去る2023年10月6日、岸田文雄首相は、「物流革新緊急パッケージ」を発表しました。
物流企業は、絶対に避けては通れない、今後の物流政策の礎となるこれを、秋元通信流に解説しましょう。
「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対して、政府は現時点で、以下の穂対策を挙げています。
- 2023年6月2日に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」
- 2023年6月2日(※1.と同日)に発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」
- 2023年10月6日に発表された「物流革新緊急パッケージ」
「物流革新緊急パッケージ」は、特に「即効性が高いもの」をまとめたものであり、また「物流革新に向けた政策パッケージ」の各施策を進化・統合させたものです。
ちなみに、「物流革新に向けた政策パッケージ」で取り上げられた施策は、24項目。
対して、「物流革新緊急パッケージ」で取り上げられた施策は、13項目です。
この差分は、以下に分類されます。
- 施策が統合された施策
「政策パッケージ」(6月)では複数項目だったものの、「緊急パッケージ」(10月発表)では、まとめられた(統合された)された施策です。 - 「即効性のある設備投資の促進(バース予約システム、フォークリフト導入、自動化・機械化等)」
- 「『物流DX』」の推進(自動運転、ドローン物流、自動配送ロボット、港湾AIターミナル、サイバーポート、フィジカルインターネット等)」は統合されています。
例えば、「緊急パッケージ」(10月)では、以下の施策は統合されています。
- 「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に含まれる施策
「政策パッケージ」(6月)と同日発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に含まれるため、「緊急パッケージ」(10月発表)からは省かれたされた施策。例えば、荷待ち・荷役時間を2時間以内に収めなさいという、2時間以内ルールはこのガイドラインに記されているので「緊急パッケージ」(10月発表)には掲載されていません。
- 「政策パッケージ」(6月)には掲載されたものの、「緊急パッケージ」(10月発表)ではスルーされた施策。
- 物流の効率化
- 即効性のある設備投資・物流DXの推進
- 倉庫の自動化・機械化。ドローン物流の推進。港湾物流のDX化。自動運転の実証実験。
- モーダルシフトの推進
- 鉄道・内航の輸送分担率を10年で倍増。31ftコンテナの利用拡大(中長期的には40ftコンテナも利用拡大)
- トラック運転手の労働負担の軽減、担い手の多様化の推進
- ドライバーの負担軽減のための機器・システムの導入推進。ドライバーに対する免許取得等のスキルアップを支援。
- 物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援
- 中継輸送拠点の整備や、高速道におけるSA・PAの大型トラック用駐車マスの拡充など。
- 標準仕様のパレット導入や物流データの標準化・連携の促進
- 燃油価格高騰等を踏まえた物流GXの推進(物流拠点の脱炭素化、車両のEV化等)
- 高速道路料金の大口・多頻度割引の拡充措置の継続
- 道路情報の電子化の推進等による特殊車両通行制度の利便性向上
- 荷主・消費者の行動変容
- 宅配の再配達率を半減する緊急的な取組
- 置き配(置き配ポイント)やコンビニ受け取り、あるいは「ゆとりある配送日時の指定」を行うことで、現状の再配達率12%を6%に半減させる。
- 政府広報やメディアを通じた意識改革・行動変容の促進強化
- 商慣行の見直し
- トラックGメンによる荷主・元請事業者の監視体制の強化(「集中監視月間」(11~12月)の創設)
- 現下の物価動向の反映や荷待ち・荷役の対価等の加算による「標準的な運賃」の引き上げ(年内に対応予定)
- 適正な運賃の収受、賃上げ等に向け、次期通常国会での法制化を推進
- 大手荷主・物流事業者に対し、荷待ち・荷役時間の短縮に向けた計画作成を義務付け。大手荷主における物流経営責任者選任の義務付け。多重下請け構造是正のための実運送体制管理簿の作成。契約時の(電子)書面交付の義務付け。
一般メディアでは、2.1「宅配の再配達率を半減する緊急的な取組」で取り上げられた置き配ポイントばかりが報道されていますが、実際にはこれだけの対策が挙げられているわけです。
気になるのは、この順番です。
「緊急パッケージ」(10月)の目的を考えると、先に挙げられた施策の方が、より「即効性が高いもの」と考えられているはずです。
- 「政策パッケージ」(6月)における大項目の順番
- 「商慣行の見直し」
- 「物流の効率化」
- 「荷主・消費者の行動変容」
- 「緊急パッケージ」(10月発表)における大項目の順番
- 「物流の効率化」
- 「荷主・消費者の行動変容」
- 「商慣行の見直し」
「商慣行の見直し」は重要度は高いものの、即効性は低いと考えられたのでしょうね。
対して、自動運転やドローン配送を含む、「物流の効率化」が一番最初にされたのは、やはりテクノロジー系施策のほうが、即効性が高いと考えられたのでしょう。
「緊急パッケージ」(10月発表)でも、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」でも取り上げられなかった項目を挙げておきましょう。
- 高速道路のトラック速度規制(80km/h)の引上げ
- ダブル連結トラックの導入促進
- 貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し
- 地域物流等における共同輸配送の促進
- 荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設
筆者が一番解せないのは、5.が取り上げられなかったことです。
アメとムチの、ムチの方の施策がきちんと取り上げられているだけに、「これはどうなんだろう??」と思ってしまいます。
2.と4.は、そうは言っても限られた事業者の取り組みですから、政策に反映するのを見送った可能性があります。
3.は、すぐにでも行ってほしいと思うのですが。やはり難しいんですかね。
1.は…、そもそも批判も多かった施策ですが、そのあたりの声が反映されたのでしょうか。
6月に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」と、10月に発表された「物流革新緊急パッケージ」は、それぞれ来年1月の通常国会において審議され、法制化されます。
どのような流れになっていくのか、今後も注視しなければなりません。