秋元通信

「残業ができない時代」に、企業はどうあるべきか?

  • 2024.1.17

「少なくとも一人前になるまでは、残業も嫌がることなく、必死に働く覚悟はできています」──これは、就職を控えたある大学生の言葉です。
既に内定をもらい、数カ月後には社会人になるわけですから、気負っている部分もあるのでしょう。
 
しかし筆者は、このように声を掛けました。
 
「君たちはね、『残業をさせられる』のではなく『残業ができない』社会に出ていくんだよ」
 
これは筆者が当社にインターンシップ体験を行いに来てくれた生徒・学生に対しても必ず話すことでもあります。
 
 
言うまでもなく、働き方改革関連法では、時間外労働に制限を掛けています。
世間でも、「長時間労働=悪」という認識はもはや当たり前のこととして認識されているでしょう。
 
「残業ができない時代」において、企業はどうあるべきなのでしょうか?
 
 
 
 

新社会人が仕事に求めるもの

 

  • 働きたい職場の特徴は「お互いに助け合う」(66.4%)がトップ。「お互いに個性を尊重する」(50.7%)が10年前と比較し21.8ポイントUPし過去最高、「アットホーム」(37.3%)は過去最低
  •  

  • 働くうえで大切にしたいことは「仕事に必要なスキルや知識を身につけること」(48.5%)がトップ。「任された仕事を確実に進めること」(38.9%)が過去最高、「何事も率先して真剣に取り組むこと」(13.8%)が過去最低
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  • 上司に期待することは「相手の意見や考え方に耳を傾けること」(49.5%)がトップ。「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」(49.1%)が過去最高、「言うべきことは言い、厳しく指導すること」(17.5%)が過去最低
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  • 仕事をするうえで重視したいことトップ2は「成長」(28.8%)と「貢献」(26.7%) 。「競争」(2.4%)は昨年に続き最下位
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  • 得意なスタンスのトップ2は「協働」(25.9%) と「相手基準」(24.9%)。苦手意識のあるスタンスのトップ2は「試行」(28%)と「自発」(26.6%)
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  • 新入社員時代に身に着けたい力のトップは「社会人としての基本行動」(38.9%)、最下位は「会社の理念や価値観に沿った行動」(0.9%)

 
これは、リクルートマネジメントソリューションズが実施した、「新入社員意識調査2023」の概要です。
 
 
この内容、皆さまはどのように感じますか?
筆者は、以下のような違和感を感じます。
 

  • 「成長したい」「貢献したい」と言いつつ、「何事も率先して真剣に取り組むこと」を軽視する(少なくとも、「重要視はしていない」)という違和感。
  •  

  • 「お互いに助け合う」環境を働きたい職場と言いつつ、それは「アットホーム」ではないという違和感。
  •  

  • 「仕事に必要なスキルや知識を身につけること」を大切だと言いつつ、「試行」と「自発」を苦手だという自己評価。

 
「会社の理念や価値観に沿った行動」を厭う(少なくとも「眼中にない」)という意識からは、会社が社員に対して望むことについては冷淡である傾向が見受けられます。
 
 
これらから感じるのは、会社への帰属意識も低く、かつ受け身でありながら「自分を成長させてほしい」という若者が抱くエゴです。
 
本調査に対し、リクルートマネジメントソリューションズの研究員は以下のように総括しています。
 

今回の調査結果を総合的に見ると、新入社員の中で「個」への意識が、ますます高まる傾向が見えてきました。働きたい職場、上司に求めることの項目を筆頭に、「お互い」や「個性」、「一人ひとり」など、「個」を意識させるワードを含んだ選択率が上昇し、一方で、価値観を一体化していくことを連想するような項目の選択率は下降しています。

 
 
 
 

長時間働けば、自ずとスキルアップと収入アップにつながるが…

 
筆者の社会人としての最初のキャリアはトラックドライバーでした。
26歳までドライバーとして働き、その後、通信系の営業会社に転職しました。転職先の会社は、すさまじいブラック企業で、ひどいときには月に300時間以上の残業をしていました。
 
これを言うと、「月に300時間も残業できるの?」とおっしゃる方がいるのですが、休日もなく毎日終電過ぎまで働き、かつ週に3~4日は徹夜(と言っても、2時間程度は寝れるのですが)をしていると、300時間の時間外労働は達成できます。
 
誤解のないように申し上げると、同じ職場の人が、すべて筆者と同じような働き方をしていたわけではありません。
同僚の多くは一般企業から転職してきた人たちです。
これまた誤解を恐れずに言えば、ドライバーとして働いていた筆者は、ビジネスマンとして基本的なスキルが大きく欠けていました。そもそも、当初はパソコンすらも満足に扱えませんでしたから。
 
慣れないパソコンを扱い、そしてビジネスのいろはを学びつつ、結果を出そうとすれば、自ずと長時間労働になります。結果、数年後に筆者は、数多の同僚や先輩を追い越し、要職へと昇進を果たしました。
 
 
筆者は、器量には恵まれていません。
そして、ビジネスマンとしての本格的なスタートも、同年代の人たちと比べて、圧倒的に遅い状況にありました。
さらに言えば、転職した先の会社にも、人材育成のカリキュラムは整備されていませんでした。実力主義という美名のもと、放置放任がまかり通っていたのです。
 
しかしながら、人よりも長い時間、働くことで、筆者はスキルアップを果たしたのです。
 
 
筆者の例は極端かもしれません。
しかし、長時間労働が、結果としてスキルアップと収入アップの最適解となる例は、世間にごまんと転がっています。
実際、社員がスキルアップと収入アップを果たす方法として、長時間労働に(意図的かどうかは別として)求めてきた会社もたくさんあるでしょう。
 
 
「残業ができない時代」、これは、長時間労働に社員の収入アップ・スキルアップを委ねてきた会社に再考を求めているのです。
 
 
 
 

成長の機会を奪ってでも長時間労働を是正

 

新人・若手指導担当者の65%は「緊急事態宣言期間中、新人・若手に指導がしにくかった」と回答。一方で、働き方改革が進む中での「新入社員との関わり方」については6割近くが「成長につながる仕事であっても、残業をしないことを優先して業務を減らしている」と回答
 
出典
「イマドキ若手社員の仕事に対する意識とは【若手意識調査2020】vol.1」(日本能率協会マネジメントセンター)

 
「そうなんだろうな」と思いませんか?
もしくは、「ウチもそうなんだよ…」という人もいるかもしれませんね。
 
以前、以下記事をお届けしました。
 

 
記事内では、ある大手メーカーに勤める20代女性の以下発言を紹介しています。
 

「とにかく20代を濃い時間として過ごしたい、(中略)たとえば、新人が事務作業しか任されなかったり、先輩社員のアシスタントにまわったり。下積みに時間を費やしていたらもったいない」

 
一方で、同記事内では、あるメーカーの若手社員が、下積みに十分な時間を掛けた結果として、貴重で競争力のある技術を我がものとできたエピソードも紹介しています。
 
先の調査では、「成長につながる仕事であっても、残業をしないことを優先して業務を減らしている」という現場の声を取り上げています。
経験を積ませることが、「長時間労働=悪」という風潮のもとでは実行できなくなっているのです。
 
これはとても由々しき事態です。
 
「成長したい」「貢献したい」という若手社員の機会を奪うだけではなく、会社側としても貴重な人材育成、ひいては売上アップの機会を失うことになります。
 
 
 
 

「残業ができない時代」に経営者がすべきこと

 

  1. ロボットやAIなども活用した、徹底した業務効率化と生産性向上
  2.  

  3. 社員のキャリアパスの進化と深化
  4.  

  5. 属人化の解消

 
秋元通信流に、「残業ができない」時代に企業が行うべきことを考えてみました。
 
 
まずは、1.ですね。
労働可能な時間が限られているわけですから、これは必須です。
例えば、今まで毎日10時間働いている従業員がいれば、業務の効率化を図り、「同じ仕事をしても7時間で終わる」環境に職場改善・働き方改善を行います。
空いた1時間を、従業員(特に若手)の育成に使えるようにできれば、若手の希望にも添えます。
 
これを果たすには、仕事のムリ・ムダをなくす業務改善も必要ですし、今であれば、RPAや生成AIなどのツールによって、作業的な仕事を自動化・省力化することも必要でしょう。
 
 
2.は、これまでも言われてきたことです。
 
少し話がそれますが、筆者がWebサイト制作に長年携わってきた経験として、「就職希望者、特に新卒者は、採用サイトのキャリアパスに関わるコンテンツをよく見ている」ことを知っています。
もちろん、一番見られるのは募集要項コンテンツなのですが、「私はこの会社に就職して、どんなキャリアパスを得られるのか?」を示したコンテンツは、たいがい2番手3番手のアクセスを稼ぎます。
 
とは言え、多くの企業では、「〇〇の資格が取れる」「◯歳には係長に、◯歳には課長になれる(ケースが多い)」といった即物的なキャリアパスが一般的でした。
しかし、内部的、あるいは従業員がアクセスできる情報として、より定性的なキャリアパスを示すことも必要でしょう。採用Webサイトなどに掲載し、キャリアパスを詳らかに公開するかどうかは別ですけれども。
 
 
より定性的なキャリアパスの例を考えましょう。
 

  • 運送会社の営業として、◯歳には独り立ちできる。
  •  

  • 事務職としての入出力作業だけではなく、事務業務を通じて業務分析を行い、社内の業務改善プロジェクトに◯歳には参加して貰う予定。
  •  

  • ◯歳までには3PL企業の所長として他社でも通用できるスキルを身につける。

 
最後の例は、ここまで(定性的と言いつつ)具体的になってくると、「3PLの所長として必要なスキル」を具体的にピックアップしていく必要もあります。
「ウチの会社における価値」も大切ですが、それ以上に、より世間一般においても通用する価値を示していく必要があるでしょう。
 
 
3.の「属人化の解消」ですが、これはどちらかと言えば会社側にとって必要な措置です。
率直に言えば、1.や2.のような対策を行い、そして「成長したい」「貢献したい」という若手社員の希望を叶えたところで、今の時代、社員を会社につなぎ止められるかどうかはわかりません。
以前に比べ、転職回数が転職の障害とならなくなりつつある今、そして会社への帰属意識が年々低下する今、会社がどのような対策を打ったところで、従業員のつなぎ止めには限界があります。
 
だからこそ、「退職されても大丈夫なように」属人化に陥る要素は、できるだけ業務から排除しておくべきです。
 
 
他にも、企業理念やビジョン、あるいは中長期の経営戦略を継続的に共有し続けることで、従業員の成長と帰属意識を高めるという行動も必要でしょう。
ただし、「会社の理念や価値観に沿った行動」に関心がない若手に興味を感じさせるだけの内容にするのは、ハードルが高いかもしれません。
 
 
 
最後にもうひとつ。
そもそもの話として、従業員が長時間労働をできる道も模索するべきだとは思います。
 
12月の秋元通信で、「改正後の働き方改革関連法では、『もっと働きたい!』という人にも、現実的な選択肢を与えられるよう、検討してほしいものです」と申し上げました。
 

 
「残業ができない時代」に、企業はどうあるべきか?──少子高齢化と、これに伴う就労可能人口減少が社会課題である日本において、人材不足は加速することはあっても、解消することはありません。
 
これは、企業にとっても持続可能性を左右する、大きな問題となっていきそうです。
 
 
 
 


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