秋元通信

アフター・コロナで、さらに低下、日本の労働生産性、その国際比較を診る

  • 2023.5.29

端的にお尋ねします。
皆さまは、日本人が優秀だと思いますか?
 
何を持って「優秀」と判じるかはともかく、こと労働生産性という観点で言えば、日本は、諸外国と比べ、優秀とは言い難い水準に甘んじてきました。
 
さらに…
コロナ禍を経て、日本の労働生産性が、さらに諸外国に比べて低下しています。
 
以降、「労働生産性の国際比較」(公益財団法人日本生産性本部)からご紹介していきます。この調査は、1981年から続いており、権威と実績のあるレポートです。
   

「就業者1人当たりの労働生産性」は、過去最悪の38カ国中29位に転落

 
本レポートは、OECD(経済協力開発機構)に加盟する38カ国を対象に行われています。
 
そもそも、「就業者1人当たりの労働生産性」について、日本はずっと下位に甘んじてきました。
 

  • 1970年 19位
  • 1980年 19位
  • 1990年 13位
  • 2000年 20位
  • 2010年 21位
  • 2020年 29位

 
日本の「就業者1人当たりの労働生産性」の国際順位は、1990年までは上昇傾向にありました。しかし、バブル崩壊以降の1994年に19位まで下がってから下位に甘んじ、1998年以降は、20位と21位を行ったり来たりしていました。
 
2018年、25位まで下がってからは歯止めが効かず、2019年 26位、2020年 28位、2021年には29位まで下がってしまったのです。
 
本レポートでは、このように分析しています。
 
「2021年に先進国の多くでコロナ禍と並行して経済の正常化が進んだのに対し、日本では各種の社会経済活動の制限・自粛が続き、実質経済成長率が伸び悩んだ(OECD加盟38カ国で最下位)ことが労働生産性にも影響し、多くの国との差が拡大することにつながった」
   

コロナ前後の「就業者1人当たりの労働生産性」

 
ただし、2021年には、OECD加盟38カ国中、23カ国が、コロナ前の水準(2019年水準)を上回っています。
 
対して、日本における「就業者1人当たりの労働生産性」2021年の水準は、2019年対比で、98.3%で、38カ国中33位です。
 

  • アメリカ 106.4%
  • 韓国 102.8%
  • ドイツ 101.0%

 
日本よりも下位にいる主だった国は以下です。
 

  • イギリス 96.8%
  • フランス 96.4%

 
筆者は、日本が行ったロックダウン等の措置は適切であったと考えていた立場なのですが。
この結果を診ると、考えさせられますね。
   

そもそも低い、日本人の労働生産性

 
2021年における、日本の「就業者1人当たりの労働生産性」は、81,510米ドル(以下、ドルと略記します)でした。
 
主要国と比較しましょう。
 

  • (1位)アイルランド 226,568ドル
  • (4位)アメリカ 152,805ドル
  • (8位)フランス 124,350ドル
  • (15位)ドイツ 117,047ドル
  • (24位)韓国 89,634ドル

 
日本の「就業者1人当たりの労働生産性」は、1位であるアイルランドの36%、4位 アメリカの53%しかありません。
 
さらに、就業1時間あたりの労働生産性も見ましょう。
 

  • (1位)アイルランド 139.2ドル
  • (7位)アメリカ 85ドル
  • (9位)ドイツ 80.6ドル
  • (16位)イギリス 67.7ドル
  • (27位)日本 49.9ドル
  • (30位)韓国 46.9ドル

 
日本円に換算すると、日本人労働者の平均労働生産性が約7019円/時間なのに、アイルランドでは約19,580円ということになります(2023年5月28日 1ドル=140.66円で換算)。
 
一応申し上げておくと、日本における労働生産性の低さは、これまた今に始まったことではありません。ずっと下位に甘んじていたのが、コロナ禍でさらに下がったのです。
   

「日本人は勤勉」、だが…

 
どうですか、危機感を感じませんか?
 
この危機感こそが、働き方改革の出発点です。
ただし、労働生産性を上げる有効な施策を示さず、ただ労働時間だけに、ことさらフォーカスしてしまったところに、働き方改革の根本的な課題があるのですけど。
 
これは、働き方改革を起点とする「物流の2024年問題」にも共通する課題です。
 
以前、あるコンサルタントと話していて、彼がこんなことを言っていました。
 
「日本人って、優秀だし器用だし、そして素直なんですよね。だから、何か業務上の課題があったとすると、『自分でなんとかしよう』とまず考えてしまいます。
 
だから業務のノウハウが属人化するし、長時間労働につながるわけです。
 
対して、海外では『業務プロセスに問題がある』、端的に言えば、『課題は、”私”ではなく、仕事そのものにある』と考えます。
だから、仕組みの改善といった、改善行動につながりやすいという違いがあります」
 
異論反論はあるでしょうが、筆者は日本人は優秀だと考えています。
しかしその優秀さゆえに、業務改善等の根本的解決を行わず、力技でなんとかしようとするショートカットをしがちです。
高度成長期には、このやり方でもなんとかなったのでしょう。でも、もはや長時間労働と、労働者個人のスキルでどうにかしようというのは限界です。
 
だから、より賢く働くことが、今求められているわけです。
「物流の2024年問題」は、その最たる例です。
  
「長時間労働を尊い」と思うような感覚は、未だに日本社会に染み付いています。筆者も、この感覚から脱却しきれていません。
これを払拭することができなければ、労働生産性を、諸外国レベルにまで引き上げることは難しいです。しかし、少子高齢化により労働人口の減少が続く日本では、労働生産性を引き上げることは喫緊の課題です。
 
労働生産性を上げることができなければ、今の日本社会を維持することすら難しくなるでしょう。行政が行う公共サービスはもちろん、道路、水道、電気、ガスなどのインフラも維持できなくなります。
 
この危機感は、より多くの日本人が持つ必要があると、筆者は考えています。
 
 
 


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