2023年7月、岸田内閣が推める「物流革新」政策のひとつとして発足したトラックGメンが、2023年11月～12月を集中監視月間として活動しました。
その結果は….、なんとトラックGメンが発足する前の59倍もの「働きかけ」「要請」「勧告」を行いました。
「国土交通省では2023年7月21日に『トラックＧメン』を創設しました。
当該『トラックＧメン』による調査結果を貨物自動車運送事業法に基づく荷主企業・元請事業者への『働きかけ』『要請』等に活用し、実効性を確保します。
『トラックＧメン』の創設に当たっては、国土交通省の既定定員82人の既存リソースを最大限活用するとともに、新たに80人を緊急に増員し、合計162人の体制により業務を遂行します」
これが国土交通省Webサイトに掲載されている、トラックGメンの概要です。
「トラックGメンって、運送会社を取り締まる組織だろう？」と勘違いしている人もいるようですが、逆です。取り締まるのは荷主や元請けであり、運送ビジネスにおいては弱者に当たる運送会社側の「困った」「参った」を解消し、運送ビジネスの健全化を図るのが、トラックGメンの役割です。
聞き慣れない「働きかけ」「要請」「勧告・公表」についても解説しましょう。
- 働きかけ
違反原因行為を荷主がしている疑いがあると認められる場合 - 要請
荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合 - 勧告・公表
要請してもなお改善されない場合
ちなみにトラックGメン発足前となる2019年7月から2023年7月20日末までの4年間足らずで実施されたのは…、なんと「働きかけ」:85件、「要請」:4件だけです。
- トラックGメン発足後の2023年7月21日以降から10月末までのわずか3ヶ月あまりで、「働きかけ」:166件、「要請」:6件を実施。
- 集中監視月間（2023年11月、12月）では、「働きかけ」:47件、「要請」:164件、「勧告」：2件を実施。
これまでがあまりにも、「何もしてなかったんじゃないの?」と言われればそれまでですが。
今回の集中監視月間では、「働きかけ」よりもより厳しい「要請」の割合が増え、また「勧告」まで行われたのは、評価に値するのではないでしょうか。
ちなみに「勧告」され、社名公表までされたのは、王子マテリアとヤマト運輸です。
まず、以下のような窓口が設けられています。
トラックGメンは、各地域における運輸局の中に設けられています。
その活動方針は、地域によって違いますが、関東では架電によるローラー作戦を運送会社に対して行い、ヒアリングを行っているそうです。
筆者は2023年10月にトラックGメンを取材しましたが、「実際に有用な情報を明かしてくれるのは、1割位でしょうか…」とトラックGメンの担当者はおっしゃっていました。
「通報した結果の、荷主からの報復を恐れる気持ちは分かります」とトラックGメン担当者は、運送会社側の心情への理解を示していらっしゃいました。
「いくら当方が『守秘義務は絶対に守ります』と言ったところで、例えばその荷主の荷物を運ぶ運送会社が1社だけだったら、自ずとバレますからね」とも。
ただし、もし荷主からの不当な要求に困っているのであれば、思い切って一歩を踏み出し、トラックGメンに通報するのも大切なことでしょう。なにしろ、実際に長時間労働などのコンプライアンス違反を行い、そして処罰されるのは運送会社ですから。
「おそらく、これほどまでに政府が運送会社に対し、手を差し伸べたことはなかったでしょう。私どもは、本気で『運送会社の、そして運送業界の取引環境の適正化のお役に立ち、持続可能な物流の実現に向け取り組んでいきたい』と考えています」
これは筆者が取材したトラックGメン担当者の言葉です。
被害者であるはずの我が身が、同時にコンプライアンス違反を行う処罰対象にすり替わってしまうのが、この問題の難しく、そして怖いところです。
繰り返しになりますが、もし荷主からの不当な要求に困っているのであれば、思い切って一歩を踏み出すことも必要ではないでしょうか。
参考
トラックGメンによる「集中監視月間」（令和５年11月・12月）の取組結果ー 貨物自動車運送事業法に基づく初の「勧告」を実施 ー
