秋元通信

「運転をさせない」判断基準を考える 【後編】

  • 2019.7.31

※本記事は、後編となります。前編はこちらをごらんください。
 
 

女性ドライバーに固有の課題

 
女性には、生理と妊娠という、女性特有の留意すべきポイントがあります。
 
生理痛など、生理の際に生じる精神的ストレス、頭痛や腰痛、眠気などの集中力低下は、男性には理解し難いものです。残念ながら、男性中心である物流業界においては、女性ドライバーが生理に伴う体調不良について、会社や上司に訴えることは難しいでしょう。
だからこそ、女性ドライバーに対しては、こちらから様子を観察し、体調不良などの兆しを見逃さないことが大切です。
 
妊娠期には、さらなる注意が必要です。
カナダにおける統計調査では、妊娠中期にある女性ドライバーは、妊娠前に比べて事故率が1.42倍に増加することが報告されています。
胎盤から分泌されるホルモンが、眠気、全身倦怠感、睡眠障害、注意力低下などを生じさせることが原因であるとされています。
 
妊婦にトラックドライバーをさせる会社は、少ないことと信じたいですが…
例えば、妊娠を期に内勤への配置転換などを行う際にも、自動車通勤をしなくて済むように、配慮をすることが望ましいでしょう。
 
 

認知症と運転リスクの関係

 
認知症患者における運転の傾向を挙げましょう。

  • 慣れた道でも迷う
  • 走行速度の調節能力低下(速度超過、もしくは低速度で走行し続けることもある)
  • 車線変更合図や後方確認能力の低下
  • 不適切な車線内の位置取り
  • 停止信号無視
  • 交通標識の見逃し   など

 
なお、認知症とひとことで言っても、前頭側頭型認知症(FTD)、アルツハイマー型認知症(AD)、血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)などがあります。
FTDとADでは、交通事故のリスクが10.4倍高まるという報告もあります。
 
認知症の原因別による症状の違いと運転行動の特徴
 
※『認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル©』全文は、以下から参照することができます。
https://www.ncgg.go.jp/cgss/department/dgp/index.html
 
興味のある方は、あわせてご覧ください。
 
 
運転適性検査、自動車運転シミュレーターなどによって、認知症およびその傾向を発見できることもありますが、絶対ではありません。
 
とても悩ましいことですが、それが現実です。
 
 

では、運送会社としては、「運転をさせない」判断を、どのように行なうべきなのか?

 
まず、申し上げたいことは、日本に限らず、欧米諸国などを参考にしても、「運転をさせない」基準を明確に発見できる検査方法、試験方法は、存在しないということです。
 
前述したとおり、道交法には免許の取り消しなどに該当する「一定の病気」は記載されています。
しかし、私ども自動車運転を生業とする事業者の場合は、免許取り消しなどの要件よりも、はるか手前に、「運転をさせない」基準を設ける必要があります。
 
そのヒントとして、ふたつポイントを考えましょう。
ひとつ目は、「単発的な運転停止」の場合です。
 
まず、病気については、ドライバーから会社に対し、すべて報告してもらう必要があります。とは言え、医者によって、職業ドライバー特有の事情に対する理解は異なってしまいます。そのためには、職業ドライバーの特性を理解し、適切な判断と、情報共有が可能な、産業医の存在が必要でしょう。
 
その上で、点呼の際には以下を確認すべきです。

  • 現在、通院しているか?
  • 市販薬を服用しているか?
  • 医師からの処方薬がある場合、きちんと飲んでいるか?
  • 医師からの指示事項を守っているか?

市販薬を服用している場合、その薬を確認する必要があります。
 
また、疾病に応じ、確認すべきことも変わってきます。
 

高血圧症の場合
  • めまいはないか?
  • 頭が重い、もしくは痛くないか?
  • 動悸がしないか?
  • 脈が乱れることがないか?

 

心血管系疾患の場合
  • 動悸がしないか?
  • 脈が乱れたり、極端に遅くなることはないか?
  • 息切れはしないか?
  • めまいはないか?
  • 気分はどうか?
  • 胸痛はないか?

 

糖尿病の場合
  • 喉が異常に渇くことがないか?
  • だるさ、疲れがひどくなっていないか?
  • 目立って痩せてきていないか?
  • 頻尿、多尿ではないか?
  • 冷や汗が出る感じがないか?(低血糖の恐れあり)
  • めまいがしたり、著しい倦怠感があることはないか?
  • 気分はどうか?
  • 動悸がしないか?

 
※ただし、糖尿病の場合は、高血圧症や心血管系疾患併発の恐れがあるため、高血圧症および心血管系疾患の項目も確認すべきと考えられます。
 
ふたつ目は、中長期的な運転停止であり、場合によっては職業ドライバーとしての引退勧告となります。
 
まず、自身の健康状態や、疾病、通院、服薬の有無について、適正な報告を行うことができないドライバーは…、難しいでしょうね。実際、てんかんを隠したり、またてんかんの薬を適切に服用していなかったために、悲惨な交通事故の加害者となった例があります。
 
「運転をさせない判断」は、広く総合的に行う必要があります。
産業医との連携はもちろん、管理者によるトラック同乗チェックも必要です。運転適性検査の実施、運転シミュレーターによる定量的な判定に加え、職業ドライバーの運転適性を判断することができる自動車教習所など外部機関によるチェックも必要です。
 
しかし、最終的な判断は、あなたの会社がくださなければなりません。
お医者様でも、教習所の教官でもなく、「運転をさせない判断」は自社で最終決断する必要があるのです。
 
これまでは、定年=ドライバー引退であった運送会社も多いことと思います。
しかし、これだけドライバー不足が深刻になると、対策としてドライバーの定年再雇用などを行う企業も増えてくるでしょう。
 
そして、本記事では職業ドライバーの引退を前提に考えてきましたが、すべての自動車運転免許保有者について、免許返納は検討すべき課題となってきています。
あなた自身はもちろん、あなたのご両親に対しても、いつ免許返納を行なう(勧める)べきなのか。
 
「運転をさせない判断」、そして「運転をしない判断」は、他人事ではないのです。
 
 
 

注意とお願い

 
本記事は、専門誌に掲載された文献を元に作成しております。
専門的な内容が含まれていますが、その正確性については、文献に依存しており、編集部では検証ができません。
「運転をさせない」判断を運用する際には、産業医などと連携の上、ご判断くださいますよう、お願い申し上げます。
 
 
 

こちらの記事もご覧ください

 
「運転をさせない」判断基準を考える 【前編】
 
 
 

参考および出典

 
「医学のあゆみ」2018.3.31 (医歯薬出版)

    「自動車運転リハビリテーション -運転再開と中止」 (蜂須賀研二 加藤徳明)

 
「医学のあゆみ」2018.7.14 (医歯薬出版)

  • 「運転者の健康状態と自動車運転免許制度」 (馬場美年子)
  • 「プライマリケアにおける自動車生んての注意」 (森口真悟 一杉正仁)
  • 「女性ドライバーに対する安全な運転のための保健指導」 (花原恭子 立岡弓子)
  • 「安全な自動車運転を考慮した服薬指導」 (木津純子)

 
「Modern physician」2017.2 (新興医学出版社)

  • 「医師のための認知帳の理解と援助 ~臨床現場における対応から~」 (上村直人)
  • 「疾患と運転可否のエビデンス」 (堀川悦夫)

 
「労働安全衛生広報」2010.9.15 (労働調査会)

「自動車運転者の健康管理のために 医師からの意見聴取や点呼時のチェックで健康状態の継続的な把握・対応を!–事業用自動車の運転者の健康管理に係るマニュアル(国土交通省)から」
(国土交通省自動車交通局自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会)


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