執筆した記事において、後から取材先企業の方の写真が欲しいということになり、撮影追加のお願いをしたことがありました。
お願いしたのは、ある大企業の役員です。
とは言え、欲しいのはポートレート的な写真ではなく、会話をしている、自然体の写真なので、雑談をしながら撮影させてほしいとお願いしたのですが。
「雑談に取り上げるテーマについて事前に教えてください。質問も箇条書きでお願いします」
こんなふうに言われてしまいました。
驚きましたね。
雑談って、その場の流れで会話するから雑談であって、事前にテーマを設定するとか、そもそも質問を事前連絡するとか、まるでナンセンスです。
もっと言えば、仮にも数千人の従業員を抱える大企業の役員が、雑談を行うトーク力すら持ち得ていないのでしょうか??
2020年の春頃、つまり新型コロナウイルスが私たちの生活に深刻な影響をもたらし始めた頃、テレワークをテーマにしたセミナーがいくつも開催されました。
筆者も、複数のセミナーに参加したのですが、一番印象に残っているのは、Googleのセミナーです。
- オンラインミーティングの最初10分間は、雑談をする。いきなり仕事の話を始めるのは禁止。
- 子供やペットの乱入は大歓迎。
- 背景は基本的に隠さない。むしろ、いつもの部屋の様子をそのまま見せることが望ましい。
Googleは、雑談によって生じる心理的安全性や連帯感、仲間意識などを大切に考えているからこそ、雑談を大切にし、また雑談が生まれやすい状況を意図的に保護しようと考えているわけです。
一方で、最近では雑談を一切行わず、いきなり本題に入るようなオンラインミーティングの進め方をする人や会社も増えています。
さらに言えば、これってオンラインだけの話ではありません。
大企業などでは、最近会議室をギチギチに予約管理しているケースがあります。入退室やら名刺交換の時間も含めて60分で管理しているような会社の場合、物理的に雑談をしている暇がなかったりします。
中には、会議室に併設して、フリーで使えるカフェ的なスペースを用意している会社もあり、時間内で収まらなかったときには、打ち合わせを継続できるようにしているのですが。こういう会社は、まだまだ少数ですね。
シカゴ大学ブース・ビジネススクールのニコラス・エプリー教授は、雑談や会話について、「人間関係のイロハを学ぶ大切なトレーニング」であり、「人と人をくっつける磁石」と解説します。
当たり前といえば当たり前です。
人は、嫌いな人とは一緒に仕事をしにくいですし、良い仕事をしようとすれば、仲間のことをより良く知ることが必要になってきます。
人は感情を切り離して仕事をすることはできません。
居心地の悪いコミュニティの中で良い仕事ができるわけもありませんし、嫌いな相手とはどうしても仕事がしにくいと感じてしまうものです。
人間関係を良好に保つために、必要なもの。
それが雑談なのです。
テレワークを行っている企業では、雑談のためのオンラインルームを常設することを行い始めているところがあります。
この雑談ルームは、常に開設されていて、誰がいつ入室しても良いとされています。休憩時間に入室する社員もいれば、仕事をしながら入室する人もいて、自らは会話することなく、他の人の会話を聞いているだけの人もOKだったりします。
また、上司と部下、もしくは先輩と後輩、同僚同士などのテーマのない会話を義務付けているところもあります。
頻度は週一が多いみたいです。
これも、素敵な取り組みだと感じます。
雑談”力”と申し上げましたが、本来、雑談とは人と人が対面することで、自然発生するもののはず。もちろん、初対面の人とは難しいです。それは、初対面の人の場合、お互いの雑談が交錯するポイントが見えないからです。
あえて言えば、雑談力とは直感的に、またそのときの状況から適切な雑談テーマを感じ取り、会話としてキャッチボールできる能力と言っても良いかもしれません。
新型コロナウイルスは、私たちの日常を大きく変えました。
その影響は…、やはりネガティブな変化の方が多いでしょう。雑談力も、そのひとつなのでしょう。
「最近、どうも職場や仕事上のコミュニケーションに問題を感じるんだよな」──そんな心当たりのある方、企業は、雑談力を強化するための場、雑談を行うことができる場を、意図的に設けたほうが良いかもしれませんね。