秋元通信

日本型企業文化が終わる? 「ジョブ型人材」とは【後編】

  • 2021.2.26


 
 
 
前号でお届けした、『日本型企業文化が終わる? 「ジョブ型人材」とは』前編では、ジョブ型人材の定義や特徴について、ご紹介してきました。
後編では、ジョブ型人材(雇用)を導入するにあたり、被雇用者(社員)側、会社側、もしくは組織運営上、考えられるメリットやデメリットなどについて、考えていきましょう。
 
 
 

そもそも、ジョブ型人材は、日本企業の文化にマッチするのか?

 
日本人の心情に、「和を以て貴しとなす」(わをもってとうとしとなす)という言葉があります。
仲間同士でいさかいを起こすことなく、仲良く調和してやってきましょうよ、といった意味合いです。
聖徳太子が制定した十七条憲法の第一条に出てくる言葉です。
 
 
こういう心情も背景にあるのでしょう。
日本企業には、良くも悪くも助け合いの文化があります。
 
倉庫会社を例に取りましょう。
 
何かの事情で、急に入出庫が増えたとします。倉庫作業員だけでは仕事がこなせなくなったため、他部署の社員も総出で入出庫作業を手伝うことになりました。
 
営業たちは、フォークリフトを駆り、入出庫を手伝います。
経理部の人たちは、WMSやEDIへの入力を手伝い、その他の人たちは、荷役やら検品、仕分けなどを、本来の倉庫作業員たちに教わりながら手伝います。
 
物流業に限らず、どんな業界、仕事でも波動があります。「忙しいときには、お互いに助け合おうよ」、まさに「和を以て貴しとなす」の実践です。
 
程度の差こそあれ、こういった職務や部門を超えた助け合いの文化は、多くの企業で行われています。
 
 
仕事の波動は、短期的なスパンでのみ発生するわけではありません。
特に大企業の場合、ある事業が衰退し、代わって別の事業が活況を呈することは、たびたび起こりえます。
このような場合、事業部や職務の壁を超えた人事異動が実施されます。
これも、ある種の助け合いです。
 
 
ジョブ型人材は、このような、助け合いの文化に頼った、人材配置の適正化には、そぐわないです。
 
「私の仕事は、ここまでです」、もしくは「それは私の仕事ではありません」といった、ジョブ型人材的思考は、最近でこそ、許容されるようになってきたかもしれません。しかし、基本的には「和を以て貴しとなす」を良しとしてきた、日本の企業文化にとっては異質な発想であり、発言です。
 
 
 

そもそも、仕事は定義できるのか?

 
前編では、ジョブ型人材は、ジョブディスクリプション(職務記述書)によって、仕事内容をしっかりと定義しておくことが必要であると述べました。
 
しかし、そもそも、仕事、職務を厳密に定義することなどできるのでしょうか?
これは、とても悩ましい課題です。
 
結論から言えば、システムエンジニア、プログラマー、データサイエンティスト、マーケッター、もしくは法務や特許部門などの技能職においては、仕事/職務を定義することは比較的可能でしょう。
しかし、総務や営業、人事などは難しいでしょうね。
 
また、技能職であっても、平社員とライン職では、事情が変わってきます。例えば、法務部に所属していたとしても、部長になれば、人事やコスト管理、教育など、総合的な能力が求められるようになってきます。
 
このように考えると、仮にジョブ型人材(雇用)を企業にて採用(制度導入)したとしても、すべての社員をジョブ型人材として雇用することは難しそうです。
 
 
 

ジョブ型人材と、メンバーシップ型人材は共存できるのか?

 
では、ジョブ型人材とメンバーシップ型人材(総合職など、職務内容を限定せずに雇用する形)は、同じ企業、同じ職場内で共存できるのでしょうか?
 
これは…、いろいろと軋轢も生じることがあるのではないでしょうか。
 
ジョブ型人材の方からすれば、「これは、私の仕事じゃないのに…」というケースもあるかもしれません。
メンバーシップ人材の方からすれば、「少しくらい手伝ってくれてもいいじゃないか!?」と感じるケースもあるかもしれません。
 
 
繰り返しになりますが、ジョブ型人材を制度として企業内に取り入れると言っても、実際には、メンバーシップ型人材との共存することになるケースがほとんどでしょう。
ということは、余計な軋轢を避け、お互いの働き方を尊重するためには、ジョブ型人材制度の内容を、すべての社員が知識として、きちんと理解しておく必要があります。
 
そして、もうひとつ大切なこと。
それは、「なぜ、ジョブ型人材という制度を、社内に取り入れたのか?」という理由でありビジョンを、経営陣が社員に対し、きちんと示すことが必要です。
 
ジョブ型人材を、知識として頭でっかちに理解したつもりになっただけでは、もしかしたら、ジョブ型人材とメンバーシップ型人材の間に、感情的な溝を作ってしまうかもしれませんから。
「なぜジョブ型人材という新たな文化を取り入れたのか」、経営者は、経営者の責任として、きちんとビジョンを示し、心でも納得がいき、感情的な溝を発生させないように、環境を整えておく必要があります。
 
 
 

ジョブ型人材は、被雇用者にとってメリットがあるのか?

 
では、社員の側(被雇用者)にとって、ジョブ型人材として働くメリットとはなんでしょうか。
参考として、ファーストリテイリング(ユニクロ)で掲載されていたジョブ型人材の採用条件を紹介しましょう。
(※現在は掲載されていません)
 

『【求人情報詳細】データサイエンティスト(機械学習・数理最適化』
 
・キャリアパス
改革・成長を続けるファーストリテイリングには、ヒト、モノ、カネ、情報、いずれの切り口でも、経営に携わる機会が国内外にあります。
ご自身の専門領域の追及による、課題解決のスペシャリストとしてのキャリアに加え、会社の経営を担うマネジメント、他部門・他領域へのチャレンジなど、活躍機会は無数に広がります。
 
・年収
870万円~2000万円

 
これは、先鋭的な例であり、極端な例であることは、ご承知くださいね。
すべてのジョブ型人材が、このような高待遇の求人条件ではありません。
 
自分の能力を磨き、自身のキャリアパスを、自らのチカラで切り拓く可能性を得ることが、ジョブ型人材として働く、最大のメリットであることは、確かです。
 
ただし、中途半端な能力、中途半端な心意気で、ジョブ型人材を志しても、おそらく途中で挫折するでしょう。ジョブ型人材とは、結果を出して初めて価値を認めてもらえるものなのですから。
 
「他の仕事をしなくてもいいんだったら、ジョブ型人材のほうが楽だよね」くらいの安易な気持ちだとしたら、間違いなく挫折すると、私は思います。
 
 
 

ジョブ型人材は企業に何をもたらすのか

 
優れた人材を確保することは、企業には、とても大切なことです。
と同時に、企業にとっては、課題でもあります。
 
ところで、「優れた人材」って、どういうことなのでしょう。
こんな方程式があります。
 

『個人のチカラ=最大出力×発揮率』

 
優れた素質を備えていたとしても、その能力を十分に出せない人は、優れた人材とは言えません。
逆に、多少素質は劣っていたとしても、本気で仕事と向き合い、持てるチカラを遺憾なく発揮する人は、結果を残すものです。
 
企業の立場から、ジョブ型人材のメリットを考えると、先の方程式におけるふたつのファクター、つまり「最大出力」と「発揮率」の双方を、効率よく高め、優れた人材を確保するための方策という側面もあるでしょう。
 
 
これは、私見ですが。
働き方の選択肢が増えることは、労使双方にとって、メリットのあることです。
 
「和を以て貴しとなす」を是とする、サラリーマンライフを選ばざるを得なかった人。
メンバーシップ型人材という、企業文化を受け入れる選択しかなかった人。
 
サラリーマン(被雇用者)からすれば、選択肢の少なさが、働き方と人生に対する満足度を下げる要因のひとつになりうるわけです。
 
企業からすれば、これまでは都合の良かったメンバーシップ型人材という企業文化が、ここ最近になって、実は不都合が生じてきたという現実もあるでしょう。
ジョブ型人材を制度として採用することで、チカラを存分にふるう人材があらわれることも、期待したいところです。
 
 
ジョブ型人材は、欧米では広く知られているものの、日本では、まだ発展途上だと言われています。
ですが、これから、日本企業においても、ジョブ型人材は、広まっていくでしょうね。
まだまだ課題も多いジョブ型人材ですが、企業、被雇用者の双方に、間違いなくジョブ型人材へのニーズは存在するのですから。
 
 
 

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