秋元通信

大地震に対し物流ができること

  • 2016.4.21

「被災地では、ものがなくて苦しんでいる人達がいる。なのに、トラックドライバーである私は、おにぎりひとつ被災地に運ぶことができない」

先週4月14日に発生した熊本地震直後にTwitterでつぶやかれた言葉です。
確かに、世間には被災地への配送が滞っている現在の状況に、もっと言ってしまえば運送会社に対して、憤りの声をあげる人もいらっしゃいます。

大地震が発生したとき、物流ができることはなんなのか。
東日本大震災や阪神淡路大震災を振り返りながら、考えてみました。

tokyo_bousai

東京都が配布した「東京防災」。 配布対象住民の居住区に応じた避難マップが付属します。 掛け値無しに、素晴らしくよくできた防災本です。

まずは、災害発生時における心構えの基本をおさらいします。
昨年、東京都は全都民に対し、「東京防災」という災害に際して身を守るためのマニュアルを配布しました。その冒頭、「地震発生その瞬間」という項では、まず「自助」という言葉とともに、「自分自身と家族の命を守ることを最優先に考えて行動します」と書かれています。
「自助」は、被災した際の基本です。
災害発生時に、自らを守ること。
災害発生後に、まずは自力でサバイバルを試みること。
その後に「共助」、つまり「まわりの人と協力し、ひとりでも多く人を助けることで、震災の被害を軽減することができます」(東京防災から)が必要となります。

これは被災地に赴き、ボランティア活動を行う上でも言われることですが、被災地には自らの足で立つことのできる人以外は赴いてはなりません。ボランティア活動においても、自ら宿泊場所(テントなど)を用意し、自ら食料を持ち込むことのできる人以外は、復興活動の迷惑となります。
被災地に行った結果、被災地に負担をかける、ましてや新たな被災者となる可能性のある人は、被災地に入ってはいけないのです。

トラックドライバーはものを運ぶプロフェッショナルですが、被災地で活動を行うノウハウは持ちあわせていません。
災害発生直後、支援物資等を被災現場に届けるラストワンマイルの物流を担うのは、残念ながらわたくしども物流業界ではなく、自衛隊の方々の役目です。

被災地という特殊な環境において、「自助」ができない人は、「自助ができる状況」が確保されるまで被災地に入ってはならない。
これは、災害時の基本なのです。
東日本大震災のとき、なぜ支援物資が被災地に届かなかったのか。
大きく分けると、その原因は、オペレーションと倉庫機能(支援物資の保管場所)、そして情報管理に起因します。

災害発生時、支援物資は都道府県に設置される支援物資一次集積場所、そして市区町村に設置される二次集積場所、そして避難所、病院といった被災者のいる避難場所へと輸送されていきます。
東日本大震災では、あまりにも亡くなられた方が多かったことから、当初想定されていた集積場所が遺体安置所として利用され、支援物資の倉庫としては機能不十分な建物(市区町村庁舎など)が充てられるケースが多発しました。フォークリフトはおろか、そもそもトラックから集積場所までの人力横持ちが必要となるケースが多発したのです。
加え、不慣れな自治体職員が支援物資の物流オペレーションを指揮したため、効率が大幅に下がりました。ご存知のとおり、海沿いの市区町村では多くの職員の方々も命をおとされています。職員の絶対数が足りない二次集積場所では、さらに混乱が加速しました。
通信手段が途絶したことにより、的確な支援物資の要請が被災地現地から行うことが難しかったことも災いしました。不要な支援物資の存在が集積場所のキャパシティを圧迫し、さらに避難場所への物流を滞らせました。

実は、岩手県では比較的支援物資の物流がスムーズであったそうです。
理由は、十分なスペースのある県のイベント会場を一次集積場所として活用したこと。そして早期に物流オペレーションに、同県トラック協会の協力が加わり、物流のプロのノウハウが活かされたためだそうです。

このような事例は多く残っています。
例えば、避難場所へのラストワンマイルの輸送を自衛隊が担ったものの、目印が消失していて辿りつけない状況で、宅配事業者のドライバーが自衛隊隊員の皆さまに配達場所の指示を行い輸送を完遂した例があります。
また、コンビニ大手三社のなかで、ローソンは自社の物流網の壊滅状況を迅速に判断し、いち早く航空自衛隊小牧基地経由で福島空港に輸送することで、大量のおにぎりやパンを支援物資として避難場所に送り届けることができました。
「被災地では、ものがなくて苦しんでいる人達がいる。なのに、トラックドライバーである私は、おにぎりひとつ被災地に運ぶことができない」
特に震災発生直後であればあるほど、トラックを被災地に送り込むことはできません。
ただそれは、物流のプロとしての力不足ではなく、被災地で自助するノウハウがないためであり、致し方ないことです。
物流のプロが持っているノウハウは、トラックを運転することだけではありません。被災地に対して、被災者に対してできることは、他にもあるはずです。
例えば、倉庫オペレーションに従事している方は、支援物資の入出庫や、効率的な物資配置を考えることで協力ができます。事実、結果的に支援物資物流を早期に立ち上げた地域は、物流事業者の協力を得たところであったという調査も残っています。
もうひとつ、大事なことがあります。
支援は継続的に行う必要があるということです。

「今、支援をすることに焦らなくてもいい。被災地支援は今後何年も続くものだから。今、支援行動ができないことに焦りや憤り、失望を感じる人は、自分が支援を行うことができるようになったタイミングで頑張りましょう」
これは、東日本大震災直後に、ある心理学者の方がTweetした主旨です。実は筆者も、この言葉に救いを感じたひとりです。

災害時の支援物資物流に協力ができることの証、もしくはノウハウを勉強する資格などがあれば、わたくしどもも支援活動が行いやすいかもしれませんね。
今後のことを考え、さまざまな支援の形を考えるのも、これもまたひとつの災害対策なのかもしれません。

 

参考:
東京防災(東京都)
東日本大震災とフードシステム(日本フードシステム学会編 農林統計出版)
災害時の救援物資輸送などの緊急支援活動について(交通工学 2014年Vol.49 交通工学研究会)


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