秋元通信

働き方改革の現在地、働き方改革は、何を私たちにもたらしたのか?

  • 2023.12.15

2019年に働き方改革関連法が施行されてから、4年が経過しました。
物流従事者にとっての働き方改革関連法は、「物流の2024年問題」を引き起こしたものとして印象が強いかもしれません。
 
働き方改革関連法に、以下のような条項があることをご存知でしょうか?
ちょっと長いですが、該当する条項を転記します。
 

第12条(検討)
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、新労基法第三十六条の規定について、その施行の状況、労働時間の動向その他の事情を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
 
2 (省略)
 
3 政府は、前二項に定める事項のほか、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律(以下この項において「改正後の各法律」という。)の規定について、労働者と使用者の協議の促進等を通じて、仕事と生活の調和、労働条件の改善、雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保その他の労働者の職業生活の充実を図る観点から、改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 
そう、働き方改革関連法では、施行から5年経過した時、すなわち来年2024年に「見直す可能性がありますよ」と規定しているのです。
 
今あらためて働き方改革関連法について、再確認しておきましょう。
 
 
 

働き方改革の目的と内容を再確認

 

「我が国は、『少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少』『育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化』などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
 
『働き方改革』は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています」
 
出典
「働き方改革」の実現について (厚生労働省)

 
働き方改革には3つの柱があります。
 

 
それぞれの内容について詳しく知りたい方は、厚労省の設けた働き方改革特設サイトの解説ページへのリンクを貼っておきますので、そちらをご確認ください。
 
ただ、多くの皆さまにとって印象が強いのは、「時間外労働の上限制限」ではないでしょうか。
 
 
 

時代が産んだ社会課題、「ゆるブラック」とは

 
こんな記事がありました。
 

 
記事中では、このように指摘しています。
ここで言う、「職場環境が良くても成長機会の乏しい組織」は「ゆるブラック」と揶揄されます。
 

  • いわゆるブラック企業のようにハードワークや、パワハラなどが横行しているわけではない。
  •  

  • しかし、まるでぬるま湯のような居心地の良い職場環境にいると、自分の成長機会が奪われているかのような不安を感じる。

 
こういった企業や職場環境を称して、ゆるブラックと呼びます。
ゆるブラックについては、以前「秋元通信」でも取り上げたことがありました。
 

 
ゆるブラックの原因は、働き方改革だけに所以するものではありません。
 

  • ハードワークを誘発していた、行き過ぎた実力主義・成果主義に対する反省。
  •  

  • ハードワークを強いられる環境で発生しがちであったパワハラやセクハラなどに対する問題意識の向上。

 
同時に、現在多くの企業において経営を担う中高年層よりも、自分たちの将来やキャリアパスをより真剣に考えている若者たちが増えていることも、ゆるブラックというキーワードを生み出した一因でしょう。
 
先の日経新聞記事では、34歳以下において、大手企業から新興企業へ転職した人が5年前の18倍に増えたことが指摘されています。
 
「年齢に関係なく大きな仕事を任され、大企業よりも速い速度で成長できるとして若手が引き寄せられている」、記事ではこのように分析しています。
 
 
 

働き方改革に欠けているもの

 
話を働き方改革に戻します。
 
働き方改革が、イマイチ世間から歓迎されていない理由のひとつは、働く人々の成長やキャリアアップ、あるいは成長やキャリアアップの結果として得られるはずの収入アップという観点が欠けているためではないでしょうか。
 
働き方改革は、長時間労働や不安定雇用など、従来の働き方の弊害を是正する取り組みが中心となっています。これは決して間違った方向性ではありません。しかし、これは言わば守りの姿勢です。
 
成長するためには、効率的に働くことだけでなく、ある程度の時間をかける必要があるのも事実でしょう。「効率的な成長」という視点や方法論を否定するつもりはありません。しかし、対象が仕事だけでなく、スポーツや趣味などであっても、「時間を費やすことでスキルアップができる」というのは、事実です。
 
働き方改革は、「成長するためにもっと働きたい!」という人々に対して答えや方法論を用意していないのです。
 
 
 

ただし、「もっと働きたい」は変わることがある

 
先日、スタートアップ企業で働く30代半ばの女性から相談を受けました。
 
「実は、結婚したい人がいるんです」
 
素晴らしいじゃないですか!──祝福する筆者に対し、彼女は浮かない顔をしています。
 
「今までは、残業もいとわず、夜遅くまで働いてきましたが。結婚したら、今のような働き方を続けることはできません。子どもだって産みたいですし…」
 
数年前、彼女は誰もが名を知る有名企業から、IT系スタートアップ企業へと転職しました。ゆるブラックな環境を嫌い、自身の成長とキャリアアップを求めた結果です。
 
この数年間で、彼女はそれなりの実績を残しました。ただしその働き方は、ブラック企業と同様。夜遅くまで働き、ときには土日祝日も仕事をすることがありました。
 
「でも結婚したら、もうこういう働き方からは脱却したいんです」
 
それはそうでしょうね。当然だと思います。
 
 
彼女のような経歴を持ち、そしてワークライフバランスの変更を求める人に対し、世間は概して好意的ではありません。
 
「だってさ、もともと自ら望んで長時間労働していたわけでしょ?今さら、『やっぱり世間並みの働き方をさせてください』って、それはワガママじゃないの?」
 
「だったら最初から有名企業を辞めなければよかったのにね。計画性がないというか、人生に対する見通しが甘すぎるよ」
 
こういった意見は…、一見正論に聞こえますが、了見が狭いのではないでしょうか?
 
そもそも、人は自分の人生を計画どおりに進めることなどできるわけがありません。
そして、人生には必ず変化が発生します。その変化に応じ、仕事に対して求めることが変わるのは、いけないことなのでしょうか。
 
 
働き方改革とは、結婚、育児、あるいは介護など、人生の転機とともに求められる働き方を、企業側が柔軟かつ多様な選択肢を従業員に対し提供できるように、社会を変えていこうという政策です。
 
ただし、今の働き方改革は、「私はもっと働きたい!」という人には選択肢を与えていません。
だから、「成長したい」「スキルアップをしたい」という意欲あふれる人たちは、先の日経新聞記事のように、大手企業から新興企業へと転職します。ただし、新興企業(≒スタートアップ企業)は、経営基盤も就労環境も、大手企業に比べれば脆弱です。
だから、育休の取得や、あるいは子育てとの両立のために時短勤務を希望しても、しかるべき就労制度が準備されていないケースも間々あります。
 
今、「ゆるブラックな環境から脱出したい!」と思って転職したとしても、行く先は袋小路かもしれないのです。
 
言うまでもなく、これは意欲あふれた若者たちの人生に対する障害になります。
そして、この障害を生み出した一因は、働き方改革にもあるのです。
 
 
 

次の働き方改革は、「もっと働きたい!」という人にも、現実的な選択肢を提供して欲しい

 
「今の働き方改革は、『私はもっと働きたい!』という人には選択肢を与えていません」と書きましたが、実はこれは正確ではありません。
 
時間外労働時間の上限から逃れられる、高度プロフェッショナル制度があるからです。
 
ただし。
2023年3月時点で、高度プロフェッショナル制度を利用しているのは、日本国内でたった820人しかいないそうです。
 
 
政府は、施行から5年が経過しようとする働き方改革関連法の見直しを進めるべく、有識者会議を立ち上げるそうです。
 

 
「出る杭は打たれる」的な、守りだけの政策にはもううんざりです。
ぜひ、改正後の働き方改革関連法では、「もっと働きたい!」という人にも、現実的な選択肢を与えられるよう、検討してほしいものです。
 
 
 


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