秋元通信

新型コロナウイルスは、高卒採用市場にどのような影響を及ぼしたのか

  • 2021.2.26

新型コロナウイルスは、社会のありとあらゆる部分に影響を及ぼしています。
高卒採用も、そのひとつです。
 
今回は、ハローワークの発表資料を紐解きながら、今春3月卒業予定の高校生就職状況をまとめてお届けしましょう。
 
 
 

就職活動の開始が1ヶ月後ろ倒しになった2020年

 
例年、高校生の就職活動は、9月上旬に応募開始、9月中旬から採用選考開始となっていました。しかし、今年(2021年3月卒業予定者)については、新型コロナウイルスの影響を鑑み、スケジュールが1ヶ月後ろ倒しになり、10月5日から応募開始、10月16日から面接等、先行開始となりました。
 
これは、緊急事態宣言の発令等によって、高校側、そして生徒当人たちの就職準備が遅れたことを考慮し、行われた措置ではあるのですが。
結果として、この後ろ倒し措置は、一部の生徒たちにとっては、大きな逆風となったようです。
 
 
 

減少した就職希望者

 

高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況の推移(9月末現在)

高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況の推移(9月末現在)


 
これ以降の数値は、厚生労働省が発表した資料をもとにご紹介していきます。
ただし、この数値は、昨年10月末時点での集計数値であることに、ご留意ください。
 
昨年10月末時点での高校生における就職内定率は、64.2%でした。昨年同期比で、0.2%の増加ですから、一見、高校生にとっては微風ながらも追い風であったようにも診えますが。
 

  • 求人数:約37万人で、前年同期比20.7%の減少
  • 求職者数(就職希望者数):約15万2千人で、前年同期比10.1%の減少

 
求人数も減ったのですが、就職希望者も減っています。
そのため、結果として内定率はほぼ変らず、求人倍率も2.43倍(前年同月比:0.32%減少)となり、一見、帳尻が合ったように診えています。
 
 
 

都道府県別の内定率

 
※元データは、こちらのGoogleスプレッドシートを参照ください。
 
都道府県別に求人倍率を診ると、ダントツで高いのは、東京都:6.86倍です。
以下、大阪府(4.07倍)、広島県(3.02倍)、香川県(2.95倍)、京都府(2.79倍)と続きます。
東京都の場合、昨年同期比で、求人倍率は1.48%減っています。減ったと言っても、6倍を超えているのですから。内定率も好調かと思いきや、そうではありません。
 
全国平均の内定率は、64.2%(前年同期比0.2%増)と申し上げましたが、都道府県別に診ると、だいぶ事情が変わってきます。
 
内定率が、もっとも低いのは、沖縄県の26.7%。前年同期比1.3%減です。
以下、北海道(45.9%、5.5%増)、神奈川県(47.1%、2.8%減)、東京都(47.6%、6.1%減)と続きます。
 
内定率の低下率で診ると、もっとも低下しているのは、奈良県の7.0%(内定率57.5%)です。次いで、東京都(6.1%)、三重県(4.6%)、愛知県(4.4%)と続きます。
 
繰り返しになりますが、この公表数字は、10月末時点のもの。
ということは、選考一社目に対する内定率となります。(※高校生の就職協定上、最初の応募は、1社のみ)
 
 
 

内定率減少の背景にあるもの

 
求人倍率がさほど変わっていない、内定率が減少している都道府県があるのは、どういうことなのでしょう。
 

  1. とりあえず求人は出したものの、企業側の求人意欲が下がっている。
  2. 就職希望者と求人のミスマッチが発生している。
  3. 採用スケジュールの変更、新型コロナウイルスへの対応業務増加等により、企業側で採用活動が十分に行えていない。
  4. 新型コロナウイルス禍での、積極的な就職活動を控える高校生があらわれている。

 
これらは、内定率の減少した都道府県に限った話ではなく、今年の全般的な傾向として見受けられるのではないかと思います。
筆者がいろいろな場で見聞きした、肌感覚によるところではありますが。
 
 
1.については、十分ありえる話でしょう。高校生の求人の場合、極論すれば、求人票をハローワークに提出するだけです。大学卒業者に対する採用活動のように、就職情報各社に広告費を支払うわけではないので、とりあえず、求人票だけでも出しておこう、と考えた企業も存在したことと思います。
 
2.については、数値でも明らかになっています。
例えば、高校生に人気の就職先である、卸売業・小売業における求人数は、昨年同期比21.9%の減少。宿泊業・飲食サービス業においては、45.9%の減少。「行きたい就職先がない」ことが、就職を諦め、進学へと切り替えた要因になった可能性があります。
 
3.および4.については、筆者の耳にもさまざまな実情が聞こえてきます。
企業に対し、企業見学会の申し出を行ったものの、感染対策を理由に断られた生徒。
コロナ対策による業務増加により、面接実施日を遅らされた生徒。
 
 
ただし、就職を希望する生徒、そしてご両親のなかにも、感染を恐れ、就職活動に後ろ向きになった事例が聞こえてきます。
 
本当は東京に就職したかったのに、感染を恐れ、地元就職に切り替えた生徒。
「コロナが流行している今、わざわざ就職活動なんぞ、しなくてもいいだろう!」と言って、就職活動をさせない親御さんもいらっしゃるとか。
 
さすがに行き過ぎではないかと思うのですが。
 
 
 

未だ、内定がもらえない生徒も…

 
私が、各高校に連絡を取ると、未だに内定が決まらない生徒がいると聞きます。
それも、ひとりふたりではありません。
 
原因のひとつは、就職解禁を1ヶ月後ろ倒しした影響です。
例年どおりの、9月解禁スケジュールであれば、1社目がダメだったとしても、10月に2社目、11月に3社目と、応募を重ねていくことができます。
 
ところが、今年は就職解禁が1ヶ月遅れたため、3社目応募を年内に行うのは、現実的に困難なケースもあります。年末の繁忙期と重なるため企業側が選考を嫌がったり、期末テスト等が重なったためです。
年が明けると、さらに状況は悪くなります。企業側の感覚だと、「えっ!?、年が明けて、まだ決まってないって…」と、生徒の質を疑うようになってしまうからです。
 
企業側のマインドとして、就職解禁が遅れた影響を考慮できないがゆえに発生する、悲しいミスジャッジではありますが。
 
 
中には、ご両親の過剰な「コロナが怖い」といった意識が邪魔をし、就職活動の開始が遅れたため、今になって慌てている生徒さんもいると聞きます。
 
就職活動というのは、たしかに公平ではありません。
卒業年によって、有利、不利は出ますし、複数の企業から、内定をもらえなかった生徒が、必ずしも優秀でないとも言えないからです。ただ、新型コロナウイルスは、近代初めて経験する世界的アクシデントです。
就職に限ったことではありませんが。今までと同じ認識や感覚が通じるわけではありません。
 
 
もし、今これから「貴社に応募したいのですが?」といった生徒さんが現れたときには、先入観を持つことなく、ぜひ選考を検討して欲しいと思います。企業見学も、行ってあげてください。
 
こういう状況ですので、必ずしも、今就職が決まっていないのは、ご本人の資質不足とは限りませんよ!
 
 
 
 

参考および出典

 

    


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