秋元通信

岸田内閣が発表した「物流革新緊急パッケージ」を秋元通信流に読み解く

  • 2023.10.30

去る2023年10月6日、岸田文雄首相は、「物流革新緊急パッケージ」を発表しました。
物流企業は、絶対に避けては通れない、今後の物流政策の礎となるこれを、秋元通信流に解説しましょう。
 
 
 

そもそも、「物流革新緊急パッケージ」って

 
「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対して、政府は現時点で、以下の穂対策を挙げています。
 

  1. 2023年6月2日に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ
  2.  

  3. 2023年6月2日(※1.と同日)に発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン
  4.  

  5. 2023年10月6日に発表された「物流革新緊急パッケージ」

 
「物流革新緊急パッケージ」は、特に「即効性が高いもの」をまとめたものであり、また「物流革新に向けた政策パッケージ」の各施策を進化・統合させたものです。
 
 
 

「物流革新に向けた政策パッケージ」と「物流革新緊急パッケージ」、内容の違いは?

 
ちなみに、「物流革新に向けた政策パッケージ」で取り上げられた施策は、24項目。
対して、「物流革新緊急パッケージ」で取り上げられた施策は、13項目です。
 
この差分は、以下に分類されます。
 

  • 施策が統合された施策
    「政策パッケージ」(6月)では複数項目だったものの、「緊急パッケージ」(10月発表)では、まとめられた(統合された)された施策です。
  •  
    例えば、「緊急パッケージ」(10月)では、以下の施策は統合されています。

    • 「即効性のある設備投資の促進(バース予約システム、フォークリフト導入、自動化・機械化等)」
    • 「『物流DX』」の推進(自動運転、ドローン物流、自動配送ロボット、港湾AIターミナル、サイバーポート、フィジカルインターネット等)」は統合されています。

 

  • 「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に含まれる施策
    「政策パッケージ」(6月)と同日発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に含まれるため、「緊急パッケージ」(10月発表)からは省かれたされた施策。

    例えば、荷待ち・荷役時間を2時間以内に収めなさいという、2時間以内ルールはこのガイドラインに記されているので「緊急パッケージ」(10月発表)には掲載されていません。

  •  

  • 「政策パッケージ」(6月)には掲載されたものの、「緊急パッケージ」(10月発表)ではスルーされた施策。

 
 
 

「物流革新緊急パッケージ」(10月発表)で取り上げられた施策

 

  1. 物流の効率化
    1. 即効性のある設備投資・物流DXの推進
    2. 倉庫の自動化・機械化。ドローン物流の推進。港湾物流のDX化。自動運転の実証実験。
    3. モーダルシフトの推進
    4. 鉄道・内航の輸送分担率を10年で倍増。31ftコンテナの利用拡大(中長期的には40ftコンテナも利用拡大)
    5. トラック運転手の労働負担の軽減、担い手の多様化の推進
    6. ドライバーの負担軽減のための機器・システムの導入推進。ドライバーに対する免許取得等のスキルアップを支援。
    7. 物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援
    8. 中継輸送拠点の整備や、高速道におけるSA・PAの大型トラック用駐車マスの拡充など。
    9. 標準仕様のパレット導入や物流データの標準化・連携の促進
    10. 燃油価格高騰等を踏まえた物流GXの推進(物流拠点の脱炭素化、車両のEV化等)
    11. 高速道路料金の大口・多頻度割引の拡充措置の継続
    12. 道路情報の電子化の推進等による特殊車両通行制度の利便性向上

     

  2. 荷主・消費者の行動変容
    1. 宅配の再配達率を半減する緊急的な取組
    2. 置き配(置き配ポイント)やコンビニ受け取り、あるいは「ゆとりある配送日時の指定」を行うことで、現状の再配達率12%を6%に半減させる。

     

  3. 政府広報やメディアを通じた意識改革・行動変容の促進強化
    1. 商慣行の見直し
    2. トラックGメンによる荷主・元請事業者の監視体制の強化(「集中監視月間」(11~12月)の創設)
    3. 現下の物価動向の反映や荷待ち・荷役の対価等の加算による「標準的な運賃」の引き上げ(年内に対応予定)
    4. 適正な運賃の収受、賃上げ等に向け、次期通常国会での法制化を推進
    5. 大手荷主・物流事業者に対し、荷待ち・荷役時間の短縮に向けた計画作成を義務付け。大手荷主における物流経営責任者選任の義務付け。多重下請け構造是正のための実運送体制管理簿の作成。契約時の(電子)書面交付の義務付け。

 
 
一般メディアでは、2.1「宅配の再配達率を半減する緊急的な取組」で取り上げられた置き配ポイントばかりが報道されていますが、実際にはこれだけの対策が挙げられているわけです。
 
気になるのは、この順番です。
「緊急パッケージ」(10月)の目的を考えると、先に挙げられた施策の方が、より「即効性が高いもの」と考えられているはずです。
 

  • 「政策パッケージ」(6月)における大項目の順番
    1. 「商慣行の見直し」
    2. 「物流の効率化」
    3. 「荷主・消費者の行動変容」

     

  • 「緊急パッケージ」(10月発表)における大項目の順番
    1. 「物流の効率化」
    2. 「荷主・消費者の行動変容」
    3. 「商慣行の見直し」

 
「商慣行の見直し」は重要度は高いものの、即効性は低いと考えられたのでしょうね。
対して、自動運転やドローン配送を含む、「物流の効率化」が一番最初にされたのは、やはりテクノロジー系施策のほうが、即効性が高いと考えられたのでしょう。
 
 
 

「物流革新緊急パッケージ」(10月発表)に取り上げられなかった施策

 
「緊急パッケージ」(10月発表)でも、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」でも取り上げられなかった項目を挙げておきましょう。
 

  1. 高速道路のトラック速度規制(80km/h)の引上げ
  2. ダブル連結トラックの導入促進
  3. 貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し
  4. 地域物流等における共同輸配送の促進
  5. 荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設

 
筆者が一番解せないのは、5.が取り上げられなかったことです。
アメとムチの、ムチの方の施策がきちんと取り上げられているだけに、「これはどうなんだろう??」と思ってしまいます。
 
2.と4.は、そうは言っても限られた事業者の取り組みですから、政策に反映するのを見送った可能性があります。
3.は、すぐにでも行ってほしいと思うのですが。やはり難しいんですかね。
1.は…、そもそも批判も多かった施策ですが、そのあたりの声が反映されたのでしょうか。
 
 
6月に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」と、10月に発表された「物流革新緊急パッケージ」は、それぞれ来年1月の通常国会において審議され、法制化されます。
 
どのような流れになっていくのか、今後も注視しなければなりません。


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