秋元通信

「なぜ、ブラックホールの写真に世間が騒ぐのか?」 宇宙を探求する理由

  • 2019.4.15

2019年4月10日、日米欧などからなる国際研究チーム「イベントホライズンテレスコープ」が、人類初となるブラックホールの直接撮影に成功したと発表しました。
人類史に残るとも言われているこの偉業ですが、一方で「いや、何がすごいんだか…??」と思っている方もいることでしょう。
もうひとつ。
「てか、大金かけてブラックホールを調べる意味がどこにあるの?」と言う方もいらっしゃることと思います。
 
今回は、ブラックホールについて、そのごくさわりの部分を紹介しつつ、人間が持つ宇宙に対する探究心について考えましょう。
 
 

ブラックホールとは何か?

 
簡単に言えば、ブラックホールとは、強力すぎる重力を備えているがゆえ、光すら出てくることができない天体のことを指します。
 
太陽よりも30倍以上重たい恒星が大爆発を起こし、自らの重力で潰れてしまうとブラックホールになるとされています。
 
ブラックホールの存在は、アルベルト・アインシュタインの『一般相対性理論』によって導かれました。1915年、『一般相対性理論』に登場する方程式を解いたある学者が、ブラックホールの存在を示唆したのです。
ただし、当のアインシュタインは、そのブラックホールの存在に懐疑的であったと言われます。アインシュタインは、ブラックホールとは数式上の空想であって、実際にはありえないと考えていたそうです。
 
ブラックホールという名前が生まれたのは、1967年のこと。
ブラックホールの存在についてはずっと議論が行われてきましたが、肯定派の学者が、ブラックホールと命名しました。
 
その後、ブラックホールそのものの存在が確実視されるようになります。
天文観測手法と技術の進歩によって、ブラックホールの兆候らしきものはいくつか発見されましたが、実際にブラックホールの位置を特定できたのは、2011年のこと。
発見したのは、日本の国立天文台とJAXAです。
電波観測によって、地球から約5440万光年遠くにあるおとめ座A(M87)銀河に、超巨大なブラックホールがあることを特定しました。
そして、今回写真撮影に成功したのも、同じおとめ座A(M87)銀河にあるブラックホールです。
 
 

冷戦時代の宇宙探索

 
冷戦時代、ソ連とアメリカは、競い合うように宇宙探索を進め続けました。
その理由について、ジョン・ケネディ大統領はこう語っています。
 

「自由と暴政をめぐって世界各地で展開されているソビエトとのライバル競争に我々が勝利を収めるつもりならば、1957年のスプートニク同様に、(中略)我々の宇宙探査という冒険が(自由主義か共産主義か)どちらの道を選ぶべきかの決断を下そうとしている世界の人々に与える衝撃は非常に大きいことを認識すべきだ」

 
 
当時の宇宙探索には、3つの大きな理由がありました。
超大国としての威信誇示、将来の経済利益確保、軍事目的です。
 
ただ、現在はもはやそういう時代ではありません。
経済合理性が重要視される現代において、巨費を必要とする宇宙探索は、本当に必要なのでしょうか?
 
 

人はなぜ、宇宙を探索するのか?

 
NASAの研究員である小野雅裕氏は、「なぜ我々は宇宙を旅するべきか?」というエッセイで興味深いことをおっしゃっています。
内容をかいつまんでご案内しましょう。
 
小野氏は、さまざまな国を旅しているそうです。
旅をし、さまざまな風景と、多くの人、多くの文化に触れる経験を重ね、彼はこう語ります。
 

「不思議なのは、より多くを見れば見るほど、自分は世界についてより少しのことしか知らないように思えてくることです」

 
 
宇宙探索についても同様だと言います。
 
例えば、30億年前には存在していた、火星の豊かな海はどこに行ってしまったのか?
例えば、エウロパやエンケラドス(それぞれ木星と土星の衛星)にある海には、生命は存在するのか?
そして、なぜ、地球人は宇宙人に会えないのか?
 
宇宙探索が進み、例えば火星に海があった事実、エウロパやエンケラドスの地中に海が存在する事実が分かると、新たな謎、疑問が生まれることを、小野氏は指摘しています。
 

「私が知っているのは、私が無知であることだ」

 
 
デルフィの神託によって、もっとも知恵のあるものとされたソクラテスは、このような言葉を残しています。
宇宙に対する時、私どもは、私どもの知識、そして私ども自身が小さいことに、否応なしに直面するようです。
 
 

「知りたい」という欲求

 
例えば、犬や猫と暮らしていると、彼ら彼女らが好奇心を持っていることが分かります。
「この箱の中には何が入っているんだろう?」「見たことのないあればなんだろう?」、しかし、犬や猫の「知りたい」という欲求は、極めて限定されたものでしかありません。
 
人間が、文明を築き、これだけの発展を遂げることができたのは、「知りたい」という欲求を抑えられなかったからではないでしょうか?
 
確かに、宇宙探索は付随するさまざまなテクノロジーをもたらしてきました。
しかし、それはおまけであって、目的ではありません。そこに、宇宙探索の経済合理性を求めるのは無理があると感じます。
 
「知りたい」という欲求は、人を成長させる大きな動機であり、そして「知識を得る」というのは、人が人だからこそ感じることができる、とても大きなご褒美であると思うのです。
人は人であるがゆえに、宇宙探索に魅入られ続けるのではないでしょうか。
もっと言えば、私どもがさらに高みを目指すためには、知識に対する探究心を忘れてはいけないのではないでしょうか。
 
 
今回の偉業が、今後どんな活動につながるのか、とても楽しみです。
 
 
 
 

出典・参考

 
『ブラックホール』 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB
 
『見えないブラックホールを探す (特集 見る・見せる)』 (岡 朋治)
掲載誌 Re : Building maintenance & management 39(3)=197:2018.1 p.50-53
 
『Inside Out なぜ我々は宇宙を旅するべきか?』 (小野 雅裕)
掲載誌 応用物理 86(7)=978:2017.7 p.609-611
 
『宇宙探索を続けるべき理由』 (ニール・ドグラース タイソン)
掲載誌 Foreign affairs report / フォーリン・アフェアーズ・ジャパン 編 2012(4):2012.4 p.60-67
 
 
注記:
本記事は、上記参考文献、出典をもとに書いています。
世の中で公開されているWebサイト、文献などによっては、本記事内容と異なる事実を記しているものもありますが、本記事は2019年4月15日時点で上記リソースに書かれている情報を正しいものとして、作成しております。


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