秋元通信

「2024年で対策が終わりということではなく『始まり』である」、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」最終取りまとめを紐解く

  • 2023.9.12

『秋元通信』ではこれまでも「持続可能な物流の実現に向けた検討会」について、その取り組みや検討状況をご紹介してきました。
 

 
先日、その最終取りまとめが発表されました。
秋元通信流に紐解きましょう。
 
 
 

最終取りまとめの位置づけ

 
「2030年度には34.1%(9.4億トン)の貨物が運べなくなる」──一般メディアなどでも何度も取り上げられている、この物流クライシスを端的に表現した言葉も、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」から発信されたものでした。
 
ただし、今年に入ってから、「物流革新に向けた政策パッケージ」(内閣官房)、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(経済産業省・農林水産省・国土交通省)が発表され、またこれからも物流に関するさまざまなガイドラインが発表されていくでしょう。
 
その意味で、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」は既に役目を終えています。
最終取りまとめは、11回にわたって議論されてきた本会のエッセンスを凝縮したものであると同時に、今後発表される各種ガイドラインや政策の方向性に対する同検討会の希望を示したものとなっています。
 
 
 

最終取りまとめが、「持続可能な物流の実現のために取り組むべき政策」として挙げたポイント

 

  1. 荷主企業や消費者の意識改革
  2. 物流プロセスの課題の解決(非効率な商慣習・構造是正、取引の適正化、着荷主の協力)
  3. 物流標準化・効率化(省力化・省エネ化・脱炭素化)の推進に向けた環境整備

 
この大項目3つの下に、計15の小項目を挙げています。
どれもが大切な内容ですが、筆者が特に注目したのは、2.の中にある、「契約条件の明確化、多重下請構造の是正等の運賃適性収受に資する措置の検討」です。
 
ここでは、「多重下請構造の是正」を行うための具体的な方法として、下請事業者をリスト化した「運送体制台帳」のイメージが掲載されています。
 

「持続可能な物流の実現に向けた検討会」最終取りまとめで挙げられた、「運送体制台帳」のイメージ

「持続可能な物流の実現に向けた検討会」最終取りまとめで挙げられた、「運送体制台帳」のイメージ


 
「事業者名」「何次下請けなのか?」「許可番号」「契約内容」「社会保険等の加入状況」が並ぶ「運送体制台帳」は、建設業法を参考にしたそうです。
 
多重下請構造の是正方針については、全日本トラック協会が、「2次下請けまでに制限する」(「トラック運送業における適正取引推進、生産性向上及び長時間労働抑制に向けた自主行動計画」(全日本トラック協会、2017年3月9日))なんていう思い切った(乱暴な?)方針を挙げています。
こちらではより現実的な方針として、「トラック業界においては、業務の繁閑の差が激しく、全ての輸送業務を自ら実施することができずに、一部の輸送業務を下請け事業者に委託せざるを得ない場合もあるという業界の特性も配慮する必要がある」という現実的な指摘をした上で、運送体制台帳なる対策を提示し、さらに「運送体制台帳事項については、トラック事業者にとって過度な負担とならないようにすべき」とも指摘しています。
 
これ、どうなるんでしょうね。
今後出てくるガイドラインを注視しましょう。
 
 
また、最終取りまとめには、業界に対するアメとムチの必要性が何度も登場します。
 

「荷主企業・物流事業者による物流改善の取組・実施状況が、消費者や市場からの評価につながるように、物流改善の取組等についてランク評価を行う等、取組を進めるインセンティブとなる仕組みを創設すること」

 
これはアメでしょうね。
 
 

「(中略)荷主企業や、(中略)物流事業者に対して、(中略)実効性確保の手段として取組状況が著しく不十分な場合には勧告、措置命令等を行う法的措置について、具体的な検討を進めるべきである」

 

「適正な運賃収受や物流負荷軽減等の取組を阻害する荷主企業や元請事業者の企業名に関して公表を行うことが有用ではないか」

 
これはムチですね。
 
中間とりまとめでは、曖昧にしていた荷主に対するペナルティについて、しっかりと「必要である」と明記したことは、評価に値するでしょう。
 
 
その他にも、明確に名指しはしていないものの、「ジャストインタイム」について見直しを求めていること。
「送料無料」表示に対し、「BtoC物流においても負担やコストの可視化と、これを前提とした選択肢の消費者への提示を進めるべき」と踏み込んだこと。
「メニュープライシング」や「ダイナミックプライシング」といった新たな運賃の形であり、物流コスト可視化のあり方を指摘していること。
 
こういった、より具体的なところに踏み込んだ姿勢は、評価すべきでしょう。
 
 
 

「2024年で対策が終わりということではなく『始まり』である」

 

「物流の担い手不足やカーボンニュートラルへの対応などを踏まえると、物流の持続可能性の実現に向けて2024年で対策が終わりということではなく『始まり』であり、これからも提示した政策について、新技術を活用し、取り組みを発展させながら継続的に取り組む必要がある」

 
最終取りまとめではこのように指摘した上で、「物流事業者が提供価値に応じた適正対価を収受するとともに、物流事業者、荷主企業・消費者、経済社会の”三方良し”を目指す」べきであるとまとめています。
 
これは、とても重要な視点でしょう。
 
筆者も仕事柄、「2024年4月1日を境に、物流業界は変わりますかね?」と聞かれることがあります。
「物流の2024年問題」という言葉が誤解を呼んでいるのかもしれませんが、最終取りまとめで指摘しているとおり、2024年は「終わり」ではなく、「始まり」なんですよね。
 
これから物流業界は、大きく変化していくことでしょう。
私ども物流事業者の立場としては、少なくとも、この流れに取り残されることだけは避けたいものです。
 
 
 


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