。
営業において、本当に大切なことは相手を思う気持ちではないでしょうか。
 
 
 
 

出典・参考

 

 
 
 


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