あなたは、右利きですか?、それとも左利きですか?
世界的に見ると、概ね9割の人が右利き、1割が左利きなんだそうです。
今回は、利き手に関する疑問や雑学をお届けしましょう。
日本では、右利きが88.5%、左利きが9.5%、両利きが2.1%だという統計があります。
世界中どこの国でも右利きが多いのは確かなのですが、中には左利きの割合が、他国よりも多い国もあります。
例えば、オランダ(15.7%)、ニュージーランド(15.5%)、ノルウェー(15.0%)といった国々です。
逆に左利きが少ないのが、アメリカ(2%)です。
アメリカでは、「左利きを無理やり矯正すると、脳の発達に悪影響を及ぼす」という研究結果が広く支持されており、クロスドミナントの人が30%近くいるのだとか。
このクロスドミナント、日本で言う両利きとは少し意味合いが異なります。
クロスドミナントは、「用途によって使いやすい方の手を使う人」を指します。利き手は、右脳・左脳それぞれの発達とも関連性が見られること(※後述します)から、両方の手を用途によって使い分けるクロスドミナントをあえて意図的に子どもに施すべきだとする教育論・育成論も存在します。
ただし、先に述べたように、利き手の矯正は脳の発達にとって悪影響があるので、脳がある程度成長する小学校高学年から実施すべきとされています。
結論から申し上げれば、「利き手がどうやって決まるのか?」はよく分かっていません。
ただ、以下に挙げるような要素が組み合わさって決定されるものと推測されます。
- 遺伝説
例えば、子どもが左利きになる確率は、両親がともに右利きなら約10%ですが、親の片方が右利きで、他方が左利きの場合は約20%、両親がともに左利きなら約26%なんだそうです。 - 脳の働き
脳には右脳と左脳があり、右脳は感覚的・直感的な能力などの創造力を司り、左脳は分析・論理思考に優れ、言語力や計算力を司るという考え方があります。
そして右脳は左半身、左脳は右半身のコントロールを司ります。
結果、言語能力を必要とする人間は、左脳を十分に発揮するために右利きが多いという説です。 - 胎内での向き
最終妊娠期における胎児の位置(胎向)と、その後の出産位置が利き手に影響する可能性があるという統計があるそうです。
約2/3の胎児は背中を母体の左側に向けており、胎児は胎内において、左手でバランスを取り、その結果として自由な右手を胎内で活発に動かすために、右利きが多くなるという説です。
ギニア南東隅のボッソウに生息するチンパンジーを観察した学者がいました。
この地域に生息するチンパンジーの中には、アブラヤシの種を石で叩き割って食べる個体がいます。アブラヤシの種は、とても硬く、3cm前後のやや細長い形をしています。
この種を台に見立てた石に置き、石をハンマーのように器用に使って叩き割って中の胚を食べるんだとか。
ボッソウに生息するチンパンジーを観察したところ、木の枝を掴む、何かを拾うといった動作において、特異的な左右の手における使用頻度の差──すなわち利き手の存在は観察されなかったそうです。
しかし、「アブラヤシの種を石で叩き割る」行動を取る個体においては、右手でハンマー代わりの石を持つ個体、左手で持つ個体がはっきりと観察され、またこれらの個体は常に同じ側の手を「石を持つ手」として使ったのだとか。つまり、利き手の発現が観察されたそうです。
この「アブラヤシの種を石で叩き割る」行動を取るのは、14歳以上の成熟した雄に限られました。14歳未満の個体においては、「アブラヤシの種を石で叩き割る」行動を真似るケースはあっても、うまく割ることができなかったそうです。
そして、3歳未満の幼いチンパンジーでは、ハンマー代わりの石を左右持ち替えながら試行する様子が観察されたそうです。
これらの観察結果を考察すると、利き手は、高度で複雑な行動を発達させるプロセスにおいて発生する専門分化であると考えられます。
チンパンジーは、複雑な行動を行うときに、初めて「どちらの手の方がやりやすい」かを学習し、その結果として利き手が発現した可能性があります。
ちなみに餌付け、あるいは飼育されたニホンザルにおいても、さつまいもやみかんのような大きな食べ物を拾い上げるときには、左右の手の使用頻度に差は観察されないものの、小麦やペレット(人工飼料)のような小さく細かい食べ物を拾い上げるときには利き手が観察されるそうです。
人間における利き手の発現にも、同じようなケースが観察されますね。
筆者の娘は、スプーンやフォークを使い始めてすぐの頃は、左右の手をランダムに使い、つまりスプーン・フォークを使う手が安定しませんが、スプーン・フォークに慣れて、箸を使い始める頃にははっきりと右利きであると分かるようになっていました。
これ、聞いたことがありませんか?
例えば、トーマス・エジソン。
例えば、アイザック・ニュートン。
例えば、ナポレオン・ボナパルト。
レオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロ、パブロ・ピカソやアルベルト・アインシュタイン、現代ではビル・ゲイツも左利きだったそうです。
天才と左利きの関係に科学的根拠はありませんが、「左利きの方が数学的な思考に強い」という傾向はあるそうです。
天才的な才能を発揮した人に左利きが多い理由としては、「右利きの人に比べて、右脳がより発達している」、「右脳・左脳の両方を利用した情報処理力が優れている」といった説があります。
先に、「言語能力を必要とする人間は、左脳を十分に発揮するために右利きが多い」と申し上げました。
左利きの人は、言語能力に劣る右脳を中心に使うため、右脳でも言語能力の向上が見られるそうです。結果、右脳・左脳の双方が、右利きの人よりも活性化され、かつ利用頻度も高くなるため、左利きの人には天才が多いという理屈です。
また、頭の良い人に、左利きの人が多いことは確かなようです。
「MENSA(メンサ)」という団体があります。
これは世界で上位 2%の IQ (知能指数) を持つ人たちが参加する国際グループなのですが、「MENSA」メンバーの約2割が左利きなんだそうです。
英語には、「左」を悪い意味で用いる表現が多数あります。
- 私生児のことを、「ベットの左側から生まれた」。
- 不倫のことを、「左手の関係」。
- 間違った推論を、「左手の分別」。
- 情婦など、道徳性に欠けた関係の女性を「左手の妻」。
そもそも、「左」を表す「left」の古英語である「lyft」は「弱い、壊れた」という意味です。
このように、キリスト教文化圏では「左」を不適切で不浄なものとみなすことがありました。
旧約聖書モーセ五書(トーラー)の第3書であり、祭司制度や儀式の詳細な規定を記した「レビ記」では、左手でものを食べたり、左手で誓いを立てたりすることを禁じています。
新約聖書でも、左側は悪と関連付けられることがあります。例えば、マタイの福音書では、最後の審判において、イエスが羊を右側に、山羊を左側に分けるとされています。
補足すると、新約聖書における山羊は、最後の審判においてイエスによって救われない人々のメタファー(隠喩)です。イエスの右側に置かれた羊は「天国に入る人々」を表し、対して、イエスの左側に置かれた山羊は「永遠の火に入れられる人々」を表します。
イギリス王室では、王位継承者は左利きであってはならないという迷信があったそうですが、これもキリスト教文化圏における「左」のイメージから来るものなのでしょう。
一方で、古代エジプトでは、左利きの人は神聖な存在と考えられていたそうです。
利き手と精神疾患には相関性があるという研究もあります。
統計を取ると、左利きの人は統合失調症やうつ病などの精神疾患を発症するリスクがわずかに高いそうです。
さらに、「左利きは短命である」という説もあります。
これは、1994年にカナダの心理学者が発表した『左利きは危険がいっぱい 』という本における、「左利きの人は、右利きの人に比べて寿命が9年短い」という主張(研究成果?)が大きく影響を与えました。
これら(左利き短命説や、精神疾患との関連性)は、基本、統計調査をもとにしたものであり、その考察には疑義が生じていること、科学的な根拠が乏しいことを、ご留意ください。
ただし、少数派となる左利きの人は、右利きの人に比べ、日々さまざまなストレスを感じながら生活を送っていて、これが精神疾患や寿命と関係があるという説は、ありえる話でしょう。先に挙げたクロスドミナントという考え方も、この文脈上にある考え方です。
筆者の知人は、クロスドミナントでした。
文字は右手で書きますが、マウスは左手で扱います。なのでペンタブレットを右手で、マウスを左手で扱うという離れ技を日常的に行っており、「あれ、便利そうだな…」と思った筆者は真似をしようとしましたが、無理でしたね。
ちなみに彼は美的センスも独特な人で、スーツにフリルの付いた白いワイシャツを愛用していました。知人女性は、「あんなシャツ、どこで売っているんだか…!?」と彼のファッションセンスを評していましたが。
彼は仕事もできる人でした。ただ、その才覚が左利きによるものなのか、それとも別の要素によるものなのかは不明です。
ひとつ断言できること、それは、「利き手は、人によって異なる個性のひとつ」だということです。
右利きだから優れている、左利きだから劣っているといったことはありません。もちろん逆もしかりです。
大切なのは、それぞれの個性を尊重し、多様性を認め合うことです。
これは利き手に限った話ではありませんが。
- 「左利き」は天才? 利き手をめぐる脳と進化の謎 ディヴィット・ウォルマン 日本経済新聞社
- 「野生チンパンジーの道具使用と利き手の発達」 (<特集>霊長類研究最近の成果)
杉山 幸丸 / 遺伝 : 生物の科学