秋元通信

「人は静かに溺れる」、知らないと怖い、「溺水反応」について解説

  • 2023.8.10


 
 
筆者は、中学生の頃、水泳部に所属していました。
 
夏休みは、早朝から市内の他中学校と合同練習を行い、いったん朝食を取るために帰宅した後は、自身の中学校で練習、弁当で昼食をとった後は、学校プールの一般開放における監視員業務(※なぜか水泳部部員の義務でした)をこなし、また夕方から練習するという、プール漬けの一日を過ごしていました。
 
いつもどおり、プールの一般開放を監視員業務をしていた、ある日のことです。
一緒に監視業務を行っていた体育の先生と雑談をしながらプールを眺めていたのですが。
 
「あいつ、もしかして溺れてる…?」、先生が指さした先には、同級生がいました。
 
「なんかひとりではしゃいでいるようにも見えますけど…」、僕の言葉に、先生もうなづきました。
 
傍目から見ると、声を上げるわけでもなく、ひとりバシャバシャしているだけのように見えます。
 
「…、やはり心配だな。ちょっと行ってくるわ。お前はここから見ていてくれ」
 
本当におぼれていて、かつ水中に沈んでしまった場合には、プールの中にいる人では沈んだ場所の特定に時間がかかる場合があります。そのことは、監視員業務を行うときに先生から言われていました。
 
先生が同級生を助けると、やはり当人は溺れていました。
 
「お前さぁ、『やばい!』と思ったら声を上げろよ!」、そう言う先生に、彼は真っ青な顔でこのように答えました。
 
「…、足がつったと思ったら、後はもうわけが分からなくて…」
 
 
 

「静かに溺れる」、溺水反応とは

 
人気のアニメ「スパイファミリー」において、主人公がプールで溺れた少年を救助するシーンが話題になりました。
 
アニメ中では、周囲に気づかれることなくプールに落水した少年が、そのまま静かに水中に沈んでいく様子が描かれています。
 
「溺水反応ってやつですよ。
 子どもが溺れる時って意外と静かなんです。誰にも気付かれず亡くなるケースが多い。目を離さないであげてください」
 
救助された少年を抱きしめて泣く保護者に対し、主人公はこのように声をかけます。
 
 
このシーンは、ネットでも注目を集めました。
 

 
記事には、このように書かれています。
 

「このシーン(※スパイファミリー内で子どもが溺れるシーン)は、編集担当者が子育てについて調べていたとき、たまたまこうした現象があることを知り、著者の遠藤達哉さんに注意喚起のためにも描いてほしいと熱弁したのがきっかけだったそうです」

 
 
ドラマや映画などで描かれる「溺れる人」は、大声で助けを求めながら手足をバタバタさせ、大きな水しぶきをあげます。
 
ところが、実際に溺れる人は…
 

  • 呼吸をすることに精一杯で、大きな声を出す余裕がない。
  •  

  • パニックになってしまい、現状把握ができなくなる。結果、「救いを求める」あるいは「浮き上がろうとする」といった行動を取ることができず、そのまま溺れていく。

 
こういったことが、「静かに溺れる」溺水反応につながると考えられています。
筆者の同級生も、こういった状況だったのでしょう。
 
 
 

膝下しかない水位の川でも溺れる?

 
「人は膝までの水位しかない川や海でも溺れることがある」、このような注意を聞いたことがありませんか?
 
「赤ちゃんや幼児ならばともかく、ある程度年齢がいけば、そんな低い水位で溺れることはないはずだよ」、このように考える人も少なくないでしょう。
 
膝下、すなわち顔がぎりぎり浸かるような水位の川や海で溺れる理由としては、いくつか説があります。
 

  • 川のような流れのあるシチュエーションでは、転んでしまうと身体の上を水が流れる。その流れ(水圧)によって、容易に身体を引き起こせなくなる。
  •  

  • 転ぶなどして、急に水の中に頭が浸かった場合、耳の中(外耳)に水が入ってくることがある。人は外耳に急に液体が入ってくると、方向感覚(天地の方向)を失ったり、めまいを起こすことがある。そのため、水面上に顔を出すという、適切な行動が取れなくなる。

 
このような事情に加え、川底や海底は平らとは限らないため、身体を引き起こそうとしても手足が滑ってしまい、うまくいかないケースもあるでしょう。
だからこそ、特に子どもが川や海で水遊びをする際には、必ずライフジャケットを着用するようにしましょう。
 
「こんな浅い川(海)で溺れるわけがない」という先入観や思い込みは、とても危険です。
同様に、「溺れる際には、きっと大騒ぎして、周囲が気づくはずだ」という誤った認識も危険です。
 
知識はチカラです。
溺水反応など、水の事故に対する正しい知識を身につけて、大切な人を守りたいものです。
 
 
 


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