秋元通信

日本型企業文化が終わる? 「ジョブ型人材」とは【前編】

  • 2021.2.17

現代型のサラリーマン像ができあがったのは、1970年前後、高度成長期なのでしょうか。
仕事内容はもとより、転勤など、プライベートを侵食する場合でも、会社の命令に対し、「はい、分かりました!」と元気よく(…?)答え、会社のために働いていく…。
 
ですが、ここ数年、これまでのサラリーマン像、もっと言えば「サラリーマンらしい働き方」と思われていたことに対し、いくつもハテナが付き始めています。
過去のメルマガ『秋元通信』でも、スペシャリスト制度、働き方改革、Society5.0 ワーク・ライフ・インテグレーションなど、今までの、言わば常識的なサラリーマン・ライフに対して再考する材料となる、新たな考え方やルールを取り上げてきました。
 
そして、新型コロナウイルスです。
テレワークの促進など、これまでの常識にとらわれず、新たな雇用、働き方などを考えざるを得ない状況になってきています。
 
今回は、サラリーマンの新たな働き方である、ジョブ型人材について、前後編に分けて考えていきましょう。
 
 
 

ジョブ型人材とは

 
ジョブ型人材(もしくは、「ジョブ型雇用」)とは、職務内容を会社と、被雇用者(社員)がしっかり規定した上で、雇用契約を結んだ人材、もしくは雇用形態を指します。
 
対して、従来型の、つまり総合職など、職務内容を限定せずに雇用する形を、メンバーシップ型雇用と呼びます。
 
このように言うと、「なんだ、うちが『倉庫作業員募集』と言って採用するのと変わらないね!?」と思う方もいるかもしれませんが。
倉庫作業員の場合、基本的には最初の配属を指定しているだけです。厳密に、求められる職務内容を定義しているわけではないでしょう。
 
 
ジョブ型人材を雇用する場合、ジョブディスクリプション(職務記述書)が必要となります。
ジョブディスクリプションでは、以下のような内容をしっかりと定義しておく必要があります。

  • 職務の目的
  • 職務の具体的な内容
  • 目標や評価基準
  • 職務遂行における責任の範囲
  • 職務権限の範囲
  • 必要とされる知識やスキル(資格など)、もしくは経験

 
メンバーシップ型人材に比べ、ジョブ型人材は、より完成されたスキルを求められます。ジョブ型人材の場合、求められる伸びしろは限定されます。
イメージ的には、「今のシステムエンジニアとしての点数は60点くらいだけど、30歳までには85点くらいになってくれるであろう」といった考え方です。
 
メンバーシップ型人材のような、「倉庫作業員として下積みを経験させて、将来は所長候補に育ってくれれば…」といった類の伸びしろは、ジョブ型人材には求めません。
 
 
 

なぜ、ジョブ型人材が求められるのか?

 
いくつか理由はあるのでしょうが…。

  1. 専門的かつ高度な能力を持つ、専門人材の必要性が高まっている。
  2. テレワークなどを背景に、より客観的かつ絶対的な人事評価制度が求められている。
  3. 給与を上げやすい(≒社員のモチベーションを上げやすい)。

 
 

1.専門的かつ高度な能力を持つ、専門人材の必要性が高まっている

 
例えば、RPA。
自社でRPAを導入する際に、総務の若手に「ちょっとRPAを勉強してきてよ」なんて言ったところで、残念ながら本当に役に立つRPA人材を育てるのは難しいです。
 
腰掛けじゃ駄目なんですよね、残念ながら。
確かに、今までであれば、適当な内勤職の若手なんかに、「ちょっと必要になったから。毒物劇物取扱者の資格取って来てよ」なんていうあいまいなことが、まかりとおったかもしれませんが。
 
RPA、AI、ビッグデータ(データサイエンティスト)、もしくはDXなどは、極めて高度な知識と、その専門職務に集中できる職場環境を整えなければ、けっきょく中途半端で終わってしまいます。
 
社内で育成するのも、難しいです。
だったら、あらかじめその道のスペシャリストを雇用したほうが早いです。
 
 

2.テレワークなどを背景に、より客観的かつ明快な人事評価制度が求められている

 
 
いや、もともと、「より客観的かつ明快な人事制度」に対する要求は、近年高まっていましたが。新型コロナウイルスをきっかけに、テレワークを行う企業が増えたこともあり、人事評価制度に求められる精度であり、客観性が高まったと考えるべきでしょう。
 
これは、以前取り上げたOKRのような、新たな目標管理手法が必要とされる背景にもあるのですが。
 

関連記事:
『Googleやメルカリが活用!目標管理手法OKRとはなんぞや』

 
目標数値を絶対的価値として信頼する、実力主義、成果主義などは、さまざまな弊害を生みました。日本郵政がやらかした、生命保険の不正契約や年賀はがきの自爆営業などは、弊害の最たる例でしょう。
 
お金(売上や利益)を目標とすることは、分かりやすいですが、社員に対する正当な評価足り得るか?、と言えば、ちょっと疑問です。
結局、お金の結果は、総合的なサラリーマン活動を行った結果の一部でしかないですから。
 
だったら、「総合的なサラリーマン活動」ではなく、職務を限定してあげれば、評価の精度も客観性も上がります。逆に、評価の精度を上げられるように、ジョブディスクリプションに記載する職務内容を限定してあげることだってできるわけです。
 
 

3.給与を上げやすい(≒社員のモチベーションを上げやすい)

 
あくまでも一般論ではありますが、メンバーシップ型人材に比べ、ジョブ型人材は、評価基準が明確なので、給与をアップしやすいと言われています。
 
メンバーシップ型人材を旨とする給与体系の場合、主任→係長→課長→部長…、といった役職に加え、各役職においてレベル分け(ひとつの役職内で、基本給テーブルを5段階にわけるなど)するケースが一般的でしょう。歩合給や、手当は別としてです。
ただし、昇進について、第三者にも理解と判断が可能な、客観的で精度も高い、明快な基準を設けているケースは、まれなのではないでしょうか。
 
ジョブ型人材の場合、あらかじめ職務内容を詳細に決めておくので、成果も出しやすく、また給与にも反映させやすい…、という理屈です。
ただし、企業のお財布(人件費)の大きさは変わらないわけですから、無制限に給与をアップできるわけではありません。当然ですね。
 
一方で、成果に応じた給与アップも、あらかじめデザインしやすいため、モチベーションアップの効果があるのは、確かなのかもしれません。
 
 
と、ここまでジョブ型人材について、その内容を説明してきました。
このように書くと、「ジョブ型人材って、ずいぶんと良さそうだな…」と思う方もいるかもしれませんが。
良くも悪くも、日本の企業文化を踏襲してきた企業、もしくはサラリーマンにとっては、メリットばかりではありません。当然、課題もあります。
 
後編では、ジョブ型人材の課題を、企業とサラリーマン(被雇用者)双方の立場から考えていきましょう。
 
 
 


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