秋元通信

「人の不幸は蜜の味」、他人の幸せを妬む「シャーデンフロイデ」と上手に付き合う方法

  • 2023.7.24


 
 
 
「人の不幸は蜜の味」──皆さんも経験がありませんか?
 
例えば、芸能人が不倫をした結果、バッシングされ、社会的制裁を受けている様子を見たとき。
例えば、自分よりも成功している、あるいは豊かな人生を送っていると思っていた友人知人が、何かの不幸に遭遇したとき。
 
シャーデンフロイデとは、自分が手を下すことなく、他の人が不幸に見舞われることによって喚起される喜びの感情のことです。
 
人の不幸を喜ぶなんて、不謹慎で不道徳なことに感じます。
 
今回は、このシャーデンフロイデについて、解説していきましょう。
 
 
 

シャーデンフロイデの特徴

 

  • 「その不幸は『相応だよね』と思う」と生じやすい
     
    例えば、自然災害に遭遇し、自宅や財産などを失った人に対し、シャーデンフロイデは生じにくいとされています。自然災害のような不可抗力による不幸に対しては、シャーデンフロイデは生じにくいとされています。
     
    シャーデンフロイデが生じやすいのは、不幸の原因が、当人の落ち度に起因するケースです。
    芸能人が不倫をして、バッシングされる様子を快く感じる心理などは、その典型ですね。
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  • 「その不幸が深刻でないケース」ほど生じやすい
     
    いくら「人の不幸は蜜の味」と言っても、極論、不幸に遭遇した当人が死亡してしまうケースでは、シャーデンフロイデは生じにくいとされています。
     
    例えば、芸能人や有名人が問題行動を起こし、炎上した際にはシャーデンフロイデが生じやすくなりますが、その当人が自殺まで追いやられた場合、一転して当人を養護するような世論が高まるのは、このケースに当たるのでしょう。
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  • 「関心が高い分野」ほど生じやすい
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  • 「羨望、あるいは逆に嫌悪の感情を抱いている相手」ほど生じやすい
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  • 「自己評価の高い人」は、シャーデンフロイデが生じにくい
     
    自己評価が低い人ほど、シャーデンフロイデが喚起されやすいとされています。
    また優れた他人に不幸が生じると、シャーデンフロイデが喚起され、結果として自己評価が高まることも知られています。
     
    なお、研究文献などを見ると、自己評価ではなく、自尊感情と比較研究されていることが多いのですが。自尊感情を厳密に説明しようとすると、本論からずれてしまうので、ここでは自己評価と表現します。

 
 
 

なぜシャーデンフロイデは生じるのか

 
他人の不幸を喜ぶわけですから、シャーデンフロイデは好ましい感情ではないように感じます。
また、シャーデンフロイデはさまざまな問題行動のきっかけとなることも知られています。
シャーデンフロイデによって余計な正義感が発動し、不幸に遭遇した他人に対するバッシングを行うことは、当初単なる傍観者だったはずの自分を、加害者のひとりにおとしめてしまう危惧があります。
 
飲食店で悪さをして炎上した相手をことさらに叩いたり、あるいはその個人情報、家族の情報などを世間にさらしたり、あるいはそのような行動を支持するのは、シャーデンフロイデによって引き起こされた問題行動のひとつと言えます。
 
なぜ、人は、シャーデンフロイデという感情を持ち合わせてしまったのでしょう?
 
 
考えられる理由のひとつは、自身の所属する社会集団を守るためです。
人には、自身が所属する社会集団を健全に維持するために、社会集団を危機にさらす裏切り者を検出する心の機能が備わっています。この心理は、「裏切り者検出モジュール」と呼ばれています。
 
一方で、シャーデンフロイデの発動には、「あの人は当然の報いを受けただけだ」という正義感の尺度が関与することがあります。つまり、裏切り者検出モジュールが、「この不幸に遭遇した人は、自分の大切な社会に悪影響を与えた」と判断し、シャーデンフロイデが発動、自身の心に喜びをもたらすわけです。
 
もうひとつは、自分自身を守るためです。
シャーデンフロイデが発動すると、自己肯定感が上がることが知られています。これは、特に自分自身よりも社会的に高い地位にある相手に対して発動しやすいのですが、「優れている他者が不幸に遭遇すること」を見聞きすることで、「劣っている自分」が感じている劣等感などのストレスから、(一時的であるケースも多いのですが)自身を解放する効果があることが知られています。
 
 
 

シャーデンフロイデを上手に付き合うことの大切さ

 
シャーデンフロイデ、すなわち「他人の不幸を蜜と感じる自分自身の心」に対し、自己嫌悪を感じることもあるでしょう。
しかし、言ってみれば、シャーデンフロイデとは自分自身を守るために備わった、動物的な防御反応のひとつですから。
シャーデンフロイデを、あまり気にするのは良くありません。かと言って、シャーデンフロイデを全肯定し、その感情に身を任せるのは、NGですけど。
 
他人を羨み、あるいは他人の不幸を喜びと感じるシャーデンフロイデは、探究心や向上心を育む土壌ともなります。また、シャーデンフロイデと適切に向き合うことで、自分自身の心の痛みに対し、適切な対処方法を身につけることもできます。
 
これは極端な例かもしれませんが…
華々しい生活を送っている(と思える)芸能人が不倫をしてバッシングを受ける様子を見れば、「不倫なんてしちゃいけないよな…」と再認識する人もいるでしょう。
「派手な生活を送るよりも、地道な生活を守る方が大切だよな」と、自身の生き方を再評価するきっかけになる人もいるかもしれません。
 
シャーデンフロイデという心の動きをきちんと知ることで、心の暴走を抑え、より良い毎日を送るヒントを得ること。
 
もっともこれは、シャーデンフロイデに限らず、自分でも持て余し気味になることも多い、自分の心を制御する方法を学ぶ、心理学を学ぶメリットでもあります。
 
 
 

参考および出典

 

  • 自尊感情とシャーデンフロイデ : 潜在連合テストを用いた関連性の検討 (特集 感情を測る)
    藤井 勉, 澤田 匡人
    感情心理学研究 / 日本感情心理学会編集委員会 編
    2014.5
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  • シャーデンフロイデの共有が自尊感情に及ぼす影響
    渡邊 ひとみ
    応用心理学研究
    2014.7
  •  

  • シャーデンフロイデの機能 : 他人の不幸を喜ぶことの進化的基盤
    加藤 伸弥, 藤森 和美
    武蔵野大学心理臨床センター紀要
    2020
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  • 妬みとシャーデンフロイデ (特集 感情の科学 : リサーチマップとアプローチガイド ; 感情ってなに? : リサーチマップ)
    髙橋 英彦
    臨床心理学
    2020.5

 
 
 


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